第76話 イフリート
裕司は自分達がしている戦いの意味について考えこんでいた。
だが長々と考え事にふけっていられる時間は無いようだった。
地面が唐突に揺れ出して、巨大な生物が出現する。
それは、赤い灼熱色の皮膚をした巨人だった。
コハクが驚きの声を上げる。
「あれは、イフリート。なんであんな強力な召喚獣が、まさか時間稼ぎってこの為に!? そういえばホワイト・エールの時も巨大な物が暴れ回ってたって町で聞いたけど……」
前に立ち寄った町の惨状は裕司も覚えている。
何か大きなものに壊されたような町の光景は中々忘れたくても忘れられなかった。
だが、それがどういう事か分からなかった裕司はコハクに尋ねた。
「こいつらが暴れ回っていたのは、おそらくサイードが強力な召喚獣を呼びだす時間を稼ぐ為よ。しかもイフリートを呼び出すこの召喚は、禁忌召喚。通常の召喚魔法よりもかなり時間がかかるはずだから。こんな大規模な召喚魔法を行う為には、かなり珍しい触媒が必要なはずなんだけど……。イフリートの償還に必要なのはたしか……人間……まさかっ!」
言葉を失くして絶句するコハクの代わりに、想像がついたらしい加奈が後を引き取った。
「襲った町の人々を生贄にしたと言う事ですのね。ホワイト・エールの惨状はその試行だったかもしれません。人間やアルカミレスを殺せば、報復もできてあの召喚獣を呼び出す為の触媒とやらにもなって一石二鳥だと、そういう事でしたのね」
「そ、そんなっ!」
裕司はショックを受けずにはいられなかった。
(死んだ人を利用するなんて、そんなのひどいよ。確かにアルカディアの人たちは大変な目に遭ったのかもしれないけど、だからって関係のない人達をそんな目に遭わせるのは絶対間違ってる)
胸の内に湧き上がってくる感情が、裕司の中で明確な形になろうとしていた。
だが、事態は予想を超える速さで再び動く事になった。




