第59話 目覚め
クレハは己の意識が働くのを感じとった。
ここの所は、調子が良かったからだろう。
はっきりとした目覚めの兆候を感じながら、クレハは思考を働かせていく。
病気を患ってしまって数年経った。
動く事もままならないが、彼女には町を治める仕事の他に、成さねばならない役目があったので泣き言は言わずに今まで頑張って来た。
アルカディアが犠牲にならなくてもいい方法を探す。
クレハはそんな目的の為に、人生の大部分を眠りに費やしながらも、ひたすらなすべき事の為に力を使い続けて来ていた。
人は、大きすぎる力を前にすると、恐怖心を抱いてしまう。
己と違い過ぎるという事を怖いと思ってしまう。
そんな人達と折り合いをつけるのにはいくつか方法がある。
ただ分からず屋だと罵り、切り捨てる事も一つの方法だろう。
あるいは徹底的な無関心を装って、関わらないようにするか。
だが、クレハはそうはしたくなかった。
分からないのであれば、分かるまで言葉を尽くしたかった。
分かり合えていないのなら、分かってくれるまで努力をしたかった。
今隣にいる人達との未来を、近くにいる人達との明日を、そう簡単に諦めたくはなかったのだ。
だからクレハは、今日までサイードと袂を分かち、自分なりの方法を貫いてきた。
アルカディアも人も、アルカミレスも良きられる世界。
そんな夢が叶うはずがないと、そのサイード自身に言われていたとしてもだ。
愛した己の子供と引き裂かれた時に受けた、サイードのショックはクレハもよく分かっていた。
だがそれでも自分の信じている事を、抱いている思いを、信念を曲げるわけにはいかなかった。
だから、とクレハは久しぶりの目覚めを感じながら思う。
(どうか、私のこの方法が実って。彼の行動を止められますように)




