09 薪をくべよ
この物語は、後を少し考えて作られています。
意味が分からない描写があります。
軽い気持ちで読んでいってください。
ピシリ
その日は何気ない一日で終わるはずだった。ふと聞こえた何かにひびが入る音を聞き空を見上げれば、そこには大きな亀裂が入った青空が存在していた。
ピキ バキン
ひときわ大きな音と共に青空が砕け散ったかと思うと、すぐさま元通りになっていた。
天理様の説明をした次の日、お昼ご飯を食べた私は学校の屋上で寝そべっていた。
「ふぅ…今日は青空が綺麗で気持ちがいい日ですね」
「うん、音もそう思うよ」
扉のほうを見れば、音さんが椅子に座って本を読んでいた。
「何を読んでいるのですか」
「えっとね、アップルパイの作り方の本だよ」
何気ない会話が流れ、今日もゆったりと時間が進むと私は思っていました。突然天理様の声が聞こえるまでは。
『美亜ちゃん聞こえる。こちら天理よ』
「て、天理様。一体何事ですか」
突然のことで慌てる私に天理様は恐ろしいことを言い始めた。
『今、結界の補強をしているの。でも、もう崩壊するわ』
「ほ、崩壊ですか。どこの場所…いえ、前と同じ場所ですか」
『そうよ、美亜ちゃんが戦った森からよ。あ、まずい。急いで』
「天理様、天理様…もう、繋がってない。ひとまず、森に行かないと」
前と同じようにシャドウがこちら側に来ないよう、私は急いで森へ向かって飛び立った。
「あわわわわ、どうしよう。みんなに伝えるべきだよね」
昼ご飯を食べた俺は、火帆と共に商店街を歩いていた。
「それで、話したいことってなんだ。わざわざ美亜がいない時に話すほどのことなのか」
「ん、まずはコロッケ食べてから」
火帆が指を指した先にあるコロッケを買うと、俺達は近くの公園のベンチに座った。お昼時だからか、公園には俺達以外は誰もいなかった。
「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか」
「えっと、夜露様は美亜様を調べろと言った」
「そういえば、そう言ってたな。それになんで美亜のことを様付けするんだ」
前に音の実家で正体を明かした時に、そんなことを言っていたことを思い出した。その時は特に何も思わなかったが、今思うと不思議なことだと思った。
「たぶん、美亜様は夜露様の親友の娘。名字が違うけど、話に出てた」
「なんだって、つまり美亜は初めからお前たちを知っていたってことなのか」
火帆が言ったことに驚いていると、火帆は首を横に振って答えた。
「違う、美亜様は知らない。母がいないと思ってる」
「母親がいないってどういうことだ。何か知っているのか」
「火帆は知らない。夜露様は知ってる、けど教えてくれない」
「教えてくれないか…美亜は一体何者なんだろうな」
火帆は話すことがなくなったからか、立ち上がり音の家に向かって歩き出した。そんな後ろ姿を見ながら悩んでいた。
(破封戦争の時に現れた天理と岩武。岩武に連れ去られた五郎。そして、天理のことを知る美亜。一体何が起きているんだろうな)
火帆が完全に見えなくなったあと、公園に走ってくる人がいた。よく見るとその人は音だった。
「招君大変だよ。なにかが崩壊するって美亜ちゃんが」
「崩壊…まさか結界が。音、美亜はどこに行くって言っていた」
「確か…森に行くって」
「森だな。教えてくれてありがとな」
俺は音にお礼をいうと、急いで近くの鳥居に飛び込んだ。そして、鳥居廻廊の中を走りだした。
美味しいコロッケを食べた帰り、火帆の後ろから音の気配が近づいてきた。
「か、火帆ちゃん。大変なんだよ」
「ん、どうしたの。なにが…伏せて」
「えっ」
ガンッ
「チッ、外したか」
走ってきた音を後ろから狙う敵から音を守るため、火帆は勢いよく音を地面に押し倒した。そして、火帆達の頭の上を立札が飛んで行った。
「なに、何が起こったの」
「音、落ち着いて。振り返らないで家まで走って」
「う、うん」
遠ざかる音の気配を背に感じながら、火帆は御札を取り出した。そして、一枚を陰に隠れている敵に向かって投げつけた。
「なんだお前、俺相手にそんな御札で勝てると思っているのか」
陰にいた敵は白い装束を着た男だったが、大きな太刀を腰にぶら下げ獣のような眼で火帆を睨みつけていた。
「まぁいいさ。やることは変わらない。さっさと捕まえて帰るか」
「そう、『夜露符 黒撃』」
なにかされる前に仕留めようと考えた火帆は、手に持っていた御札を勢いよく投げ、術を使い一気に仕留めに行った。
「はぁ…甘い。『二十五式 拘束結界』、失せろ妖め」
しかし、一太刀で御札を切り落とすと、そのまま御札を使い火帆の逃げ場をなくした。そして、勢いよく踏み込み太刀を振り下ろしてきた。
「チッ、『妖異顕現 不知火』」
「なに、すり抜けただと」
火帆はとっさに力を使い、男の攻撃を全て避けた。距離を取りながらも、火帆は警戒するのを忘れなかった。
(こいつ、強い。火帆には押し切る力は無い。どうしよう)
男は気怠そうに振り向くと、一枚の御札を取り出した。
「はぁー、楽な仕事だと思ったんだけどなぁ。起動しろ『二式 追跡符』」
男が御札を起動すると、それは火帆とは逆の方へ飛んで行った。
(失敗…一体何をした)
「さてと、じゃあまた会おうな。『三十三式 除霊方陣』」
そして、男はさらに御札を使い火帆との間に妖怪が通れない場所を作り出して、去っていった。
「待って…消えた…どこに…」
男の姿が見えなくなると、すぐに火帆はあたりを探った。しかし、見つけることはできなかった。
(気配を探れない…そういえば、最後の技って)
男が使った御札がどこにもないことに気が付くと、火帆は慌ててきた道を戻っていった。
(音を追跡して…音が危ない)
火帆ちゃんに言われ何が何だか分からないまま、私は家に向かって走っていた。
「はぁ、はぁ、火帆ちゃん大丈夫かな…みんな詳しいこと教えてくれないし」
「それは悲しいな。自分一人だけ仲間外れか。なら、こっちの世界に来るか」
「え、誰」
急に後ろから話しかけられて、私は驚いて振り返った。そこには、真っ白な服を着た獣のような眼をした男の人が私のことを見ていた。
「えっとお会いしたことありましたっけ」
「はぁ、本当に何も知らないんだな。あの猫からは聞いていないのか」
「うーん、火帆ちゃんからは聞いてないと思うよ」
真っ白な服の男の人は見たことあるけれど、目の前の人は初めて見たので、知らないことにしてしまった。失礼だったかなと、考えていると男の後ろから走ってくる火帆ちゃんが見えた。
「あ、火帆ちゃーん。この人知ってるのー」
「ッ逃げて音」
その瞬間、火帆ちゃんは赤い炎に包まれ、男の人に体当たりした。
「えぇー、火帆ちゃんが燃えちゃった」
(やっぱり、体の負担が)
音から男を遠ざけるために奥の手を使った。その結果、火帆体は動かすだけで激痛が走っていた。
「音…お願いがある」
「な、なにをすればいいの」
男を吹き飛ばした方から、御札が飛んでくるのが見えた。火帆はそれらを手でつかみ取った。
「学校に置いてきた、火帆の手帳を取ってきて」
「えっと、分かった。火帆ちゃんはどうするの」
「…ここで、時間稼ぐ」
再び、音が遠ざかるのを感じながら、つかみ取った御札を燃やし尽くした。
「おいおいおい、妖に効く御札を掴んで燃やすって、どういうことだ」
「さぁ…なぜだろうね」
――熱い、何かが燃えている――
男の動きに注視しながら、力を引き出し続ける。
――あぁ、この熱は。内から燃え上がるこの炎の元は――
「まぁいい、お前を祓ってから追いかけても遅くはないか」
――熱い、私は誰――
「ここから先には行かせない。火帆…がここで仕留める」
――私は…誰だっけ。そう、火帆。私は火帆――
「なら、仕留めてみろよ、妖」
そして、戦いが始まった。
結界崩壊まで残り二時間
火帆の戦いが始まった そして美亜の戦いも始まる
天の声は聞こえず 残るは何も知らぬ若者のみ
次回、カミタチによる踊り続ける狂想曲『問1 何を守るべきでしょう』創作中です。