第10話 元の世界
裕司は自分達の生活していた世界の事を思い出す。
当たり前の事ばかりなので、あえて特徴を挙げろと言われると少し困った。
「亜人はいなかったよね。魔法を使える人も」
「ええ、そうですわね。血なまぐさい話は時々起こりましたけど、生死にかかわる事に巻き込まれるなんて一生に一度あるかないくらいですわ。他の地域はそうではありませんでしたけど、私達の育った地域は、平和でしたもの」
「ええ? 嘘!」
内容を聞いてコハクは明らかにショックを受けたようだった。
「それじゃあ、戦力にならないじゃない!」
そう言って、頭を抱え始める。
だが、そこに裕司は微妙な心持ちで話しかけ、その言葉を否定した。
「えっと、それはたぶん大丈夫だと思うよ」
だが、コハクは聞いていない様だった。
「はぁ、そんな腑抜けた世界出身の人間なんて、召喚ミスも良い所だわ。おまけに召喚獣でもないし、子供だし、人間だし」
(子供は、コハクちゃんも同じなんじゃ……)
思った事は色々あるが、文句が尽きないと言った様子のコハクに睨みつけられて裕司は言葉がでない。
代わりに加奈が話す。
「確かに私達は、召喚獣とやらでも、大人でもありませんし、魔法が使えるアルカミレスとやらでもありませんわ。ですけど、それで切って捨てるには少々、勿体ないですわよ。私達、他の方とは違って、かなり特異な環境で育ってきてますの。護身術のみならず、戦闘に関する心得くらいは身に着けておりますわよ」
「どういう意味よ」
「直に分かりますわ」
理解できないと言ったようなコハクに、加奈はすまし顔で思わせぶりな言葉を投げつける。
そして、部屋の中を見まわしていく。
「それより、ほんとうにここにあるもの好きに選んでもよろしいんですわよね」
「ええ、まあね。ラシェータおばさんとナジェルおじさんは約束を破らないわ。ちょっと人数は増えちゃったけど、問題ないはずよ」
「そうですの。では少し見回らせていただきますわ。いきましょう裕司様」
「う、うん」