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ジークヴァルトのお師匠様【2】


「ほんと仲が良いねぇお二人さん! 青春してる若人を見ると気持ちが若返るなぁ」


 立派な顎髭を撫でながら感慨深そうにするアンスガーの言葉に、リーゼは我に返ると慌てて姿勢を正した。

 ついついジークヴァルトと二人で居る時の気安い態度になっていたことを密かに反省する。

 一方、ジークヴァルトは軽く溜息を吐くと勝手知ったる様子で動き、応接室の中央に設置されたソファーに腰を下ろした。


「リーゼも座れよ」


 その誘いを素直に受けても良いものか悩み、反射的にアンスガーの方を窺う。すると彼は鷹揚に「ああ、楽にしてくれ」と笑いつつ自分もジークヴァルトの対面にある方のソファーへ座った。

 安心したリーゼもそれに倣う。


「改めて、わざわざ呼びつけて悪かったな。アンスガー・アルテンベルクだ」

「こちらこそお会い出来て大変光栄です、アルテンベルク様。リーゼ・リールと申します、今後ともお見知りおきいただければ幸いです」

「おう! よろしくな、リーゼの嬢ちゃん」


 にっかりと白い歯を見せながら笑うアンスガーにリーゼも自然と笑みがこぼれる。


「ジークと仲良くしてくれてありがとな。こいつ、学院でもだいぶ浮いてるだろ?」

「あー……」


 チラリとジークヴァルトへ視線を送れば、


「別に遊びに行ってるわけじゃねぇんだから良いんだよ俺は」


 と素っ気ない言葉が返ってくる。

 それを目の当たりにしたアンスガーが大げさに肩を竦めた。


「お前はほんとブレねぇなぁ。リーゼの嬢ちゃんが居なかったらぼっち確定だったんじゃねぇの?」

「……まぁそうだったかもしれねぇな」

「あ、認めちゃうんだ」

「嘘ついてもしょうがねぇし。それに実際はお前が傍に居るんだから問題ねぇだろ」


 その言葉にリーゼはくすぐったい気持ちになった。

 ジークヴァルトのような人から明確な特別扱いをされて嬉しくない筈がない。


「とりあえずジークが嬢ちゃんにべったりなのはよぉく分かったぜ……こんな奴だけどこれからも見捨てないでやってくれな?」

「見捨てるだなんてとんでもないです。私にとってジークは大切な友人ですから」

「ほんといい子だなぁ嬢ちゃんは……それになかなかいいもん持ってるな?」


 言って、アンスガーはリーゼの瞳をジッと覗き込むようにしながら目を細める。


「光属性の高い適性に加えて嬢ちゃんは魔力量も相当多いだろ? 治癒が出来る魔法士は何処でも需要あるからなぁ」

「えっと……見ただけで魔力量とか適性とかって分かるものなんですか?」

「普通の奴には無理だな。魔法局でもオレのほかには数人くらいしか出来ねぇ芸当だ」

「そうなんですか」

「ちなみにジークも分かる側だけどな?」

「へぇ……えっ!?」


 驚いて咄嗟にジークヴァルトを仰げば、彼はさも当たり前のことのように頷く。


「実技のペア決めの時に言っただろ、お前を選んだ理由は『静かだから』って」

「う、うん?」

「あれ、喋り声だけじゃなくて魔力の波長も静かで気に入ってたって意味だから」

「そうだったの!?」


 初耳である。というよりも魔力に波長があるということすらリーゼは意識したことがなかった。


「確かに嬢ちゃんの魔力はこう……風呂みたいな感じがすんなぁ」

「お風呂ですか?」

「そうそう。どこか癒されるっつーか、近くに居ると落ち着く感じだな」


 自分ではよく分からない感覚の話だが褒められているのは確かなようだ。

 リーゼとしてはとりあえずジークヴァルトにとって好ましい波長であったのならば何よりである。


「ところで嬢ちゃんは魔法士資格の取得後は魔法局(うち)への入局を目指してんだったか?」

「あ、はい。狭き門なのは存じていますが、どうせ目指すなら上をと思いまして」


 魔法局に在籍出来るのは国家公認魔法士資格を持つ魔法士に限られる。

 まさに魔法士界のエリート集団であり、花形の戦闘魔法士や治癒魔法士をはじめ、諜報活動に特化した魔法士や新たな魔法を開発する研究専門の魔法士など、その活動内容は多岐にわたる。

 光属性を活かして母と同じ治癒魔法士を志すリーゼとしては、活動範囲が国内全域に及ぶ魔法局で多くの経験を積んでいければと考えていた。ちなみに給与面でも非常に魅力的な職場である。


「オレとしちゃあ大歓迎だぜ。優秀な魔法士は一人でも多く確保してぇからな。嬢ちゃんみたいな平民出身者が活躍してくれりゃあ次世代にも期待できるってもんよ!」


 快活に笑うアンスガーは、そこでジークヴァルトへと視線を向ける。


「お前も当然、魔法局(うち)に入ってくれんだよな?」

「……そのつもりだけど」

「そいつぁ良かった。もし親御さんがゴネるようならオレが出てくから遠慮なく頼れよ?」

「ああ、それについては当てにしてる」


 二人の会話を聞いていたリーゼは、そこで思わず口を挟んだ。


「……もしかして、ジークはご実家に魔法士になることを反対されてるの?」


 正直、ジークヴァルトの家族に対してリーゼは良い感情を持っていない。

 だが貴族には貴族のルールがあることも理解している。当主の権限が強い貴族社会において、ジークヴァルトの立場を考えれば家の方針に背くことは容易ではない筈。

 そう思って訊ねたことだが、返ってきた答えはリーゼの想像を遥かに凌ぐものだった。


「いや、それ以前に俺はシュトレーメルから離籍するつもりだから」

「…………えええっ!?」

「そんなに驚くことか?」

「え、いや、そりゃ驚くよ!? というか、それってジークは平民になるってこと……だよね?」

「うん」


 コクリと頷くジークヴァルトにリーゼは目を白黒させた。



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