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第6話 闖入者

 それから暫くして――


 貴水会長からの言付(ことづ)け物を預かっているとして、大学の同級生・有吉(ありよし)英司(えいじ)が訪ねて来た。

 こんな夜更けに、しかも何故、彼が? 本来なら不審に思うべきであったが、父からの言付けが気になった彰はエントランスを開いた。



 有吉英司は、大学入学当初から何かと彰の便宜を図るなどして、執事のように付き従い、キャンパス内での世話係を自認している男だった。傍から揶揄されても意に介さず、むしろ、それが自分のステータスだと吹聴していた。

 彰はそのような扱いをされるのが鬱陶しく、ただの友人として接して欲しいと伝えたが、それは聞き入れられなかった。そもそも、有吉にとって彰は友人でさえなかった。

 有吉の慇懃無礼な態度と阿諛追従は彰を(うと)ませた。さらには、貴水家に取り入ろうとする見え透いた魂胆に、ほとほと嫌気がさしていた。


 この日、有吉が実家のパーティーに紛れ込んでいるのを彰は見かけた。しかし、関わりを避けたくて、敢えて無視した。

 その有吉が、否、その有吉だからこそ、父の言付けを持って来たとしても、あながちあり得ないことではないと思ったのだった。



『彰、メリークリスマス! 極上のシャンパンだ』


 ドアを開けた彰の前に、ボトルが差し出された。


『父からの言付けというのは?』

『ひゃっははっ、まんまと引っ掛かってやんの。そんなのウソに決まってんじゃん。そうでも言わなきゃ開けてくんねぇだろ。あ、ちなみにこの酒、おまえん()から勝手にいただいてきたやつな。一応返しとくぜ。(から)だけど』


 悪びれる様子もなく、有吉は空のボトルを放り投げ、自身の背後に向かって、指で『カモン』と合図した。


『かなり酔っているようだな。用がないなら帰れ』


 アルコールが入ると性格が変わるタイプの人間だったのか、もしくは、下劣な人間性が飲酒によって露呈されたのか、明らかに普段の有吉ではなかった。目が座り、どこか獣じみていた。何より、喋り方からして違っていた。いつもは彰を『貴水様』などと冗談めかして、様付けで呼んでさえいるのだ。


『つれないなぁ。おまえのことだ。女の一人や二人連れ込んでんじゃないかって期待して来てやったんだぜ。おこぼれに(あずか)りたくてよ。そんでもって、ダチも連れて来たよ~ん』


 有吉と四人の男たちが、ずかずかと部屋に押し入って来た。

 その四人は彰の知らない男たちだった。どう見ても大学生ではなかった。どういう繋がりなのかは定かではないにしろ、汚らしくチャラついた風体(ふうてい)からして、繁華街に屯する不良の類であることが窺い知れた。


『ピューッ♪』

 少年を見るなり、有吉は口笛を吹いた。

『へぇ、彰、女に飽きたか』


 有吉と男たちは好奇の目で少年を見ていた。


『どういう意味だ?』

『こんな綺麗なガキ初めて見た。ハーフだな。高級男娼ってやつか。それにしても、いろいろ人間離れしてるな。いや、人間じゃない。まるで……そう、天使だ! さすが、貴水家の御曹司。金の力で天使だって手に入れられるってわけだ』

『何をつまらないことを言っている。彼はそういう人じゃない』

『じゃあ、どういう人なのかな? こんなそそるような格好でおまえと夜を過ごしてる彼は。この状況を見れば一目瞭然じゃないか。ローブの下は何も着けてないんだろう? 彰、どうだった? 天使の味は。いい声で()いたか?』

『いい加減にしろ。失礼だろ』

『硬いこと言うなって。彰よォ、いつも自分ばっかいい思いいしてんじゃねぇぞ。……そうだなぁ、せっかくだから、ゲームでも始めるとするか』


 淫猥さと嗜虐性を帯びた眼を肉食獣のように光らせながら、有吉は邪な視線を少年の全身に浴びせた。


『くだらないことは考えるな、有吉!』

『考えないよ。実行あるのみ。さあ、ゲームの始まりだ』


『やめろっ……!』

 少年を守ろうとした彰は不意を突かれ、背後からシャンパンの瓶を振り下ろされた。

『――‼!』

 

 後頭部に衝撃が走った。

 ブラックアウトの間際、彰は少年が自分を呼ぶ声を聞いた。


『貴水さん‼』

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