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第13話 ゲーム

『残り少ない冬休みを、有吉さんと過ごしたいな』



 有吉英司は、貴水千鶴から別荘に招待された。

 彼は貴水グループのトップに君臨する自分の姿を想像した。足掛かりは向こうから舞い込んで来た。貴水家の令嬢、千鶴から交際を申し込まれたのだ。


「こういうのを棚から牡丹餅とか逆玉とかって言うんだろうな。()()()の腰巾着に甘んじていた甲斐があったってもんだぜ。その貴水様だが、未成年の男娼を部屋に引っ張り込んだのがバレるのを懼れて、俺のことは不問に付したんだろうがな。ふっ、チョロいもんだ。

 それにしても、お嬢様……意外と大胆な性格だったんだな。見た目からして奥手な方だと思ったんだが、女は色気づくのが早いのか? いつも美形の兄と比較されて不憫だが、もうニ三年(にさんねん)もすりゃ化粧の仕方でも覚えて、それなりに()けんだろう。今はあれで我慢しといてやるか」


 下劣な品性そのままの独り言を垂れ流しながら、有吉は予め渡されていた鍵で別荘に入った。千鶴は未だ到着しておらず、管理人も不在だった。

 別荘は千鶴の十七歳の誕生日に父親から贈られたもので、小さなコテージだと有吉は聞かされていた。


「はんっ、これが十七の小娘に贈ったバースデープレゼント? コテージなんてもんじゃねぇだろ。宮殿じゃんかよ。金持ちって、やっぱ頭おかしいな」


 コテージというよりは、パレス。そこは、まさに壮麗な白亜の宮殿だった。

 背景には深い森、正面にはプライベートビーチが広がり、室内は全て高級な調度品でコーディネートされ、落ち着いたアッパークラスの雰囲気を漂わせていた。

 改めて、有吉は貴水家の別次元の財力に呆れた。だが、あわよくばこれも、いずれは自分のものになるかもしれないと夢想し、唇の片端を上げてほくそ笑んだ。



 ブロロッ……‼!


「雷……か?」


 近づいて来る爆音に驚いて、有吉は窓外を見遣った。

 雷鳴かと思われた音は、大型バイクのエンジン音だった。その数、十三台。バイクは別荘の敷地に停まり、フルフェイスヘルメットに黒い戦闘服姿の男たちが、これ以上はないという禍々しさを纏って降り立った。


「暴走族だ!」


 セキュリティは万全のはずだった。自分はこの別荘に着くまでに三か所の門でチェックを受けた。族はそれを突破して来たということなのか。だとしたら、とんでもなく厄介な、極めて凶暴な集団なのではあるまいか。有吉は身の危険を感じた。そして、隠れる算段をした。

 その時、危機回避の出鼻を挫くかのようなタイミングでスマートフォンが鳴った。


『有吉さん、千鶴です。もうすぐ着きます』

 

 電話は千鶴からだった。


「千鶴さん、大変です!」

『どうか、なさいましたか?』


 焦る自分の声とは対照的に、千鶴の応答は苛立たしいほどゆったりとしていた。そのことに有吉はサイレントで舌打ちした。


「怪しい者たちが敷地内に侵入しているんですよ!」

『まあ、大変だこと。……でも、大丈夫です。ゲームですから』

「ゲーム?」

『そう、ゲーム。あなたもお好きでしょう? ……楽しんでね』


 電話はそこで切れた。

 妙に落ち着き払った千鶴の声が不気味でさえあった。


「ゲーム、だって?」


 有吉はその言葉を反芻した。楽しげな響きに掩蔽された、そこはかとない邪悪なニュアンスに鳥肌が立った。そういえば自分も、以前、何処かでこの言葉を使わなかったか?



「有吉英司だな」


 突然、有吉のいる部屋の扉が開き、黒覆面の男たちが現われた。

 その中のひとり、2mはあろうかという大男が、くぐもった低い声で言った。


「今からゲームを始めるぞ」



 荒波の押し寄せる、寒風吹きすさぶ砂浜に、有吉は引きずり出された。


「思い知るがいい。因果の法則を」

 とりわけ小柄な黒覆面が、怒気を孕んだ声でそう言った。

「さあ、ゲームの始まりだ!」


 それを合図に、十二人の男たちが有吉に飛び掛かった。 

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