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一回目!

一旦帰って来ました。

気晴らしに、軽く行きます。

 私は結婚して4年になる29歳の女。

 二つ年上の旦那、政志さんとは私が22歳の時に出会った。

 入社した会社の先輩で、新入社員の教育係だった政志さんに私が一目惚れしたのが始まり。


 当時政志さんは恋人と別れたばかりで、私の猛アピールに押し切られ、半年後から交際は始まった。


 順調な二年の交際を経て、私が25歳の時に結婚した。

 温厚な政志さんは金遣いも荒くない、見た目も良いし、給料も同年代より多く、なにより私を愛してくれた。


 こんな幸せがいつまでも続くと思っていた。

 ...二年前、あの男と出会う迄は。


 私があの男、下呂満夫と出会ったのは念願だった新築マンションを購入する為入ったマンションギャラリー。

 私達夫婦の担当になったのが満夫だった。


 ローンや内装の打ち合わせ等、相談は多岐に渡り、仕事が忙しい政志さんに代わり、私が満夫と行う事となった。


 『奥様の様な素敵な方と結婚し、新築マンションまで購入されるなんて、ご主人様は幸せですね』

 満夫の人当たりの良い笑顔と巧みな言葉に悪い気はしなかった。


『この壁紙より、寝室にはこちらの方が宜しいかと』


『...でも予算が』


『確かに少し高くなりますが、私が工務店に相談してみましょう』

 決められた予算、満夫は私達の要望を聞き入れ、理想の部屋を作り上げて行ったのだ。


『奥さ...史佳さん、私は貴女と会うのが遅過ぎたみたいです』


『そんな...冗談は止めて下さい』


『冗談なんか言いませんよ...』

 次第に満夫は私を口説く様になった。

 いきなりだったら警戒しただろう、しかし数ヶ月の時間、それとなく囁やかれる満夫の甘い言葉は私から自制心を失わせて行った。


 夫婦の仲は円満だった。

 政志さんに不満なんか無い、職場の部署は変わってしまったが、ずっと同じ会社に勤めていたし、共有する時間も決して少なく無かったと思う。


 しかし政志さんが移動した部署は出張が頻繁にあり、寂しさは拭えなかった。

 それが私を愚行に走らせてしまったのだ。


 ...満夫と不倫の関係へと..


 半年に渡り、満夫から口説かれて私は舞い上がっていた。

 歯の浮く様な言葉は、やかて私の心を麻痺させ、してはいけない不貞という最悪の行為へと向かわせてしまった。


 満夫との密会は、決まって政志さんが出張で家を空ける日で、場所は遠方のラブホテル。

 背徳感が癖になり、私は燃えた。


 政志さんには恥ずかしくて出来ない様な行為も、満夫とは平気で行え、更に燃え上がり歯止めは利かなくなっていった。


 家では貞淑な政志さんの妻。

 外では淫らな満夫の情婦。


 二つの顔で過ごす日々は、やがてその境界線を失って行く事となった。


「ハアァ!」


「良いか!良いのか!?」


 自宅のテーブルに突っ伏し、獣の様な声を上げる。

 理性なんか存在しない、知性を失った私は乱れた時間を大切な家でする程、堕ちていた。


「そこまでだ」


「な?」


「...え...なんで?」


 突然リビングの扉が開き、数人が部屋に入って来た。

 その人達は...


「政志さん...お父さんとお母さんも」


 なんで政志さんが?

 どうして両親までここに?


「お前はなんて事を!!」


「え?」


 お父さんの叫び声、続けて走る頬の痛み。

 私は両親からビンタを受けたのだ。


「ち...畜生!!」


「待て!」


 家から逃げようとした満夫を政志さんが突飛ばした。


「ふん!」


「あギャ!」


 政志さんが満夫を投げ飛ばす。

 そういえば、政志さんは高校時代、柔道のインターハイ選手、見事な体技に見惚れてしまう。

 全裸で無様に投げ飛ばされる満夫の姿を見ながら、政志さんの格好に惚れ直していた。


「まさか部屋に入って直ぐ始めるとはな...」


「すまない政志君、私達が遅れてしまったばかりに...」


「いいえ、お陰で現場を押さえられましたから」


 両親から叩き回される私を見ながら、政志さんが吐き捨てる。

 床には脱ぎ散らかした私と満夫の服。

 その時にようやく自分が裸である事に気づいた。


「イヤアアアア!」


「うるさい!!」


 叫び声を聞いた政志さんが一喝する。

 お母さんが床に散らばっていた服を集め、箒で汚い物を扱う様に私の前へ差し出した。


「最近お前の様子がおかしいから、興信所で調べたんだよ。

 いつからとか、どちらからとか、そんな事はいい。

 ただ一つ、お前達が不倫をしていたという事実だけだ」


「...そんな、いつの間に」


「お前は黙らんか!」


「そうよ!」


 意識を取り戻した満夫と並び、床で正座する私に政志さんが言った言葉。

 反論しようにも、両親に遮られてしまい余地さえ与えられない。

 三人から向けられるのは汚物を見る目、完全に私を人間だと見ていなかった。


「おい、お前」


「は...はい」


 満夫は政志さんに呼ばれ、身体を震わせた。


「慰謝料は払えよ、金額は後から弁護士を通じて連絡する」


「...あの会社には?」


「このバカと出会った切っ掛けを考えてみたら、分かるだろ」


「お...お願いします!

 会社には...何とか...これがバレたら職場での立場が...婚約者は上司の娘なんです...」


「俺の家庭を壊しといて、お前は保身か...

 後は弁護士に言え、もう畜生共と話す気は無い」


 満夫は政志さんに土下座をする。

 半年前、満夫に婚約者が出来たのは知っていた。


『イモ臭い女だよ、俺には史佳が一番だ』

 満夫はそう言っていた。

 下着一枚で震えるヤツの姿は迫る現実に怯えるばかり。

 私はどうなるの?

 不安で胸が押し潰されそう。


「...あの政志さん」


 なんとか声を振り絞る、無視されるが構わない。


「...慰謝料を払ったら許してくれる?」


「史佳!」


「あなたは何を!?」


 お父さん達がうるさい。


「ね?私、もう二度としないから...」


「離婚だ」


「は?」


 嘘よね?だって政志さんがそんな事言う筈無いし...


「常識で考えろ。

 二年近く不倫した女を許せるか?

 お前はいつからそんなバカに...いや既に人間じゃないか、自宅に男を連れ込む位の畜生だからな」


「あ...え?」


 突き付けられた離婚の言葉。

 頭が真っ白に染まり、次の瞬間凄まじい程の痛みが頭を!


「ギャヤアアアア!」


 その場に突っ伏し叫ぶ。

 息が出来ない!何も見えない!

 目の前が暗転し、気を失った...


 ~~~~~~~~~~~~~~~~


「おい史佳...」


「え?」


 気がつくと私はベッドに寝ていた。

 着ているパジャマは酷い寝汗でベトベト、目の前には心配そうな顔をした政志さん。

 事態が理解出来ない。


「随分(うな)されてたが、大丈夫か?」


 なんで?

 どうして政志さんは私を心配してるの?

 私は浮気して、離婚を言い渡されたんだよ?


 頭に言葉が溢れるが、声にならない。


「病院に行くか?出張をキャンセルして一緒に行った方がいいか?」


「は?え?」


 益々混乱する。

 なんでそんなに優しいの?


「だ...大丈夫」


 なんとか身体を起こし、室内を見回す。

 ここは自宅の寝室、何も怪しい雰囲気は無い...


「保険証は...と、タクシーを呼ぼうか?」


 政志さんは寝室を出て、タンスの置かれた部屋で、ごそごそと保険証を探しながら呟いている。

 その様子を見る私の視線にカレンダーが入った。


「2021年?」


 なんで2年前のカレンダーが壁に掛かっているの?


「どうしたんだい?」


「いえ...昔のカレンダーが」


「昔の?」


 カレンダーを指さす私を政志さんは不思議そうに見た。


「しっかりしてくれ、今は2021年の8月だから、カレンダーは古く無いだろ?」


「へ?」


 政志さんの言葉に愕然とする。

 嘘や冗談を言ってる様子じゃない、私はリビングに置かれた自分の携帯を見た。


「なんて事なの...」


 そこには2021年8月28日と映っていた。


「時間が巻き戻ったの?」


 なんて事...私は2年前に戻って来たんだ。


「お...おい」


 涙を流す私に政志さんは驚いている...こんな奇跡があるなんて...


「だ...大丈夫よ、病院は様子を見てから行く。

 政志さんは出張に行って来て」


 なんとか気を強く保ちながら、政志さんに笑い掛けた。


「そうか...無理しないで」


「ありがとう、あなたも気を付けてね」


 政志さんが心配そうに振り返りながら、キャリーバッグを押して家を出ていく。

 これは神様が与えてくれたチャンスだ。

 不倫をする前に戻してくれたんだ...


「うん?」


 私の携帯にラインの着信が。


「げ!」


 それは満夫からの着信だった。


[今日は楽しみだね]


「なんて事...」


 満夫と以前に交わして来た一連の通話記録を読み返す、忌まわしい記憶が甦り目眩を感じた。


 ...それは今日が初めて満夫と身体の関係を持った日であった。


[キャンセルします]


 咄嗟に断りのラインを返す。

 当然だが、一線を越える訳に行かない。


[どうしたの?]


 既読が着くなり、直ぐに返信が。


[私を忘れて下さい]


 早く別れなければ、震える指で、そう返した。


[これを旦那さんに見せても良いのか?]


「は?」


 満夫のラインから送られて来た一枚の写真。

 そこには笑顔で満夫とキスをする私の姿が。


「な...なんで?私はまだコイツとセックスしてない筈よ...」


 また記憶が甦る。

 確かにまだ満夫と肉体関係は無い。

 しかし、この時、私は既に満夫と密会を重ね、軽いキスや、日帰り旅行をする仲だったのだ...


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」


 携帯を投げ捨て、叫んだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 下呂満夫!?!? リョウじゃないだと!?www
[良い点] お! 投稿ありがとうございます!
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