3話 結局、王都来ても今のとこ何も得られてない・・・帰りたい・・・
3話です。
帰りたいコカゲと返したくない王国のやり取りです。
Sideコカゲ
さて、王都です。面倒だけども王都です。ほんと来たくなかったけど王都です。大事なことなので三回言いました。
そこで、すっごく不満そうな顔をして馬車の上に載っている。というのは、王都の近くで使者と合流し、馬車に乗ることになったのはいいのだが、屋根の無い馬車というので嫌な予感がした。そして王都に入ると、大通りの周りには人人人。王国の野郎、既に俺が新たな勇者として公表したようで、これが勇者を迎え入れる歓迎パレードとしたようだ。まだやるとは一言も言ってないんだけどね。
「・・・・・・・・・」
まあ王国としては、これで民衆から歓迎されてるとか、俺が断りにくくなるとか企んだんだろうけども、そんなの知ったことじゃない。というか精霊から教えてもらったんだけど、当時追放したコカゲと俺が同一人物というのを隠しているみたいなんだよね。そうでもしないと民衆に受け入れられないとかって考えたのかもしれんけど、まあいい気分ではないわな。
ということもあり、久々に王国に対してのイライラが増しており、仏頂面で腕を組んで不満そうに座っていると、だんだんと王城が近づいてきた。
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王城の中に入るとそこで馬車を降り、そのままメイドの案内で中へと進む。中は全く変わっておらず、そのまま控室に連れていかれた。
「勇者様、お茶をどうぞ」
そう言ってお茶を出されるが、一切口に付ける気はない。さっきのパレードでふかーく思い出したが、ここにいるのは自分のためには他人の都合や約束などを捻じ曲げるやつらだ。このままお茶に何か入れられてるとも限らないし、ここは敵地と念頭において行動しないと。
「あの、何か、お飲み物に混ざっていたでしょうか?」
飲み物を一切飲まないのを心配したのか、メイドがこちらに聞いてくる。
「いや、俺にとってここは敵地だから、何出されても手を付ける気はないよ」
俺がそう言うと、メイドはきょとんとした顔になる。
「敵地・・・ですか・・・?」
「ああ、20年前されたことを忘れたわけではないからね」
「20年前・・・」
このメイドは若いから当時王城にいたわけでもないのか、当時追放されたのが知ってはいても、そのコカゲと俺が結びつかないのだろう。
ほぼ拒絶するようにメイドとの会話を断ち切ると、それ以上何を話しかけてくることもなくなり、時間だけが過ぎていった。
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Side王
まずいまずいまずい。メイド長より、控室にいる勇者の様子を聞いたが、一切何も口に付けず、またここを敵地と言い切ったと。
「宰相よ」
「ええ、最悪ですな」
これでは、仮に魔王討伐が果たせたとしても、王国を滅ぼされるかもしれない。いやそれよりも、まず魔王討伐に行ってくれるのかも怪しい。
「与える報酬をよりよくしないといけないかもしれませぬな」
「ああ。予定より多めに提案するようにしよう」
だが、まさか、ああなるとは。勇者が何も求めないなど、だれが予想できるだろうか。
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Sideコカゲ
時間がたった後、謁見の間に呼ばれ、王、貴族、他がそろっている謁見の間に入る。軽く見渡すと、他国の魔道国、教会、教国、商業国、鍛冶国などなど、この世界にいるほぼすべての国の要人が来ていた。それだけ俺のことを重要視しているのかもしれない。
「よく来た、新たな勇者、コカゲよ。前の勇者が魔王を討伐してからもう20年たったが、新たな魔王が現れた。余はそなたの力を借り、またこの世界から魔王を消し去り平和を取り戻したいと考えている。もちろん報酬に関しても、願いをかなえられるだけかなえようと思う。どうか、魔王と戦ってほしい」
そう王が言うと、他国の使者たちも王に続き
「我々からもお願いいたします」
と次々に言ってくる。
まあ、何を言われたところで、俺の答えはNOなんだが。
そしてあらかたの国の使者が言い終わると、間が鎮まる。だから、俺ははっきりと言ってやった。
「断る」
そうすると間がざわつく。誰も俺が断るとは思っていなかったのだろう。まあそりゃ、今まではみんな守りたいものあったりとか、地位、名誉が欲しいとかあったんだろうけど、別に今の生活で満足できてる俺にはこれ以上何か欲しいものもないし。
「そなたは、なぜ断ると?」
「特に報酬としてほしいものもなければ、20年前のことも到底許していない以上、私がなぜこの国を守らなければならないのか。逆にこの状態で勇者として戦うとなぜ答えると思ったのか。私にはわからない」
俺がそう言うと、王と宰相がそう来たかという顔をする。
「これ以上、俺から何も言えることはない。帰らせていただく」
そう言い俺が帰ろうとすると、引き留める声がした。
「いや待ってくれ。もちろん求められるなら20年前のことをなかったことにもするし、そちらの望みもできるだけかなえるが、何を望むのかだけでも教えてはくれないか」
「まず求められなければ謝らない時点で論外と考えるし、私が望むものは何もない。地位も名誉も女も。全てあなたに奪われた。ちなみにこれは王国だけではない。すべての国が俺を指名手配したのを知っている」
正確には女だけは奪われたわけじゃないけども。そうしようとしたのは間違いので。
そのあと、王国の必死の引き留めに、またここに来ることだけは約束するも、勇者として戦うことだけは承諾せず、今日の謁見は終わりとなった。次の時に王国の方から報酬について提案してくれるとかなんとか。
もちろん、次の謁見まで王城にいていいといわれたが、なぜ敵地にいられるのかよくわからないので、城下の適当な宿に泊まることとして王城を出た。
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Side王
「まあ最低限は達成というところでしょうかな」
「だな。これで縁まで切れていたら完全に終わりであった」
謁見を終え、執務室に戻った私と宰相はひどく披露していた。
「しかし、報酬として何も望まないとは・・・」
「さすがに予想外でありましたなぁ」
と、そこに先ほどの謁見にはいなかった王女のエルのほか、前聖女、前聖騎士、前魔導士が部屋に入ってくる。
「お父様、勇者様は?」
「おお、エルや。勇者とは、一度時間を置くこととなった。最低限といったところだよ」
「そうですか・・・」
エルと共に落ち込んでいると、前聖女が声をかけてくる。
「あの、私たちについてはなにか・・・?」
もしマコトとの血縁をすべて処刑などと言われたら自分の身も危ういからか心配そうに聞いてきた。
「いや、何を言っておらんかった。それどころか、報酬としては何も望むものがないと」
それを聞いたエルが顔を青くする。
「であれば、お父様」
「ああ、その可能性もある」
エルと二人で最悪の可能性を考えていると、前聖女たちはよくわからないのか、首をかしげていたので、わかるように説明する。
「勇者が何も望まないということは、逆に勇者として魔王を討伐に行くこともしないかもしれないということだ。つまり、私たちは見捨てられたかもしれない」
仮に他国に逃げようとも、すべての国が指名手配したのを知っているといっていた以上、他の国のためでも動くのは嫌という可能性が高い。
その最悪の可能性を知った前聖女たちも顔を真っ青にし、執務室はお通夜の空気となった。
「次の時に勇者が食いつける報酬を用意できるかどうか。そこに全てかかっているのだろうな」
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Sideコカゲ
さて、次の約束の日だ。
この日まで宿屋を転々としつつ、色々調べてみた。まあ主に20年前に追放されたコカゲという人物についてだが、まあ面白い。というのは、王国民のすべてがコカゲに対していい感情を抱いていなかったのだ。まあつまり、王国は新たな勇者コカゲと20年前に追放されたコカゲが同一人物であると伝える気はないのだろう。ここまで全く誠意を感じられないというのもなんだかんだ珍しい。
そんなのを考え、今日できっぱり終わりにして帰ろうとか思っている俺だが、まあとりあえず王城に向かう。ちなみに今日は魔法で姿を消したエスト、エリカ、エリスがくっついてきている。家で待ってるのも暇なんだって。
城門につくと俺の顔を見た門番がすぐにメイドを呼びに行き、今日はそのまま謁見の間に案内される。そして中に入ると、この前と同じ光景が広がっていた。が、少しだけ違うのは、王の周りにエルやほかの女性がいることか。いや、エルも老けたね。20年の月日は残酷、かな?
「またよく来てくれた、コカゲよ。今日だが、以前言った通り、こちらから報酬について提案させてほしい」
「ああ、確かに俺が思いつかなかったが、欲しいものがあるかもしれないからな」
一つ頷き、王が話し出す。
「まず勇者討伐の報酬の前に、ここまで来てくれた報酬として、新たにそなたにつける聖女、聖騎士、魔導士との婚約としたい。更に報酬ではないが、受けても受けなくても20年前の謝罪、そなたの名誉回復を誓いたいと思う」
ほう、そう来たか。王がそう言うのと同時に王の横にいた三人の少女が前に出てくる。うん、エストたちに比べれば劣るけど、確かにかわいいね。ってエスト、俺だけに向けて殺気を放つな。
「受けるかどうかはいったん置かせてもらって、続きを聞かせてもらいたい」
まあこれくらいは受けてもいいんだけど、エストが怖いので保留にして先を促す。
「そうか。では次は魔王討伐としての報酬だが、まず地位として王の地位を用意している。また冒険者組合より、最高ランクの贈呈、教会からも教皇とは言えないが、枢機卿の地位を。ほかの各国からもトップかその次位の位を用意するとの確約を得ている。金も一生働かずとも済むだけの金額を用意する。女が欲しいのであれば、城のメイドや他国のものの誰に手を出しても一切不問とする。研究したいのであれば素材や場所、予算の優遇を取るし、学園都市にも席を用意する。奴隷も用意するし、名産品や最強の武器など、全て揃えて見せよう。これが、余からできる提案となる」
ふむ。なりふり構わない、といった感じか。出せるものは全部出すという意気込みを感じる。
まあ、だからと言って、俺の心を変えるくらいのものはなかったかな。
「王よ、それであれば、俺はやはり勇者の話は断ります。それに、新たな聖女たちとの婚約もいらない」
そういったら、王の横にいた女性がこちらにとびかかってくる。なんだこのおばさんは。
殴りかかってきたのを手で逸らしつつ、足払いしてうつぶせに寝かせて間接を極めて拘束。
「なによあんた!! これだけ全部を差し出すといっているのに、それでも魔王と戦わないって、何様のつもり!!」
その女性は俺をにらみつけながら、俺にそう怒鳴りかかってくる。さすがに自分勝手もいいとこじゃないかな?
「俺は20年前、王国に婚約者、名誉、地位、すべてを奪われそうになった。そのままずっと放置され、困ったときにだけ呼ばれて以前の関係を直してくれ。しかもこちらが言わないと名誉回復すら動くつもりはなかった。それなのに自分たちのすべてを出したんだし受けるのが当たり前だと? 自分勝手もたいがいにしろよ」
そう怨嗟を込めながら言う。
「20年前20年前って、昔のことに執着してばっかみたい」
「おうなんとでもいうがいいさ。俺は昔手ひどくやられたことを許せるほどできた人間じゃないんでね。そんな奴が勇者なんかやらないほうがあんたらにとっても都合いいんじゃないのか?」
これ以上言えることはないのか、女が目をそらす。
それを見て、王に目を向ける。
「近衛兵、あれを連れていけ。前聖女だろうが、場を読めないものにここにいる資格はない」
そうして近衛兵が前聖女を連れていくと、王国側は完全に暗い空気になっている。
さて、じゃあここらで完全な幕引きを図ろうか。どうやら女神も後ろに来ているみたいだし。
ここを書きたいがためにこの小説を書き始めました。
満足なので、後はしっかりとどめを刺します。