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さくっとお読みいただけるかわいらしい恋のお話です。
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フラウベル・ガーランド。
この国の剣とも称される武闘派一門、ガーランド家の三姉妹の最後の至宝。
その見目麗しい可憐な外見と愛らしい心優しい性質は、まさに天使。
社交界に咲く美花と賛美される三姉妹の末娘で、唯一まだ嫁ぎ先が決まっていないフラウベルとの婚姻を望む者は数多い。けれど、いまだ婚約者すら決まってはいない。
それもこれも、フラウベルに長年の想い人がいるためだ。
その想いを知っていればこそ、両親は娘の幸せを決めあぐねていたのだが――。
◇◇◇◇
その日、ガーランド家にフラウベルの感極まった声が響いた。
「やりました……!! お父様、お母様っ!! お姉様方っ!! 私の願いを神様がついに聞き届けてくださいましたわ……!!」
その知らせは、フラウベルの胸をこれでもかと高鳴らせた。
「嬉しいっ……!! まさか私があのヴィアルド様の婚約者だなんて……! 嘘みたい……」
フラウベルは胸に抱えていたボロボロの人形をぎゅっと強く抱きしめ、涙をはらはらとこぼした。
その姿はまるでこの世のものとも思えないほどに美しく可憐で目を引き付けられずにはいられない。 けれど、その胸の中の人形から漂う異質さに、家族と使用人たちの視線はなんとも微妙なものになる。
それは、フラウベルの手製人形だった。別名、呪いのヴィアルド人形。
フラウベルが幼い頃見様見真似で作ったもので、当然のことながら縫い目はガタガタ、目の位置も左右で大きくずれていて、お世辞にも良い出来とは言い難い。
というよりはむしろ非常におどろおどろしかった。まるで呪いでも込められているかのように。
けれど実際にその人形に込められていたものは、ひたむきなただのかわいらしい恋心だった。
その日フラウベルは、父親と一緒に出かけた町でうっかり迷子になった。
ガーランド家の令嬢は誘拐の格好のターゲットになりうる。もしや他国の間者がこの国に害をなすために国の剣と称されるガーランド家の末娘をさらったのでは――なんて大騒ぎになったのだけれど。
でも実際はただ単にフラウベルがかわいい犬にみとれてはぐれただけである。
はじめてきた町、しかもなぜか裏通りに入り込んでしまいその独特の雰囲気に今にも泣き出しそうになっていたところに、救世主は現れた。
『君……大丈夫? ひとりなの? こんなところにひとりでいたら危ないよ?』
自分といくつかしか変わらないであろうその男の子の手には、分厚い魔術書が抱えられていた。その年頃にしてはとても読みこなせないような難しそうな本を。
その男の子は困ったような気遣うような顔をして、ゆっくりと近づいてきた。そして。
『私……お父様とはぐれてしまったの……。どうしよう……。お父様のところへ戻らなくちゃ……!』
そう言って泣き出した私に、おずおずと手を差し出し、手を引いて大通りまで一緒に戻ってくれたのだった。
『君……、ガーランド家の子でしょう? なら、このお店はガーランド家の贔屓だからきっとここで待っていれば迎えにきてもらえるよ』
その子はそう優しく微笑んで、そっと頬の涙を拭ってくれたのだった。
その優しい笑みは、ちょっぴり不器用そうで気弱そうだけど、でもそれがとても穏やかで優しげで。
――なんて素敵なの……!! まるで王子様みたい……!!
幼いながらにフラウベルの胸が大きくときめいた瞬間だった。
『じゃあ、僕はこれで……』
立ち去ろうとしたその子を、思わず呼び止めた。
『待って……!! あなたのお名前は……!?』
すると一瞬その子は驚いたようにためらい、そして。
『ヴィアルド……』
はにかんだ顔でそれだけ言って、パーッと走り去ってしまったのだった。
その後無事父と合流できたフラウベルは、屋敷に戻るなり徹夜であのヴィアルド人形を縫い上げたのだった。人生はじめての恋心を込めて――。
そして毎晩神様に祈った。どうかまたあのヴィアルド様と再会できますように、と――。
なんとそのヴィアルド本人から、八年という長い時をへてフラウベルと婚約したい旨の申し出が届いたのだった。