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作戦決行とその結果【2】

本日2話目の更新となります。よろしくお願いいたします。


 姿を現したジークヴァルトにリーゼは思わず驚きの声を上げた。


「ジーク……ッ! なんでここに?」

「……心配で様子見てたからに決まってんだろうが。実際かなり危なかったって自覚してんのかよ」

「うっ……!」


 確かに中級魔法の行使は予想外だった。あれをまともに食らっていた場合、大怪我は免れなかっただろう。当たりどころが悪ければ最悪、取り返しのつかない事態になっていた可能性すらある。ジークヴァルトの指摘は尤もだったが――


「そんなこと僕が許すとでも思う? 彼女のことは僕がきちんと最初から見ていたよ」


 フェリクスが反論と共に猫のように目を細める。

 どこか挑発的なそれに、ジークヴァルトの眉間には深い皺が刻まれた。


「その割には防御魔法の発動が遅すぎだ。強度も甘い」

「へぇ……それで二撃目の時には思わず手を出してきたわけか?」

「ああ。万が一があっては困るからな」

「僕がついていて万が一なんて絶対に起こらないよ。余計なお世話と言わざるを得ないね」


 そんな二人の会話を聞き、リーゼは「あっ」と声を上げた。


「もしかして、先輩とジークが魔法で私を守ってくれたんですか?」


 それならば合点がいく。リーゼが行使した基礎防御魔法では防ぎきれない筈の風魔法が完全に封殺された理由は、どうやらこの二人にあるようだ。


「でも、私とあのご令嬢以外に詠唱は聞こえなかったんですが……もしかしなくても、二人とも無詠唱で……?」

「ああ」「当然だね」


 それぞれの返しにリーゼは目を丸くする。中級攻撃魔法を完璧に防ぐには同程度の防御魔法を使うのが一般的だ。つまり二人とも無詠唱でそれを成し遂げたということになる。しかも発動をリーゼ達に一切気づかせずに、だ。

 学院の講師陣ですらそのような芸当が可能なのかどうか、リーゼには判断がつかない。

 だがその技量が一学生の範疇は軽く超えていることだけは明らかだった。


「……けど最初の平手は防げなかった。悪かったな」


 そう続けたジークヴァルトはリーゼに歩み寄り右手を伸ばしてくる。どうやら治癒魔法を掛けてくれるつもりらしい。だが、それを阻むようにフェリクスがリーゼの手を引くと己の側へと引き寄せた。


「ちょっ!? せ、先輩!?」

「……何の真似だ、生徒会長」

「いや、君の手をわざわざ煩わせるのは申し訳ないと思ってね」


 その言葉とほぼ同時にフェリクスは問答無用でリーゼの左頬に己の手を当てる。


「《小さき光よ、彼の者を癒し、巣くう痛みを払い給え》」


 温かな光が頬を癒していくのを感じながら、リーゼは驚きのままフェリクスを見上げる。

 彼はこちらに触れながらどこか満足げな表情をしていた。令嬢達やジークヴァルトに向けるものとは違い、その視線はどこか甘やかですらある。まるで何かを愛でるみたいな――


(ああ……そうか下僕(ペット)だからか)


 なんとなく腑に落ちてしまったリーゼが嘆息と共に今度はジークヴァルトの方を向く。

 彼の表情はフェリクスとは対照的にどこか不満げであった。行き場を失った手が虚しく下げられるのに、リーゼは慌てて言葉を探す。


「あの、ごめんねジーク。心配してくれて本当にありがとう。でも本当に大丈夫だから」


 ほどなく治療を終えたことでフェリクスの手が離れていく。だがその手は今度は何故かリーゼの腰に回された。一瞬どきりとするが冷静に思い直す。これはおそらく捕獲された犬猫の扱いだ。男女のそれではない。

 何のつもりか知らないが流石に抗議すべきかとリーゼが口を開きかけた時、


「――言っておくけど、今リーゼ(これ)は僕のものなんだよね」


 先にフェリクスがそんな爆弾発言を落としてきた。

 これにはリーゼのみならず、あまり表情が動かないジークヴァルトも瞠目している。

 その様子が面白かったのかフェリクスが上機嫌で言葉を続けた。


「だから君の助けは必要ないよ。嫌がらせの件も釘は刺したからこれ以降は治まるだろうしね」

「……なんでアンタがこいつを所有物扱いしてんだよ」

「ははっ、その質問に答える義理は特にないかな。これは僕とリーゼの問題だからね」


 あまりにも含みを持たせた物言いにリーゼはフェリクスの性格の悪さを思い出す。

 おそらく彼はジークヴァルトを翻弄して遊んでいるのだ。先ほど魔法技能についてダメだしをされたことを実は根に持っているのかもしれない。年上の癖に器が小さいにもほどがある。


「ジーク、先輩の言うことは真に受けなくていいからね?」

「それならリーゼが説明してくれ。いったい、生徒会長とはどういう関係なんだ」


 思わず口を挟んだ結果、ジークヴァルトの質問の矛先がリーゼへと向いた。

 しまったと思っても時すでに遅し。だが、本当のところをジークヴァルトに告げることは出来ない。

 どう言い訳しようか頭を悩ませるリーゼの耳元に、今度はフェリクスの囁きが降ってくる。


「僕の言葉を否定したらどうなるか、ちゃんと分かってるよね?」


 ド直球の脅し文句にリーゼは堪らず目を剥いた。本当に大人げなさすぎやしないかと呆れてしまうが、悲しいかなリーゼに拒否権はない。


(ジークに手っ取り早く納得して貰うためには……これしかないかなぁ)


 こちらを訝しむジークヴァルトに心の中で謝罪しながら、リーゼは眉を下げながら淡く微笑んだ。


「生徒会の手が足りなくて先輩が困ってるって知って、私が自主的に手伝いを申し出て傍に居させて貰ってるんだ。だからジークが心配するようなことは何もないよ」

「……それって、こいつのことが好きってことか?」

「えっ!? あー……まぁ、それなり、に?」


 かなり突っ込んで訊いてくるジークヴァルトに冷や汗を流しながら答えていると、腹に回っていたフェリクスの腕がさらに強さを増す。そうしてぎゅっと抱き込まれるとなんだかとても良い匂いがして、恥ずかしさから思わず顔が熱くなった。


「そういうわけだから邪魔しないでくれるかな? これから生徒会の業務も行わなければいけないしね」

「っ! そ、そうですねっ! 速く仕事しないと! 行きましょう先輩!! ジークも、本当にありがとね? 気を付けて帰ってね」


 かなり強引に会話を終了させながら、リーゼはフェリクスの腕をぺちぺち叩く。それで拘束が緩んだので、今度は自分からフェリクスの手を取ると強く引っ張った。さらに視線で移動を促せば彼は素直に従ってくれる。これを逃す手はない。


「じゃあ、ジークまた明日ね!」

「あ、おい……っ!」


 リーゼはまだ何か言いたげなジークヴァルトの視線を振り切って、逃げるように生徒会室を目指したのだった。


ここまでが一章部分となります。お読みいただきありがとうございました。

(ようやくタグの通り三角関係物っぽくなってきました)


続きは明日更新予定ですので、引き続きお楽しみいただけますと幸いです。


もし本作を気に入ってくださった方がおられましたら、ぜひブックマークや評価やご感想、いいねなどで応援いただけますと嬉しいです。

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