第79話 クレハの決意
クレハは己の信念を捨てたわけではなかったのだ。
裕司達に言った事は嘘だった。
本当の事を話していたら、きっと裕司達は止めていただろう。
だから、今までずっと隠していたのだ。
コハクが手紙を取り落とす。
「うそ、そんなクレハ。何でよ」
コハクと共に手紙を読んでいた裕司達が、互いの顔を見合わせる。
かける言葉がすぐに思いつかなかった。
その時、外で一際強く轟音が響いた。
巨大な何かが暴れ回っている音だ。
「イフリートが倒されてしまったのでしょうか。だとしたらあの悪魔……いいえ、クレハさんはこれからどうするんですの? 意識はあるんですのよね」
コハクは答える。
「いいえ、憑依召喚は自分の体を触媒にするだけでなく、意識も乗っ取られてしまうの。今はまだかろうじて敵味方の区別がついているかもしれなくても、じきにそれも分からなくなるはずよ」
「そ、そんな!」
聞いた裕司はショックを受けた。
「コハクちゃん、何とか戻せないの!?」
「無理よ。今ここにクレハ以上の魔法を使える人はいないわ」
状況は八方塞がりの様だった。
「とりあえず、まずは逃げませんと。距離を取らないと、対策を考える前にやられてしまいかねませんわ」
何をするにしてもまず考える時間が必要だと加奈が主張する。
その通りだと思った裕司は、うずくまっているサイードらしき男性を見る。
「でも、この人どうしよう」
そんな姿を一瞥して、冷たく言い捨てるのはやはりコハクだ。
「おいて行けばいいじゃないこんな奴」
「でも、ひどい事した人だって分かってるけど、このままにして置いたら。クレハさんはきっと悲しむよ」
裕司の言葉を聞いたコハクは唇をかむ。
「だからって、……私の友達を殺した人間を助けるなんて、出来ないわ」
「コハクちゃん……」
「だから、どうにかしたかったら。あんた達でどうにかしないさい。私はそんな男に手を差し伸べたくないの」
「……うん、分かったよ」
それがコハクにとってのギリギリの譲歩ならば、仕方なかった。




