初陣⑥
馬車はゴラス高山を駆け上がる。
「もう魔物はいないよね~?」と、コレットは右手で日差しを遮りながら周りを見渡す。コレットは少し時間をかけていたが、俺を含めみんなはずっと口をつぐんだままだった。
理由は単純。窮地にコレットが現れ、一瞬にして魔物の群れを制圧するその様に圧倒されたからだ。
「うん! いないね~! よかったよかった~! ……んん? どうしたのみんな固まっちゃって~?」
はっと我に返るプラトニカは「コレット様、助かりました。ありがとうございます」と片膝をつきお礼を言う。続けてバンダック、ルルリィ、ライラも同様に腰を低くした。
もちろん俺も。
正直、見た目のせいもあって、コレットがこんなにも強いなんて思ってなかった。
普通に考えれば皇女の傍にいるぐらいだから強いのは当たり前なんだろうけど、なんとなく心のどこかでは自分より下だと思っていた。
コレットはほんとに強いんだな。
「そんなのい~よい~よ! 頭を上げてってば~!」とコレットは少し困惑した顔を見せる。
「いえ、本当に感謝しています。私の判断ミスで危うく部隊が全滅するところでしたから……」
「プラちゃんのせいじゃないよ~! 私もこーなるなんて思ってなかったから気を落とさないで~!」
「しかし……」
「も~プラちゃんは真面目だなあ。……ハーティちゃんが言ってたんだけど~今回のパラスポアは一味違うみたいなんだよね~」
「一味違う、ですか?」
「なんて言ってたかはもう忘れちゃったけど~とにかく助けに来なくちゃって思ったの~!」
なるほど。っておいおい忘れるなよ。
「確かに例年に比べると魔物の数が多すぎましたね」
「でしょ~!? 原因はハーティちゃんも分からないみたいなんだけど~とにかく今からは私も同行するからみんなでパラスポアを倒しにいこ~!」とコレットは拳を上に突き上げた。
「そうだ! 差し入れがあるよ~!」とコレットは盆から何かを取り出す。
あの盆、さっき脇に挟んでたけど、どうやって出してるんだろう。
やっぱり魔法かな?
……何これ?
配られたのは青く透き通ったサイコロみたいなものだった。
「青ゼリーじゃないですか! コレット様助かります!」とバンダックはパクっと食べる。プラトニカやルルリィもそれを口に含んだ。
俺はライラと顔を見合わせる。
これって食べ物? そうみたいね。みんな食べてるし、食べてみる? 食べてみるか。というやり取りを目線だけでした後、俺はそれを口に含む。
ちょっぴり甘いゼリーで、少しすーっとする。ミント風味に近いゼリーだった。
気分転換にはいいかも。うまかった? とライラを見る。
すると彼女は目を見開いていた。さっきまでの疲れきったような表情ではなく、はつらつとするライラは「なんですかこれは!? すごい! 一気に元気になりました!」と声をあげる。
「青ゼリーはね~即効性のマナ回復薬だよ~」
なるほど、確かにみんな元気になってる。
俺にあんまり変化がないのは、そもそもマナが扱えないからか。
「は~い! それじゃ~パラスポアまでは何事もなく行けそーだし~カイトちゃん! ブラジャー出しとこっか~!」
「……え? 今、なんて……?」
「この後も予定込々なんだよね~。だから今のうちにブラジャー出しとこっか~!」
「うそだろ!? 今!?」
「うん! 今~!」
「今はその、まずいんじゃないか!?」
「ど~して~? 魔物はいないよ~?」
おいおい。
コレットは何を考えてるんだ!?
ブラジャーはおっぱいを触って出すものだ。そのことは窓を見たコレットも知ってるはずだ。
まさか、みんなが見てる前でおっぱいを触れっていうのか!?
ちらっとルルリィを見る。
彼女は何のことだろうと首を傾げていた。
いやいやいやいや!
さすがに無理だろこの流れ!? どうすりゃいいんだよ!?
ルルリィのこの「状況は何もわかってません」みたいな反応、絶対今からおっぱいを触られるなんて思ってないやつじゃん!?
いや、待てよ?
もしかして、コレットは窓の内容を忘れてるのか?
「なあコレット、ブラジャーの出し方って覚えてる?」
「確かおっぱいを触るんだよね~?」
覚えてたーーーーーーー!!!
え? 待って? この状況で触れって素で言ってんのか!?
おっぱいという言葉に反応したのか、プラトニカもバンダックもルルリィも三者三様に顔を見合わせる。
「コレット……さすがにこの状況では触れなくない?」
「そっか~。さっと出しちゃえばいいのにって思ってたけど~カイトちゃんは紳士なんだね~」
当たり前だろ。
人前でおっぱいを触るなんて紳士以前の問題だわ。
「今からね~カイトちゃんがスキルを使うんだけど~使いやすいよーにみんなにはちょっと移動してもらうよ~」
コレットは、プラちゃんはこっち~、バンちゃんもこっち~、ライラちゃんもこっち~、ルルちゃんはあっち~、と誘導を始める。
最終的に、馬車の前一列に3人が並び、馬車の後ろに俺とルルリィが向き合うように座った。
ルルリィとは一瞬目があったが、すぐに逸らされてしまった。
はあ……。ルルリィの俺の評価はどん底だな、きっと。
間に立つコレットは「私が合図するまではずっと前を向いててね~」と釘を指す。
これでルルリィへの配慮はできた感じか。
いや、ほんとに配慮するならブラジャーは今することじゃないだろ……。
「ルルちゃんには先に説明しとくね~」とコレットは耳打ちする。
ルルリィは始めこそ頷くだけだったが、途中からは驚いたり顔が赤くなったり肩を上げたり下を向いたりとしていた。
複雑な気分だ。
今からルルリィのおっぱいを触るとはいえ、ルルリィには更に嫌われるんだろう。それになぜか楽しそうなコレット。
もしかして遊ばれてる?
「これで準備できたね~! さあカイトちゃん! ぱっとブラジャーを出してみよ~!」
……ほんとにやるんだな?
確認の意味を込めてコレットを見ると、彼女は両手でリズムをとりながらにこにことしていた。
尚、ルルリィは下を向いたままだった。
ごくりと喉を鳴らしながら「さ、触るよ?」と許可を取ろうとするが、ルルリィは答えず黙ったままだった。
やっぱりこれ、だめなやつじゃない? と思ったところで、ルルリィは小さく頷いた。




