第99話 作戦の要
炎の中を走った裕司達は無事に壁の向こう側へと通り抜けられる事ができた。
「遅い! まったく、やられたかと思ったじゃない!」
そこに声をかけてくるのは、裕司達に腕輪を投げてよこしたコハクだ。
ポポから腕輪を受けとって、コハクは再び自分の腕にはめる。
そして、その腕輪にそっと感謝の言葉を呟いた。
「リィン、裕司達を助けてくれてありがとう」
コハクの近くにいたサイードは、安堵の言葉を無事だったリシュリー達に声をかけている。
やるべき事をやり終えた裕司達の代わりに、今度はコハクが頑張る番だった。
「さあ、魔法を発動させるわよ」
コハクは自分がかいだ魔法陣の近くへ立ち、杖を掲げる。
魔法陣の線に沿うように置かれているのは、サイードが集めて来た触媒だ。
「クレハ、今助けるわ。サイード、何かあっても必ずあたしを守りなさい」
「……分かってる」
一瞬だけ複雑そうな表情になりつつもコハクは、サイードにそう声をかけて集中する。
「ユア・ヌーア・ライ・メフォル……」
そして、呪文を唱えていく。
禁忌魔法を発動させるための長い呪文が、次々にコハクの口か紡がれていった。
だが、相手も大人しくしてはいない。
やがて、 自分の魔法で作った炎では傷つかないのか、平気そうな様子で炎の壁の向こうから召喚悪魔が表れた。
「っ、そこから先には進ません!」
それをくいとめるのはサイードだ。
召喚悪魔に向けて手をかざすと、そこから強烈な突風が吹きすさんだ後、稲妻爆炎が飛んだりした。
「……っ!」
サイードの魔法が次々と召喚悪魔に当たるが、相手は止まらない。
魔法の発動を止める事のない、サイードは近づいてい来る召喚悪魔を、見つめて叫んだ。
「止まれっ! クレハ!」
その声に、召喚悪魔は一瞬だけ反応したように見えた。
目の錯覚だとも思えるその瞬間の後、召喚悪魔はわずかに理性を窺わせる声で言葉を紡ぐ。
「さ、さいー……ど……」
途切れ途切れのその言葉は聞き間違いなどではなかった。
「出来たわ。ぶちかます!!」
そして、見計らったように長い詠唱を終えたコハクが叫ぶ。
サイードが、その近くに立って二人分の力で魔法を行使する。
大魔導士でもないコハク一人ではどうしても、魔力が足りなかったからだ。
「クレハの体から出て行きなさい」
町を取り囲む様に描かれた魔法陣が、光り輝いた。
「「ムル・フレム・イーア!」」