第47話 もう一つの復讐心
兼ねてから計画していた大粛清の準備を進めるサイードは、ホワイト・エールで活動しているだろうリシュリーやジャスティス達の帰還を待ちながら、考え事をしていた。
……。
それは今ではない、昔の事だ。
生まれたばかりの子供に名前を付けるはずだった。
クレハとサイードの間にできた子供の事だ。
どんな宝物よりも大切な命。
サイードはその小さな手を握って、抱きしめてやるはずだった。
二人の血を引いた、かけがえのない新しい命を。
サイード達が親となって、面倒を見るはずだった。それからの時間、ずっと一緒に過ごすはずだった。
けれど、サイード達はその子供と引き離された。
危険だったからだ。
とても力が強くて、その子の力が暴走すれば町一つが簡単に滅んでしまうからだった。
だから、サイード達は自分達がつけた名前でその子を呼んでやることができなかった。
頼りなく小さな手を握ってやる事も、抱きしめてやる事もできなかった。
サイードは父親になる事ができなかった。
クレハも母親になる事が出来なかった。
子供はサイード達の子供になる事が出来ないまま、どこかへと消えてしまった。
力の強い、危険なアルカディアの子供だから。
数年経ってから、サイードは知った。アルカディアに対する世界の仕打ちを。
強烈すぎる力を持っているがゆえに、アルカディア達は生まれてからすぐに隔離施設に入れられて、その存在を世間から秘匿され続けていた。
自由はなく、監視の目が常につきまとう。
アルカディア達は普通の人生を歩ませては貰えていなかった。
狭い世界を世界の全てだと思い込む少年少女達の事が、サイードはとても可哀想に思えた。
だから、サイードは決意したのだ。
同じように真実を知ったクレハと、意見を別ち、決別したのだ。
クレハとはやり直す事など、できない。
再び共に歩む事などありえなかった。
彼らがアルカディアを脅かすのなら、サイードはそんな彼等を全てを滅ぼさなければならない。
アルカディアであるサイードの同胞を傷つけた報いだ。
これは正当な復讐なのだ。
心から望んだ事ではないが、この地上から彼等を消し去らなければサイード達に安寧は訪れないのだから、仕方がない
サイードは、この世界をアルカディア達が安心して暮らせる、綺麗な場所にしなければならななかった。




