悪食令嬢、セシリア・モーランドとジャガイモを知らないカナリア公爵令嬢
「伯爵令嬢セシリア・モーランド参る」と「婚約破棄?悪女?上等ですわ」の短編もシリーズですので、読んで貰えると嬉しいです
「なんであんな女が、私より上等なドレスを身に纏ってるのよ!それにあの、人集り!我慢できないわ!一体誰なのよ!?」
豪華な宝石を付け、誰よりも目立つと思っていた勝ち気な令嬢はイライラしていた。
「カナリア様、あの方はセシリア・モーランド伯爵令嬢ですわ。あのドレスはセシリィ商会のドレスでセシリア様ご自身がデザイナーとして作られている、マイセシリィブランドです」
カナリアの取り巻きの一人が説明をした。
「伯爵家なの?下位貴族じゃない!
それに貴族の娘が、あのマイセシリィのデザイナーって!?別の人間にデザインさせてるんじゃないの?きっとそうに決まってるわ!!」
セシリアを卑下しているのは、カナリア・シャレード公爵令嬢。シャレード公爵家の1番下の令嬢で親兄弟に甘やかされて育てられた温室の令嬢。
セシリアの素性を説明した令嬢は既にカナリアの側から離れていた。
「あの女、よく食べるわね。パーティーの場でバクバク食べる事が品がないって事を知らないのかしら?同じ貴族と思われたら恥ずかしいわ」
「そういえば、参加したパーティーで余った食事は決まって持ち帰っているそうですわ」
別の取り巻き令嬢が思い出したように伝えた。
「そんな事まで?ただの悪食令嬢じゃない!?」
人の目も気にせず料理を食べているセシリアにカナリアはわざとぶつかり、そのせいでお肉が転がり落ち、ドレスが汚れてしまった。
「あら、そんな所でバクバク食べてる人が居るなんて。邪魔ですわよ。せっかくのドレスも汚れてしまいましたわね。早く帰られた方がよろしくてよ」
セシリアはドレスが汚れた事もカナリアの言葉も行動も気にせず落ちたお肉を拾いテーブルの隅に置いた。
「落ちたものを拾うなんて、本当は貴族じゃなくてどこかの浮浪者なんじゃないですか?」
カナリアは失笑していた。
「……じゃない?」
「は?なんですの?」
「人にぶつかってきて謝る方が先じゃないかって言ってんの。だいたい落とした食べ物を自分で拾えない人間なんて何様って感じよ!」
「なっ!誰に対して言ってるのよ」
「目の前のスカスカ頭の令嬢によ」
「私がシャレード公爵の娘だって知っていってるの?」
「だから何?貴方が偉い訳でも貴方が稼いでいる訳でもないでしょう?」
「貴方も貴方の家族もお父様に言って潰してやるんだから!」
「戦線布告ね!受けて立つわ!後悔しない事ね。私はやるからには徹底的にやりますからね」
「伯爵家如きに何ができるって言うのよ!」
「貴方、伯爵家じゃ無くて私に喧嘩売ったのよ。そして買ったのも私。覚えておきなさい。楽しみね。ふふふっ」
セシリアは楽しそうに笑っていた。
その笑みに何故か背筋が凍るカナリアだった。
私はセシリア・モーランド。
モーランド伯爵家に生まれたけど、貴族とは名ばかりで、一族皆、人が良すぎて困っている人が居たら、ついつい助けちゃって家計はいつも火の車。その辺の農民の方が良い暮らしをしていた。
家族は皆人が良いけど、愛情もたっぷりくれるけど、やっぱり日々お腹が満たされないのは辛い……。
せっかく前世の真鍋桜の記憶を持って生まれたんだから私が頑張るしか無いと幼いながら奮起したお陰で今では国1番の金持ち貴族に成り上がっている。
うちの家、本当にお金が無かったから、商売するにしても初期費用もなくて、可愛がってくれていた隣の領主夫妻に5歳ながらプランを提示して土下座して資金貸してもらったわよ。
隣のスエズ男爵は自身で商売もしていたから、5歳児のプランを見て驚いて、跡継ぎにするから養子に来ないかって言われちゃったわ。
丁重にお断りしたけど。
商売が上手くいって暫くした頃、領地経営も金銭管理も私としっかり者の執事ロンドとセシリィ商会の社長に抜擢した、ローズマリーが管理していた。
だって私が一生懸命稼いでも、家族皆んながあの人が困っているからって言いながら助けちゃうから、結果騙されて暫くは、お腹が満たされる事はなかったのよね。
もちろん今では稼いだお金は領民の為にも使ってるわよ。
学校も病院も新しくしたし、農業改革やデザイナーブランド立ち上げて女性の仕事も出来る様にした。
桜の時はデザイン事務所で服飾のデザインからパターン作りまでしていたから今世では役に立ってるわ。元々可愛い服好きだったし。ドレスやメイド服のデザインするの楽しいのよね。ふふっ。
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伯爵家に帰ったらカナリア嬢の両親のシャレード公爵夫妻が顔色を真っ青にして立っていた。
「セシリア、シャレード公爵夫妻がお前に会いに来られているが、何かあったのか?」
父様が顔色を悪くして聞いてきた。
「大した事ではありません。気にしなくて大丈夫です、お父様。
ロンド、ご夫妻を執務室にご案内して。
お茶は要らないわ、すぐに帰られるから。それからこれはいつものように孤児院に届けといてね」
セシリアはロンドに折り箱を渡した。中身は余った食事を詰めたもの。
「かしこまりました」
執務室に通された夫妻はセシリアに頭を下げた。
「この度は娘が大変失礼致しました!申し訳ありません!」
「馬鹿な娘さんが、食べ物やドレスを無駄にしたことかしら?それとも私や家族を潰すって言われた事かしら?」
「……!?そんな事まで!本当に申し訳ありません!!」
「大丈夫ですわ。私、売られた喧嘩は買う主義ですし、負けた事ありませんから」
セシリアはにこやかに言った
「平に、平にお許し下さい!」
「私、食べ物を粗末にする人が1番許せないんですよ。娘さん食べる事に困った事ないですよね?
甘やかして育てるのは勝手ですが、日々の食事がどうやって目の前に置かれているのかくらいは教えないといけないですよね……」
「末の娘で、甘やかしてしまいました。申し訳ありません。これからは教育し直します!」
「それならカナリア様の事は私が預かりますわ。どの様な処遇になっても公爵家は不問にされますね?」
「わ、分かりました。ですが、娘の命だけは…」
「勿論ですわ。お約束します」
私の信条は敵に温情なんてかけちゃ駄目。やると決めたなら、徹底的に潰さないと。
二度と這い上がる気力もなくさせるの。じゃないと復讐してきたりするんだから。弱さを見せても心を揺さぶられ無いようにね。相手はその隙を狙ってくるんだから。
今では国王の正妃も側室も、第2王子の妃も公爵家や侯爵家の奥様方も私の味方。
皆様セシリィ商会の大得意様でマイセシリィのファンでいらっしゃる。
私を怒らせる事は社交界でも商業界でも立ち行かなくなる為、お馬鹿さん以外は私に喧嘩を売る者は最近では皆無だった。だから少し楽しんでる私が居た。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「セ、セシリア様、先日は申し訳ありませんでした」
「なにがですか?」
「失礼な態度を取ってしまって……」
「態度なんて大した事ではありませんわ。まだ何も分かってないのですね」
「……」
「ローズマリー、用意した服に着替えて貰って」
「了解いたしました。カナリア様、こちらに」
ローズマリーと一緒に隣の部屋に入った。
「こちらに着替えてください」
「あ、あの、着替えの侍女は?」
「お一人で着替えてください」
「一人で着替えなんて。した事ありません…」
「お時間が掛かっても構いません。これからは全てご自分でされるのです。分からない事は聞いてください」
両親からは敵に回してしまったセシリアの怖さ、次怒らせたら一生牢獄生活になるかもしれないと言われていたカナリアは涙を堪え、初めて一人で着替えをした。
なんとか着替えが終わった後セシリアとローズマリーと共に馬車に乗って移動した。
着いた場所はセシリアの領地で領地内で運営している孤児院。
「今日からここで働きながら暮らして頂きます」
「え?ここで…?働く?」
「此処は働かない者は住めないし、食事も出ません。嫌なら野宿されますか?」
「……がんばります」
「今日から一緒に暮らすカナリアさんです。皆さん色々教えてあげてくださいね。それでは夕食の準備に入ります。
手分けして今日使う野菜の収穫をしてきてくださいね」
「「「はーい!」」」
シスターがカナリアの紹介をし、子供達は元気の良い返事をした。
「おねえちゃん畑に行こう!」
少女がカナリアの手を取り畑に連れて行った。
「そこのジャガイモ収穫してね」
「ジャガイモ?」
畑は見渡す限り葉野菜しか無い。
「ねえちゃん、もしかしてジャガイモが土の中で育ってるって知らないのか?」
「ヤバくね?」
「やばいよねぇー」
「おねえちゃん、何にも知らないんだね」
「本当ね…。ごめんなさい…」
小さな子供が知ってる事、出来る事が出来なくて情けなくて涙が溢れてしまった。
「知らない事は知れば良いんだってセシリア様も言ってたじゃない!
お姉ちゃん、私が教えてあげるよ」
「私も!」
「俺も教える!さっきはごめんな」
「あ、ありがとう」
カナリアは孤児院での生活で自分がどれだけ恵まれていたのか、そして沢山の人のお陰で生きて来れたのかを知った。
そして学んで行った。
一年が経った頃料理、洗濯、家事全般、子供達の世話、裁縫、畑仕事まで出来る様になっていた。
「ジャガイモが沢山収穫出来たから今日はシチューね!」
「やったぁ!」
カナリアは畑仕事で泥だらけだったが、最高の笑顔を見せていた。
「立派なジャガイモね」
セシリアがカナリアに声を掛けた。
「セシリア様、お久しぶりです!
今日はこのジャガイモを使ったシチューです。食べて行ってくださいね!」
「楽しみにしているわ。これも夕食に追加して」
「ありがとうございます!」
セシリアが差し出したのはいつもの折り箱だった。
貴族のパーティーでは食べる者が居なくても食事は用意してある。残された食事はパーティー後は処分される。その事を聞いたセシリアはなるべくパーティーに出席し余った食事はパーティー後、持って帰るからと折り詰めを主催者に頼んでいる。見返りにセシリアはマイセシリィのドレスデザインを1着無料でしていた。ギブアンドテイクである。
豪華な材料を使った料理は子供達や怪我や病気で働けない人達の栄養になっていた。
カナリアは孤児院での生活でこの折り詰めの食事がどれほど大事なのか身をもって知った。自分がどれほど無駄に贅沢していたのかも。
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「美味しかったわ。ご馳走様」
「本当に美味しかったです。急に来た僕にまで夕食を出して頂いて感謝します」
カナリアはセシリアの護衛のキルにも夕食を出していた。
孤児院に来て一年、キルはたまに孤児院の仕事も手伝ってくれていて、顔見知りではあったが食事を共にしたのは初めてだった。美味しいと言われ素直に嬉しかった。
「でもここに来た頃は包丁なんて持てなかったのに、今ではこんなに美味しい料理を作れる様になったのね。成長したわね」
「セシリア様のおかげです。社交界にいた頃の私は恥ずかしいほど何も知らない馬鹿な娘でしたから。
一切れのお肉が生きる上でどれほど貴重なのかもこちらに来て分かりました。あの時セシリア様が怒って当然でした」
「過去の自分を反省出来るなんて凄いですね。努力の賜物ですね」
「そうだよ!カナリアお姉ちゃんは凄いんだから!」
「沢山頑張ったんだよ!」
「皆のおかげです」
子供達に褒められてカナリアは真っ赤になっていた。
「カナリア様、そろそろご実家に帰りましょう」
「お姉ちゃん帰っちゃうの?」
「嫌だよー、寂しいよ!」
「ダメだよ!お姉ちゃんの人生はこれからなんだ!」
「そうだよ!でもまた来てね!会いに来てね!」
「私達も頑張るからね!だから会いに来てね!」
「皆偉いわ!カナリアとはまた会えるわ。だから皆もカナリアに負けないように頑張らなきゃね!」
「「「はい!!」」」
「絶対に会いにくるからね!王都の家にも招待するわ!」
「本当に?やったぁー!」
「お帰り。待っていたよ。
セシリア様の元に行って一年、成長したな。良い顔になっているよ」
「本当に素敵なレディになったわ」
「社交界に戻れば婚約の申し出が殺到しそうだな」
「そうだな!元々美しかったカナリアが内面も磨かれたんだ!王太子だって申し込むんじゃないか?」
父も母も二人の兄達が褒めちぎった。
「お兄様達、そんな事あるわけないじゃないですか」
「それがな……」
「お父様?どうされたのですか?」
「あるわけ無い、王家からカナリアへの婚約の申し込みが来ているのだ…」
「私が王太子様の正妃候補だなんて…。他にもっと相応しい方が居るはずです」
「お前を正妃にしたいと言われたのは王太子ご自身なんだ」
「王太子様が?ですが、私は王太子様にお会いした事はありません。一年近く王都には居ませんでしたから。それなのに何故?」
「それは私に不思議だが、とにかく明日登城する事になっている。その時にご本人に聞くと良い」
「わかりました。ですが、お断りする事は先にお父様に伝えておきます」
「カナリアの気持ちに任せるよ。王太子からも無理強いはしないと言ってくれてるからな」
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身支度をし王宮に着き、父とは別の部屋に通された。
扉を開けると金髪の青年の後ろ姿が目に入った。
「よく来てくれました。急な呼び出し申し訳ない」
窓からの光で王太子の顔は良く見えなかったが、臣下の礼をし、声を掛けた。
「……この度のお申し出ですが、お断り…」
「待って下さい!」
王太子はカナリアの返事を遮り振り返った。
「え?キル?」
王太子の顔を見てカナリアは驚いていた。見知った顔だったから…。
「返事の前に僕の話を聞いて下さい。
僕は王太子のキルフォードです。2年前まで甘ちゃんの我儘王子でした。後に国王になる人間なんだから自分の思うようにして良いって思ってた馬鹿な奴です。そんな僕を怒り、引き受けて王族とはなにか、何を考え、何をしないといけないのか考える事、そして世界を見せてくれたのがセシリアだった。
はじめはセシリアに着いて国内外を見て回った。一年前、孤児院で君を見た。高飛車で、してもらえない事に癇癪を起こし、まるで昔の自分を見るようだった。次に見た時は出来ない事に泣いて、また次に見た時には出来る事を探して頑張っていた。その後、子供達の世話をしながら、楽しそうな溢れる笑顔の君を見た。
いつからか、僕の隣にいて欲しいと思いました。
どうか僕と婚約して下さい!婚約中に僕との結婚が考えられなかったら言って下さったら婚約破棄します!
だからどうか僕と……」
キルフォードの言葉を逆切りカナリアが声を出した。
「私を婚約者にして下さい!」
この方は私と同じだったんだ。だったらこの方の力に私はなりたい。そう思い返事をしていた。
「カナリア!?やったぁー!ありがとう!!」
カナリアは王太子の婚約者となり、2年後2人は結婚式をし王太子妃となった。
2人の共通の話題はいつも恩師であるセシリアの事だった。
2人ともセシリアとの初対面で食べ物を粗末にした為怒られた事。
生きる上でどれだけ食べる事ら食べ物が大事なのか教えられた。
キルフォードとカナリアはお腹を空かした子供達が国から居ないようにセシリア基金を設立して貢献した。
この作品を読んで下さりありがとうございます!
とても嬉しいです
これからも創作活動頑張ります
良かったら評価をお願いします