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第三話:焔の中の残響


夏の暑さなんて、俺のアパートに響く焔華の声に比べりゃ屁でもねぇ。新型エアコンのブーンって音と、冷凍たこ焼きをチンするレンジのピピッって音が、なんかもう日常になってきた。俺、ヨシノブ、21歳、国立大の3年生。こんなクソ田舎で、1400年前の大妖怪とルームシェアする羽目になるとか、人生ってマジで何が起こるか分かんねぇな。


「ヨシノブ、のう! 妾のたこ焼き、早くせんか! マヨネーズをドバドバかけて出すのじゃ! 遅れたらお主のその貧相な腕を、しかたなくガブリと喰ってやるぞよ!」


焔華がソファにドカッと座って、細い足をバタバタさせて叫ぶ。銀髪がエアコンの風にサラサラ揺れて、赤い目がギラリと俺を射抜く。俺のダボダボTシャツを着たその姿、10歳くらいのガキにしか見えねぇのに、なんか……いや、ダメだ、可愛いとか思ったら終わりだ! コイツ、ムロマチ時代に山を焼き尽くした大妖怪、焔華だぞ。いざとなったらマジで喰われるだろ!


「はいはい、たこ焼き、チンしたてだぞ。マヨネーズもたっぷりな」


俺は、レンジから取り出した熱々のたこ焼きにマヨネーズをドロドロかけて、焔華の前にドンと置く。ソースとマヨの匂いがムワッと部屋に広がって、俺の腹までグウッと鳴りそうになる。焔華は、たこ焼きをパクッと頬張って、ホフホフしながらニヤリと犬歯を見せる。


「うむ! このたこ焼きの熱さとマヨネーズのコク、たまらんのじゃ! 人間とはわからぬものじゃ。たった1400年でこんな美味いもんを作るとは、なかなかやるのう!」


焔華の赤い目がキラキラ輝いて、まるで子供みたいに無邪気だ。けど、その目は、どっか獣っぽい光がチラつく。コイツ、コンビニの冷凍食品にハマりすぎだろ。結構たけえんだぞ。昨日はチャーハンをバクバク食って、ギョウザも一袋ペロリと平らげやがった。1400年封印されてた妖怪が、コンビニ飯でこんな幸せそうって、なんかシュールすぎる。


「なぁ、焔華。お前、さっき言ってたけど、妖怪って霊力が0にならなきゃ死なねぇんだろ? でも、封印されてたらその内その霊力も尽きるって……マジで何千年って経ってたら、いくらお前でも、消滅してたってことだよな?」


俺は、ソファの端っこに腰掛けて、チラッと焔華を見ながら聞く。コイツの過去が、なんか気になって仕方ねぇ。ムロマチ時代の妖怪戦争、陰陽師、裏切り……全部、頭ん中でグルグル回ってる。焔華は、たこ焼きをパクパク食いながら、フンと鼻で笑う。


「ふん! よくぞ聞いてきたのじゃ、ヨシノブ! その通り、妾のような大妖怪でも、妖怪は妖怪。妖怪とは意味と願いを持った自然の霊力が生み出したもの。霊力が尽きれば消滅する。1400年、よく耐えたものじゃ。陰陽師どもの計算では、2000年、遅くとも2500年で妾の霊力はゼロになるはずだったようじゃの。ハハ! 半分諦めておったが、1400年で出られたのは、まあ……合格じゃな!」


焔華がケラケラ笑って、たこ焼きをもう一個パクッと放り込む。マヨネーズが唇の端にちょこっとついて、なんか……いや、ダメだ、こんなん可愛いとか思うなよ! 俺は、頭を振って、話を続ける。


「合格って……お前、割とギリギリだったんじゃねぇか。つか、今のそのちんちくり…いや、小さい姿って、霊力が足りねぇからなの? 元はどうだったんだよ?」


「誰がちんちくりんじゃ! この人間、竹林に埋められたいか!?」


焔華がガバッと立ち上がって、小さい指で俺をビシッと指す。赤い目がギラリと光って、部屋の空気がビリッと張り詰めた。ヤバい、怒らせた! けど、焔華は、急にニヤリと笑って、ソファにドサッと座り直す。


「ふん、まぁいいじゃろ。お主、妾の元の姿が見たいと申したな? ほう、いい度胸じゃ! 特別に、一瞬だけ見せてやるぞよ。刮目せい!」


焔華が俺のTシャツをバッと脱ぎ捨てて、ほっそりした体がスッと立ち上がる。待て、全裸!? やめろ、ヤバいだろ! 俺、慌てて目を逸らそうとした瞬間、焔華の周りにドス黒い煙がブワッと渦巻いた。硫黄みたいなキツい匂いが鼻を刺して、頭がクラクラする。煙の奥、なんか…デカい影が揺らめいてる。心臓がバクバク暴れて、冷や汗が背中をツーッと滑り落ちる。


「四国滅獄の大妖狐、焔華…これが妾の真の姿じゃ!」


煙がサッと晴れた瞬間、俺の目の前に立つのは、10歳のガキじゃねぇ。身長170cmはあろうかって、完璧なスタイルの女。長い銀髪が滝みたいに背中に流れて、9つのフサフサした尾がユラユラ揺れる。赤い目が、まるで血の炎みたいにギラギラ光って、長い爪がカチカチと空気を切り裂く。肌は月光みたいに白くて、なんか……ここまでくるとエロいなんてレベルじゃねぇ、妖艶って言葉がバッチリハマる。けど、その威圧感たるや、まるで街全体を焼き尽くすみたいな熱気がビリビリ伝わってくる。俺は、息するのも忘れて固まった。


「ふん! どうじゃ、ヨシノブ! 妾の真の姿、ビビったか? ハハ、この姿ならお主など、その意思さえあれば触れる間もなく一瞬で喰らい尽くせるぞよ!」


焔華の声、深くて響くのに、どこか甘い響きが混じる。けど、その姿は、ほんの一瞬でグニャリと歪んで、煙がブワッと巻き上がった。次の瞬間、元のほっそりした焔華がそこに立っていた。また俺のTシャツ着て、ムスッとした顔で俺を睨む。


「ちっ、霊力がまだ足りんのじゃ。最大を100としたらまだ3くらいじゃな。たこ焼きのおかげで一瞬だけ戻れたが…ふん、まぁいい。ヨシノブ、もっとたこ焼きを献上せい! 妾の霊力を取り戻すのじゃ!」


焔華がソファにドカッと座って、たこ焼きをパクッと頬張る。俺、呆然としながら、なんとか言葉を絞り出す。


「待て待て、お前……あの姿、マジでヤバかったぞ。あれで3かよ。つか、霊力ってたこ焼きなんかで回復すんのかよ!? それに、さっきの話……お前、なんか探してるもんがあるって? 家族とかじゃねぇよな?」


焔華の動きがピタッと止まる。赤い目が、ジロリと俺を見据える。なんか、空気が急に重くなった気がした。部屋の温度は、冷房ガンガンで変わってねぇのに、背筋がゾクッと凍るような気配。


「ふん……お主、なかなか鋭いのう。家族? ハハ、笑わせるな! 妾のような大妖怪に、そんな人間くさいもんがあると思うか? 妖怪に親族などおらぬ。孤独じゃ。妾が探してるのはな……剣じゃ。今はおそらくボロボロの、錆びた剣になっておるじゃろ。今は人間どもの間で『国宝』とか呼ばれておるらしい」


「剣? 国宝? なんだよ、それ……」


俺、頭ん中でグルグル考えながら、焔華の目を見る。コイツの声、さっきまでの軽いノリが消えて、なんか……急に切実な響きが混じる。国宝の剣? ムロマチ時代にそんなもん、あったっけ? 全く詳しくないけど、歴史の授業じゃそんなの聞いた記憶、ねぇぞ。


「ふん、ヨシノブ、お主には分からんじゃろ。だが、妾にとってその剣はな……何よりも大事なものじゃ。1400年前、妾を裏切ったあの巫女が持って行きおった。妾の炎を浴びながら、最後までその剣を握りしめておったのじゃ」


焔華の声は、なんか震えてる。ほんとかどうかはわからねえ。けど、赤い目が、遠くを見るみたいに揺らぐ。裏切り、巫女、剣……なんだよ、その話、めっちゃ重いじゃん。俺は、心臓がドクドクうるさくて、冷や汗がダラダラ流れた。


「なぁ、焔華。その剣、なんでそんな大事なんだ? 元から強いなら、今更ボロい剣なんかいらねえだろ。なんか……特別な力でもあんのか?」


「ふん! お主、詮索好きじゃな! まぁ、いいじゃろ。その剣はな、ただの鉄の塊ではない。妾の霊力の一部が宿っておる。封じられている間は何年経っても減りはせぬ。妾が封印された時、妾から引き剥がされた霊力じゃよ。それを取り戻せば、妾は完全な力を取り戻せる。ハハ、そしたらこの国なぞ、また炎で呑み込んでやるぞよ!」


焔華はケラケラ笑うけど、その目は、なんか寂しげだ。俺は、ゴクリと唾を飲んで、ソファにドサッと座り込む。国宝の剣、霊力、完全な力……コイツ、実はガチでヤバいこと企んでんのか? けど、なんか、焔華のその目は、ただの悪企みじゃねぇ気がする。裏切られた巫女、剣、1400年前の記憶……なんか、すげぇ深い秘密が隠れてる。


「ヨシノブ、ぼーっとするな! 妾のたこ焼き、もっと持ってくるのじゃ! それと、チャーハンもじゃ! 霊力を貯めるには、とにかくもっと食わねばならんのじゃ!」


焔華が相変わらずすげぇ力で、グイッと俺の腕を引っ張る。俺はまた、よろめきながらしぶしぶキッチンに駆け込む。冷凍庫開けて、チャーハンとギョウザのパックをガサゴソ取り出した。レンジのチンって音が響く中、俺の頭ん中は、焔華の話でグルグル回ってる。国宝の剣、ムロマチの妖怪戦争、裏切り……この夏休みは、ただの変な同居生活じゃねぇ。なんか、めっちゃデカい物語に巻き込まれ始めてる気がする。


「ほれヨシノブ、早くせんか! 妾の腹がグウグウ鳴っとるぞよ!」


焔華の声に、俺は、慌ててチャーハンを皿にぶちまける。熱々の米粒が湯気を上げて、ネギとチャーシューの匂いが鼻をくすぐる。焔華はいつものように、ソファから飛び降りて、テーブルにガバッと乗り出す。銀髪がバサッと揺れて、赤い目がチャーハンに釘付けになる。


「うむ! やはりこの匂い、最高じゃ! ヨシノブ、お主、妾の霊使としてはなかなか使えるのう!」


焔華がスプーン持ってチャーハンをガツガツ食い始める。マヨネーズまみれのたこ焼きと一緒に、めっちゃ幸せそうな顔。俺は、呆れながらも、なんかホッとする。コイツ、ガチでヤバい妖怪なのに、コンビニ飯でこんな満足するなんて、やっぱり……かなり可愛いだろ。ダメだ、こんなん思ったら負けだ!


「なぁ、焔華。その剣、どこにあるか分かるのか? 国宝ってことは、どっかの博物館とか…?」


俺の言葉に、焔華がパクパク食うのをピタッと止める。赤い目が、ジロリと俺を見据える。なんか、空気がまた重くなった。心臓がドクドクうるさい。


「ふん…お主、ほんと詮索好きじゃな。その剣の場所は、妾にも今は分からん。だが、感じるのじゃ。どこかで妾を呼んでおる。妾の一部じゃからな。ヨシノブ、お主、妾の霊使じゃろ? なら、一緒に探すのじゃ! 見つけたら、妾の真の力を……ハハ、楽しみにしておれよ!」


焔華がニヤリと犬歯を見せて、チャーハンをまたガツガツ食い始める。俺は、冷や汗をダラダラ流しながら、ソファにドサッと座り込む。この夏休み、絶対ただじゃ済まねぇ。焔華の「真の力」、国宝の剣、1400年前の秘密……俺、なんかヤバい運命に絡め取られ始めてる気がする。


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