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ラズーン 4  作者: segakiyui
8.使者

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2

「はいっ!」「わっ」「何だ!」

 『氷の双宮』を囲む内壁の周囲にたっていた小さな市の中を、ユーノはヒストを蹴立てて走り抜けた。目指す門まではもう少し、壁に沿って回り込まなくてはならない。

「この…っ!」「乱暴者っ!!」「ごめんよっ!」

 怒号の中を謝る間ももどかしく馬を駆けさせる。

(あそこだ!)

 だがそれでも、ユーノが門に辿り着いた時は既に、ジーフォ公らしい騎馬が入り終え、扉が閉まろうとする直前だった。

「ヒストッ!」

 掛け声一声、たじろぐ間もあらばこそ、強引にその隙間に飛び込んでいく。

「何者っ…」

 ぎりぎりで扉の間を擦り抜けたユーノに、はっとしたように前に居た武者が向きを変えた。短い髪は細かく縮らせてあり、その下の太い眉、いかつい口許とともに、一目見て武官とわかる。これがジーフォ公だとすれば、ラズーンの四大公というのはかなり各々違った容貌が揃うのだろう。

「火急の用事、『太皇スーグ』にお会いする!!」

「ならんっ!」

 間髪いれず、相手は叫んだ。ぎらぎらと闘志に燃える焦げ茶色の瞳がさっと彼女を一瞥する。年若い顔だが、その目には場数を踏んだ自信が伺える。

「貴様のような得体の知れぬ小僧を黙って通したとあっては、ジーフォ公はアギャンの腰抜けよりも阿呆と嗤われる!」

 すらりと抜き放った剣は、朝の光を猛々しく跳ね返して、ユーノの目を射た。

「ここは俺を倒して通るがいい!」「!」

(くそっ)

 ユーノは歯噛みして相手を睨みつけた。

 構えからしても度胸からしても、相手はおそらくかなりの武人、剣を合わせれば貴重な時間を徒に食うだけだ。かと言って、ラズーン四大公の一人を切り捨てて通るというわけにもいかない。釈明するにしても、ユーノのことを頭から不法侵入者と決めてかかっている相手に、どこまでことばが通じるか…。

 と、その時、もう一つの声が届いた。

「お待ち下さい、ジーフォ公。その方は怪しい者ではありませんよ」

「うむ?」「っ」

 振り向くユーノの目に、短い直毛の金髪、深緑の目を輝かせた男が映る。

視察官オペジュナ・グラティアス…」

視察官オペ…?)

 ジーフォ公の声に、ユーノは眉をひそめる。

 一瞬、何か妙な感じを受けた。だが、それは捉えようとしたとたんに消え失せ、後にはどうにも説明し難い不快感だけが残る。

「その方はユーノ・セレディス。『銀の王族』で、ラズーンの『正統後継者』候補…」

「何?」

 ジーフォ公がぎょっとしたようにユーノを振り返る。

(変だ…)

 だが、ユーノは再び湧き上がった違和感に気をとられた。

(だけど、一体何が?)

 答えは目の前にある。なのに、どうしても掴めない。

「そのような方が『太皇スーグ』に火急の用事とあれば、引き止めるわけにはいきますまい」

「む…」

 納得し切れない表情で不承不承頷いたジーフォ公から、ジュナはくるりとユーノを振り返った。

「ユーノ様、どうぞ、お早く」

「っ、ありがとう!」

 我に返り、ユーノはヒストの手綱を握り直した。一声高く声をかける。

「行くぞ、ヒスト!」

 待ってましたとばかりに走り出すヒストの背のユーノの頭には、既に『狩人の山』(オムニド)のことしかない。見送るジュナが執拗に見守っている気配はしたものの、懸念は置き去って、ユーノは『氷の双宮』へとヒストを駆り続けた。


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