第95話 退避前の生涯
そんな調子で、準備を進めているコハクから気をそらす作戦は至って順調に進んでいった。
だが、一時間ほど経つと裕司達に疲労がたまり始めて来た。
「う、うわっ」
召喚悪魔の振るった腕が、リシュリーの近くの残骸を払って。そこから飛ばされてきた資材などで、リシュリーが怪我をしてしまった。
「ボク、頑張るね!」
そこを、即座にポポが歌ってカバーする。
幸いにも怪我はすぐ治ったが、それからも疲労が原因で他の者がかすり傷を覆う事が頻発した。
いつ重大な事故が起きてもおかしくはなかった。
そして、二時間もする頃には、全員がへとへとになってしまった。
「はあっ、サイードは、あの生意気なコハクとかいう奴はまだなのか!?」
ジャスティスの焦れたような叫び声が、離れたところにいる裕司にも聞こえて来た。
ため息なのか息切れなのか分からない、言葉が最初についていたが仮に後者だったとしても、ジャスティスのプライドの高さゆえ認めなかっただろうが。
(コハクちゃん達、まだかな。もうそろそろ準備ができても良いはずなのにな)
そう思った瞬間、空に火球が打ちあがった。
町の端の方で、だ。
それはコハク達が準備を整えたという合図だった。
「やった、コハクちゃん達終わったんだ」
後は、魔法陣の内部にいる者達が、全員外に退避するだけだった
裕司は自分に向かって噴出された煉獄色の炎から急いで逃げながら、加奈やポポと合流し、町の外へと目指す。
(後は逃げるだけ。これで、何事もなければいいんだけど)
心からそう思った裕司だったが、、作戦はそう簡単には行かない様だった。
今まで単純に、声をあげる裕司達を一人ずつ追いかけるだけだった召喚悪魔が、裕司達の行く手に向けて、突如口から煉獄の炎を吐き出してしまったのだ。
前方に火の壁が出来上がる。
そこに合流してきたリシュリーとジャスティスが、さすがに困ったように話しかけてきた。
「ちょ、どうすんのよこれ!」
「遠回りでも迂回するしかねぇだろ」
炎の中を通って進むわけにはいかないので、回避するしかないのだが、裕司は背後を振り返った。
召喚悪魔はすぐそこまで追ってきていた。
余計な道を進んでいる暇はないかもしれない。




