第84話 父親
コハクは瞳に涙を浮かべながら、アルケミストの町がある方の空を眺めた。
裕司が知る限り、コハクという少女はいつだって強い人間だった。
それがこんな風に弱音を吐くなど、想像すらしていなかった。
「私がクレハの事をちゃんと考えていたら、復讐の事を話さなければ、クレハはあんな風に追い詰められる事なんて無かったかもしれない。私は友達失格だわ、考えてたのは自分の事ばっかりだったのよ」
「そんな事……」
「だって、あたしが復讐を遂げるって事は、リィンの父親を殺すって事なのよ。クレハはきっと、ずっと前から里を焼いたのがサイード達だって知ってただろうから……、あたしの言葉を聞いて内心でどれだけ悲しんでたか。いくらリィンのの父親がジャッジメントのサイードだって知らなかったって言っても、あたしがひどい事をしたのに変わりはないわ」
コハクの拳は怒りではなく悲しみによって肩を震わせていた。
取り返しの出来ない事をしてしまったと、そんな風に思って、深く後悔している様だった。
「サイードさんは、リィンちゃんが娘だって事知ってるの……かな」
「知らないでしょうね。クレハは意見が分かれた時以来、会ってないって言ってたし、あんた達が知ってる通り、あたしもこの旅でジャッジメントには言ってないから」
サイードは知らない間に、生きていた自分の娘を殺してしまっている。
分かったのは、非情すぎる事実だった。
敵とはいえ、いくらなんでもあんまりだった。




