1話 婚約破棄されて王都から追放されたけど、なんかみんなついてきた
最近はやりのざまぁものを書こうと思ったのですが、気づいたらこんなのになっていました。
「コカゲと聖女エストの婚約を破棄とし、勇者マコトと聖女エスト、聖騎士エリス、魔導士エリカ、そして私の娘のエルの四人との婚約を王命によって命じる!!」
突然のことだった。
俺の周りにいるのは異世界から召喚されたという勇者マコト。幼馴染で将来の約束をしていたが、聖女になるという、女神様からの天啓を受け、教会に認められた聖女エスト。近衛騎士団きってのエースで守ることに長け、王国に認められた聖騎士エリス。天才魔導士と呼ばれ、さまざまな魔道理論を提唱し、魔道国から認められた魔導士エリカ。の四人。そこに俺がなぜか加えられ、勇者パーティーとして魔王討伐に向けて冒険を続けていた。
今日は久々に出発地の王国に戻り、冒険の進捗を王や貴族に勇者が話していたとこだったが、それも終わった後、王から何かの発表があるといわれ、その内容がさっきの王命になる。
「この王命は勇者からの要望があったこともあり、ここまで圧倒的な成果を出した勇者に報いるためのものとして余が用意したものだ。異論は認めぬ」
そうか・・・。確かに勇者のやつはいつもいつもエストをはじめとする女性陣に積極的にアプローチしていたが、それに応えないとなるとこんな手を使ってきたのか。そりゃ肉体を求める変な視線を常に向けられたら応えるものも応えないと思うが・・・。だからと言って、俺とエストとの婚約を無理矢理破棄させてまで婚約させるというのは・・・。全くいただけない。というか、元々の報酬でエルと婚約することになってたんだからそれで満足できなかったのだろうか。いや、できなかったから今こうなっているんだろうけども。
ここまでは俺もまだ正気を保てていた。婚約破棄されたとはいえ、別にエストと仲違いしたわけではない。これからも冒険はあるのだし、その間に対策を立てればいいと。そんなことを考えていたが、どうやら甘かったようだった。
「さらに、勇者からの報告を聞くに、どうやらコカゲは常に怠け、命じられた仕事も行わず、かと言って戦いに出るでもない穀潰しと聞く。そうであれば、勇者パーティーには入れるのは妥当ではないばかりではなく、この国から出した支給品を食いつぶしていた裏切り者であり犯罪人と考える。よって、コカゲを勇者パーティーより追放とし、またこの王国からも永久に放逐するものとする!! これも王命である!!」
その言葉に、俺は目の前が真っ暗になった。嘘だ・・・。そんなの・・・。俺はしっかりと戦えない代わりに野営地の設営、家事、交渉など下働きをすべて行ってきた。なのにこれというのは・・・。
そうか、勇者か。俺を完全に追放することで、聖女、聖騎士、魔導士をすべてわがものにしようと、そういうことなのか・・・。完全にしてやられた。
俺は口の裏側を噛むも、既に王命として発布されてしまった以上、何もできることはない。
「しかし、余も慈悲は持つ。故に今すぐにではなく、今日中に王都より出ていけばよいものとする」
何が慈悲だ。とはいえ、今すぐにと言われたらさすがにまずいところだった。それでないだけましとするしかない。
「余の話は以上である。皆、下がってよい」
王の話が終わり下がらせられた俺は、急いで自室に帰り、手持ちの荷物をすべてまとめ、実家にいる家族に手紙を書きなどなど。いろんなことをやっているとあっという間に夜になる。普通なら夜街の外に出るなど自殺行為だが、このまま居て別の冤罪をかけられるのもごめんと思った俺は、まとめた荷物を持ち城を出る。
最後に勇者以外のメンバーに声をかけたかったけど、みんな忙しかったのかだれと会うこともできなかった。
勇者との婚約の準備でもしているのだろうか・・・。軽く落ち込みつつも、そのままの足で歓楽街を抜け、街の城門を出た俺は街道を進んでいった。
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Side エスト
コカゲくんが冤罪を着せられ・・・ううん。冤罪ですらない。こんなの茶番だ。その茶番の被害者にさせられ、私との婚約が破棄された。
私はあの王命が発布された場で何も言うことはできなかった。自分の婚約者がひどい目にあっているのに、動けなかった自分が憎い。
「大丈夫、ですか?」
一緒にパーティーを組んでいるエリスが私の顔を覗き込みながら心配してくれる。
「うん、大丈夫。それよりも、これからのことを考えないと」
まあ、考えるまでもなく私の行動は決まっているけども、ね? コカゲくんのいるところに私あり、ってね。
「うん・・・。でも、エストはもう決まっているみたい・・・」
エリカが眠そうな目をしながらこちらを見ている。そんなにわかりやすいかなぁ、私。
「私は、エストについていく・・・。あの勇者、気持ち悪いし・・・」
「じゃあ私もご一緒させてもらいましょうか。いつも変な目で見てくるので、いやなんですよね」
エリカがついてくる宣言すると、エリスもそれに乗っかる。ほんと嫌われてるなぁ、あの勇者。まあ、自業自得なんだろうけど。
そうと決まれば後は早い。部屋を片付け、エル王女に挨拶をし、勇者パーティーを脱退するという置手紙を書き。夕方には全部終わった私たちは不審がられないように、近くの森で野営の訓練をするという嘘をついて王都を出た。明日の朝頃にエリカがかけた魔法が解けて、部屋にある置手紙が見れるようになるはずだ。あ、エルはもともと勇者と結ばれることになっていたし、それが王女の役目とか言ってたから残るみたい。私はそんなのいやだし、このままでいると王女と同列になって役目とか果たさないといけなくなりそうだし、やっぱり逃げよう。
さてさて、街道をある程度行ったとこでコカゲくんを待伏せしようかな。
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Side コカゲ
「こっかげくうううううん♪♪♪♪♪♪」
街道を歩いていたら、いきなり名前を呼ばれつつ、誰かがとびかかってきた。聞き覚えのある声と思い躊躇していると、誰かが抱き着いてきた。
「えへへ~♪久しぶりのコカゲくんだぁ♪」
抱き着いてきたのはエスト。って背中を撫でまわすなすんすんにおいをかぐなぐりぐりと頭を押し付けるな小動物かお前は!!
「え、お前、エスト・・・? あれ、お前ってこんなキャラだったっけ?」
初めて見る幼馴染の状態に困惑を覚える。
「だって勇者がず~~~~~~~~~~~~~~~っといたからスキンシップも取れなくって。だから、今までの分を一気に、ね?」
そうやってすりすり甘えるエストの頭をなでていると、エストの着たほうから更に二人ほど人が出てくる。エリカとエリスだ。ところで、エスト、エリカ、エリスって音が似てて間違えそうにならない? 俺はよく間違えそうになる。
「で、君らもどうしたの? 勇者は?」
「君なしであれと旅をするのは嫌だったから逃げてきた・・・」
「今までも、あなたがいると思えばあれとの旅に耐えれてただけですし?」
勇者をあれ扱いとは・・・。よっぽど嫌われてたんだなぁ、あの勇者。
「で、これから三人はどうするの?」
「もちろんコカゲくんと一緒に行くよ?」
「そのつもりで来た・・・」
「これからもずっといっしょ、ですよ?」
・・・なんか三人の目が怪しい。
と、急にエストが振り返ってエリカとエリスを見る。
「一応言っておくけど、コカゲくんは私のものだからね!」
いやものってなんだよ。
「・・・だめ、エストだけのものにはさせない」
と言ってエリカが俺の右腕に抱き着いてくる。・・・ほわい?
「そうそう。みんなで仲良く、致しましょう?」
エリスは左腕に抱き着いてくる。え、なんで??
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
エストがほっぺたを膨らませながら二人をにらみつけるも、二人はお構いなし。
「と、とりあえず、移動しない・・・? このまま街道にいても、ね?」
状況を打破しようと先に進むことを提案する。
「うん!! どこにいこっか?」
「どこか静かなとこでスローライフを提案・・・」
「あら、いいですね。それなら、少し離れたところですが、自然に囲まれて過ごしやすいところがあるそうですよ。そこ行きましょう」
俺抜きに話がまとまり、勝手に行き先が決まる。一人旅になるとばっかり思っていたが、思いがけない連れができた。
自分でも気づかないまま笑みを浮かべつつも、そのまま街道を歩いて行った。
次話からコカゲと王国の駆け引きが始まる・・・はず。