第100話 魔法の成功
まばゆい光が周囲に満ちて、ひときわ強く輝く。
その光が晴れた後、町を見れば召喚悪魔の姿はどこにもなかった。
煉獄色の炎も跡形もなく消え去っていた。
視線の先にあるのは、倒れたクレハの姿だった。
「クレハ!」
コハクが真っ先に、そして遅れて裕司達が駆け寄る。
呼吸はあるし、怪我もないようだった。
その事に一安心した。
「助けられたのか」
サイードが躊躇いながらも、倒れたクレハの傍に寄ろうとするが踏みとどまった。
心配そうな視線を向ける続けるものの、それ以上決して近づこうとはしない。
そんなサイードに声をかけるのはコハクだ。
「あたしはあんた達を許してないわ。一度決めた事はまげない。クレハが悲しむからあんた達は殺さないけど、必ず報いはうけてもらうから」
「だろうな」
裕司がはらはらしながら見つめていると、サイードは一度頭をふって、クレハを心配げに見つめた後に背を向ける。
そして、リシュリー達を連れてその場を去って行った。
裕司はコハクに尋ねた。
「コハクちゃん、これで良いの?」
「簡単には人の心は変えられないわ。むしろ数時間だけ譲歩してあげて、今も見逃してあげようとしてる事に感謝して欲しいくらいね」
リィン達などの亡くなった人達の事を考えれば、多くの罪を侵したサイード達を簡単に許す事が出来ないと言うのは分かる事だった。
だが、かといってお互い満身創痍である今やり合っても碌な結果にならない事が分かっているからコハクは見逃すのだろう。
そんな裕司に加奈が安心させるように声をかける。
「大丈夫ですわよ、裕司様。コハクは変わりましたもの」
ポポもポポなりに、大丈夫だと判断した様だった。
「うん。ボクもちょっとだけ、前のコハクとは違うなって思うよ。よく分かんないけど、コハクがとてもすっごく怖かったのが、今はただすっごく怖いだけだもん」
「何よそれ、誉めてるのか貶してるのか分からないじゃない」
苦笑しながらも、しかしポポと同じ気持ちだった裕司は、大きく頷いた。
「ポポちゃんの言う通りだね。今のコハクちゃんの方がボクは好きだよ」
「っ、あんたって……よくそう言う事恥ずかしげもなく言えるわね」
顔を赤くしたコハクが目をそらした。
「まさかライバル出現ですの? ちょっと焼いてしまいますわ」
その後に加奈の言ってる事は、よく分からなかった。
とりあえずまずはクレハの体調が心配だった。
「ひとまず病院に運びましょう。その後で人を呼んでこないとね。今のクレハをつれて近くの町まで移動するのは大変だろうし」
コハクが倒れたクレハを気遣いながらそう言った。