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合同演習【1】


 あっという間に合同演習の日は訪れた。


 参加者は二回生、三回生共に学院からほど近い森林地帯の一角に集められている。周囲を見渡せば男子に比べると女子の参加率はやや低いが、それでも例年に比べれば格段に多いらしい。

 その理由はどう考えても、目の前で微笑む彼にあるのだろう。


「――本日の合同演習には野営も含まれています。おそらく初めて体験する者も多いでしょうが、学院側もその点は考慮して人員を配置していますので安心してください。何かトラブルが発生した場合は速やかに報告するように」


 淀みなく説明をするフェリクスは実に堂に入っている。ちなみに野外演習ということで生徒達の服装は学院指定の運動着である。制服と比べるとかなりシンプルな衣装だが、フェリクスが着るとそれだけで様になるところは流石である。


(この運動着も結構なお値段したんだよね……なるべく汚さないようにしよう)


 おそらくそんなことを考えているのは自分くらいのものだろう。

 そうしてぼんやりとフェリクスの説明に耳を傾ける時間をやり過ごし、いよいよ演習が開始される。


 事前に班分けは学院側の方で行なっており、リーゼはD班に振り分けられた。リーゼは近くに居たジークヴァルトに話しかける。


「私はD班だったけど、ジークは?」

「……俺もD班だな」

「えっ!? 本当に!?」


 班は全部で十四班あるので、同じ班にはならないだろうと思っていた。

 これは嬉しい誤算である。


「ジークと一緒なら凄く安心だよ。よろしくね!」

「ん、よろしく」


 そうして二人揃って指示に従い集合場所に行くと、既に何人か集まっているのが目に入る。

 そこで知った顔を見つけたリーゼは思わず声を上げた。


「パラッシュ侯爵令嬢もD班なんですか?」

「ええ、よろしくね。リール嬢」


 嫋やかに微笑むパラッシュ侯爵令嬢は鮮やかな薔薇色の髪をポニーテールに纏めている。同じ運動着姿のはずなのに圧倒的な差を感じてしまい、リーゼは内心で苦笑した。フェリクスといい、見目麗しい人は衣装を選ばないらしい。


 基本的に班は八人編成と聞かされており、パラッシュ侯爵令嬢の他にも三回生と思しき男性が二名、二回生の男性が一名、確認できた。そこにリーゼとジークヴァルトが加わり、残りは二名ということになる。

 リーゼとしてはパラッシュ侯爵令嬢が同じ班なのは正直かなり僥倖と言えた。彼女ならば変なトラブルも起きないだろうし、何より嫌がらせをされる心配はない。

 幸先のよさを感じながら残りのメンバーを待っていると、これまた見知った人物がこちらに向かって走ってくる姿が目に映った。


「すっ……すみませんっ。ここが、D班の集合場所で間違いな――って、あれ!? リーゼさまにシュトレーメルさま!?」

「ヘルタ様もD班なんですね」

「は、はいっ! ということはお二人も……?」


 コクリと頷けばヘルタの表情がパアッと華やぐ。


「とってもとっても嬉しいですっ! な、仲良くしてくださいね……っ!」


 よほど嬉しかったのか、彼女はリーゼの両手を取るとぎゅーっと握ってきた。その愛らしい仕草に班全体の視線が集中する。特にジークヴァルト以外の男性陣は軽く頬を赤らめていた。大変分かりやすい。


「これで七名……残りの方はまだなのかしら?」


 パラッシュ侯爵令嬢の呟きにリーゼは反射的に周囲を見渡す。どうやら大半の班は人員が揃ったようで、課題である森の中の散策に出ている班も少なくなかった。


「もしかして、私達の班は七名なんでしょうか?」

「それなら事前に知らされている筈だけど……そういえば、班ごとに三回生の中からリーダーがあらかじめ決められていると聞いたけれど、どなたなのかしら?」

「パラッシュ侯爵令嬢がリーダーじゃないんですか?」


 てっきり勝手にそう思っていたリーゼの問いにパラッシュ侯爵令嬢はきっぱりと首を横へ振る。


「私ではありませんわ。貴方がたも違うようね?」


 そう水を向けられたのは三回生の男子二人だ。彼らも即座に否定したため、必然的に残る可能性はひとつということになる。


「つまり遅れている残り一名がリーダーということかしら?」


 パラッシュ侯爵令嬢がそう口にしたのとほぼ同時。


「――すまない、遅れてしまったね」


 最後の人物はD班メンバーのもとへ文字通り()()()()()

 どうやら風の移動魔法を使ったらしい彼に、パラッシュ侯爵令嬢が驚きの声を上げる。


「フェ、フェリクス様!?」


 するとフェリクスはパラッシュ侯爵令嬢に微笑み掛けた後で、残りのメンバーを見渡すようにぐるりと視線を巡らせた。当然ながらリーゼとも目が合う。その瞬間、彼が僅かに目を細めたのをリーゼは見逃さなかった。おそらく事前にすべて把握した上での所業ということだろう。こういうところは意外と子供っぽい。


「改めて、D班のリーダーを務めるフェリクス・フェルゼンシュタインです。どうぞよろしく」


 天下の生徒会長がリーダーだと分かり、班の士気が目に見えて上がる。特にパラッシュ侯爵令嬢は表情こそ頑張って取り繕っているものの、視線はフェリクスに釘付けだった。

 彼女からしてみれば憧れの男性と野営とはいえお泊まりということになる。感激するのも無理はない。


「……アイツも同じ班なのかよ」


 一方、うんざり気味にそう零したのはジークヴァルトである。

 リーゼもどちらかといえばジークヴァルトに同感だった。フェリクス自身に不満はないが彼はとにかく目立つ。しかもリーゼがフェリクスのお気に入りということは全校に知れ渡っている。これ以上、余計な勘繰りをされるのは避けたい。


「……ねぇ、ジーク。出来るだけ一緒に行動して貰ってもいい?」


 ということで、リーゼはジークヴァルトにだけ聞こえるようにそんなお願いをする。少なくとも演習中はフェリクスと一定以上の距離感を保つのが得策。そこでジークヴァルトには申し訳ないが防波堤になって貰いたいと思ったのだ。二人の仲が良くないことは明らかなので、ジークヴァルトと共に居ればフェリクスもそうそう近寄って来ないだろう。


 リーゼの唐突な提案に、ジークヴァルトは軽く目を見張った。

 だがすぐに察してくれたようで「ああ、構わない」と請け負ってくれた。


 かくして、リーゼ達D班も軽く各自の自己紹介をした後で森への散策を開始するのだった。



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