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「ご結婚、おめでとうございますっ!! フラウベル様、ヴィアルド様!!」
「いやぁ、これはなんとも似合いの新婚夫婦ですな!! 花嫁のなんと美しくかわいらしいことか……!」
「お互いの初恋が叶ったなんて素敵ねぇ……。私もそんな結婚、憧れるわぁ!!」
祝福と羨望の声に、ふたりははにかみながらけれど満面に輝くような笑みを浮かべ応える。
国の剣であるガーランド家。そして国の盾とも言うべく天才魔術士ヴィアルドの結婚は、この国にとってこれ以上ない良縁だ。ゆえに国王自らがふたりを祝福せんと大聖堂の使用を認めたのだろうと、皆は思っていた。
けれど、人々は知らない。あの国を滅亡させる寸前までいった騒ぎの真相と、その後の顛末を。
あの魔力暴走は奇跡的にひとりのけが人も出すことなく、後日不運な竜巻による被害として発表された。
そのため、あれが実はフラウベルに振られると思い込んだヴィアルドの魔力暴走だったと知る者は少ない。厳しく箝口令が敷かれているのだから当然である。
けれど実際は――。
暴走の顛末を聞いた国王は、ガーランド家とヨーク家双方を急ぎ呼び出し命じた。
『今すぐにふたりの婚礼を執り行い、さっさと結婚させよ!』と。
悠長に通常半年ほどといわれている婚約期間が過ぎるのを待っていては、いつまたあんな魔力暴走が起きないとも限らない。だからさっさとくっついてしまえ、恋愛ひとつで国を滅ぼされてはかなわん――というのがその理由だった。
そして王家からの祝福も後押しする形で、盛大にふたりは婚礼の日を迎えることとなったのだった。
そしてその席には噂のリューイッド王子殿下も参列した。
「やぁ、おめでとう!! フラウベル、ヴィアルド君。君たちが幸せそうで僕も嬉しいよ。なんといってもフラウベルは僕の大切な友人だからね」
「ふふっ!! ありがとう! リューイッド王子殿下。私もあなたに祝福してもらえて嬉しいわ。私にとってもリューイッド王子殿下は大事な趣味仲間だもの!!」
どこからどう見ても友人同士のその気のおけないやりとりに、すっかりヴィアルドも納得したらしい。
本来ならば一臣下の婚礼に王族が出席するなどあり得ないことなのだが、あの噂は事実無根だと皆に知らしめるためにわざわざ姿を現してくれたのだった。おかげで疑いはすっかり晴れたようである。
そしてふたりは、祝福の花びらが舞い散る中を腕を組んで進む。
フラウベルは、ふわり、と笑った。
「ん? なんだい? フラウ」
最近ようやく愛称で呼ぶのになんとか慣れてきたヴィアルドの問いかけに、フラウベルは。
「ふふっ! なんだか不思議な気がするなって思ったの」
「不思議な気持ち?」
「私たちって、似た者同士で臆病なんだわって思って。お互いに相手に嫌われたくなくて本当の自分を隠して空回りして、結果的にとんでもない騒ぎを引き起こして……」
パワー系令嬢であることを隠し完璧な婚約者を演じようとしていたフラウベルと、物理的に最弱であることがバレないように必死だったヴィアルド。ヴィアルドなんて、相手を失うことをおそれるあまりに危うく国を滅ぼすところだったのだ。
そんなふたりが実は互いにはじめて会ったあの日に、恋に落ちていたなんて。人生は不思議だ。
「あぁ、本当だね。……でも今やっと自分の弱さを許せる気がするよ。あの日君に、自分の弱さも情けなさもさらけ出せて良かった……。じゃなきゃきっと今も、君にいつ嫌われるんじゃないかとビクビクしてただろうから」
「私もです。あの時全部気持ちを吐き出せて本当に良かった……! でなければこんなに幸せな気持ちで今日を迎えられませんでしたもの!! 私……、幸せです!! ヴィー」
フラウベルもまた、最近ようやく呼び慣れてきたヴィアルドの愛称を口にしてはにかんだ。
「愛しているよ、フラウ。どんなにかっこ悪くてもきっと私は私のすべてで君を守り愛し続けるよ。約束する……!!」
「私も約束します……!! どんなことが起きてもこの幸せを守り切ってみせますわ!! 幸せになりましょうねっ!! ヴィアルド様!! 心から愛しています……!!」
フラウベルが花開いたように朗らかに笑う。
つられてヴィアルドの顔にもやわらかい笑みが浮かび、ふたりは見つめ合う。
そのふたりの間を、くるり、くるりと爽やかな風が通り過ぎていった。
長い長い時が過ぎ、国は長らく平穏に栄えた。
その歴史を振り返る時、その象徴として語られる話がある。
それは、国のために戦う剣と国を守る盾とが手をたずさえるがごとく、強い絆で結ばれたある夫婦の幸せな生涯の物語――。
これにて完結です!!
最後までお読みいただき、まことにありがとうございました!!
また自作品でもよろしくお願いしますっ!!




