第12話 罰と罰
「貴水千鶴」
唐突に、青年はひとりの人物の名前を口にした。
脈絡もなく同級生の名前を出されて、タケルは戸惑った。
「俺の妹だ」
「え?」
「案外、世間は狭い。俺たち兄妹はよくよく君に縁があるらしい」
「貴水さんの、お兄さん……?」
そういえば、名前はあの夜に聞いた。
『――俺は貴水彰』
彼がそう名乗った時、親しいクラスメイトと同じ苗字だと思った。その、貴水千鶴の兄だったとは。
「君に会いたかった。会って、謝罪がしたかったんだ」
「あなたは僕に親切にしてくれた。むしろ僕はあなたにお礼を言うべきでした」
「礼を言われる資格なんてない。俺の所為だから。君をあんな酷い目に遭わせてしまったのは」
「違います。自分の所為です。あれは、おそらく罰なんです」
あれは自分が受けるべき罰だった。最愛の人を傷つけた罪による罰。そう思うことで、タケルは自分の中で決着をつけようとしていたのだ。
「罰?」
* * *
貴水千鶴は、真宮タケルを強姦した主犯である有吉英司に、自分から交際を申し込んだ。
以前からそれとなくモーションはかけられていた。彰と同様に千鶴もまた、貴水家に取り入ろうとする有吉の打算的な野心を見抜いていた。千鶴はそれを利用した。餌を投げると、獲物は簡単に飛びついてきた。
「悪事を働いても、すぐに罰が下らないから人間は反省しない。それどころか何度も悪事を重ねながら、のうのうと生きている。それが積み重なって罪となる。罪は、罰が下らない限り積み重ねられるのだ。因って被害を受ける者は後を絶たない。何故こうなる? それは、生ぬるいからだ。悪しき者が科を免れ、安穏と生きていられるこの世の摂理がぬる過ぎるからだ! しかし、こんな不条理が許されていいはずがない! よしんば天が許しても私は許さない! ならば私が与えよう、覿面の報いを。相応ではなく、何倍もの罰を。そうしなければ人間は反省しない。何も学ばない。そしてまた悪事を繰り返す。ゆえに被害者は増え続け、人の世の苦しみは終わらない。それこそが劫。劫の円環はどこかで断ち切らねばならない。強い意思を以って。
よいか皆々、手加減は無用である。存分に思い知らせるのだ、因果応報というものを!」
千鶴の檄に、その場にいる十二人の屈強な男たちが頷いていた。




