第16話 湖
数日かけて移動して裕司達が辿り着いたのは、大きな湖の前だった。
だが、その周囲には何もない。
里は焼かれたと聞いたが、建物があった痕跡一つすら見つからなかった。
「ブルー・ミストラルはここよ」
「え、でも……何もないよ」
到着したとでも言わんばかりのコハクに、目の前の景色を見た裕司は当然の反応を返す。
加奈が、何かを思いついたとでも言う様な表情をコハクへと向ける。
「まさかこの湖の中、だなんて言い出すのでは……ありませんわよね」
「良い勘してるじゃない。そのまさか、よ」
「本気で言っているんですの?」
「ええ」
一歩前に出たコハクは、杖を取り出して呪文を唱える。
「ムア・ユークト!」
すると湖の水面が光り輝いて、薄い青の色が透明になり始めた。
「この湖の水は特別なの。溺れたりしないから、付いてきなさい」
コハクは自慢げにそう言って、湖の中へとざぶざぶ水をかき分けて入っていってしまう。
裕司と加奈は顔を見合わせた。
「だ、大丈夫なのかな……」
「彼女が前を進んでいる限り、私達はとりあえず大丈夫だと思いますわ。進みましょう」
「それはちょっと、ずるい様な気もするけど」
「適材適所ですわ。未知のものに戸惑う事は、人間として当然の事。溺れたら後で私達が回収すればいいだけの事ですわね」
「それもちょっと……」
加奈の現実的な物言いに、裕司が気後れしていると、その会話が聞こえていたらしいコハクが、怒鳴ってきた。
「聞こてるわよ、ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと来なさい!」