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ラズーン 4  作者: segakiyui
5.ダイン要城
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2

 地下道の入り口までは、それほどかからなかった。いずれも騎馬に秀でた5人のこと、たいした疲れもなく、ラズーンの外壁近く、小さな森に隠された石造りの門に辿り着く。

「とりあえず、正面から入ってみようと思う」

 ヒストから降り、主の気配を敏感に察したのだろう、訝しげに体を揺する愛馬を軽く叩いて宥めてやりながら、ユーノはイルファに続ける。

「でないと、相手がどんな手に出てくるのかわからないし……万が一にも姉さまが別の場所に閉じ込められているとしたら、面倒だ」

「そうだな」

 イルファが腰に手を当て、四角い石を積み上げた長方形の地下道の入り口から、中を覗き込みながら応じる。

「俺達は、その王の私室にあるという出口の方に詰めとくとして………どれぐらい時間がいる?」

「そうだな…」

 地下道から吹き出してくる風は湿った土の匂いを含んでいる。乱れる髪を軽く手で押さえながら答えた。

「丸1日」

 控えているリヒャルティ達を肩越しに振り返る。

「丸1日たって私が帰ってこなければ、私室から乗り込んできてくれ」

「ちょっと待てよ」

 リヒャルティがぎょっとした顔で目を見開いた。

「帰ってこなければ乗り込めって……じゃ、何かよ、1人で行く気かよ」

「ダイン要城の中へはね」

 リヒャルティを見つめ返す。

「そんな……それじゃ、何のためにオレ達が付いて来たのか、わかんないだろ?! オレ、兄貴にどう言やぁいいんだよ!」

 露骨に顔をしかめて反対するリヒャルティを、

「付いては来てもらうさ」

 優しい笑みで説得にかかる。

「地下道は私1人じゃ通り抜けられないもの」

「だけど、その先は?!」

 リヒャルティは弟が姉を心配するような真剣さで声を荒げた。

「その先はどうするんだよ! 守りの兵士に捕まったら? 正面から入ってって身動き取れなくなったら?!」

「…」

 ユーノは少し目を伏せた。

 それは十分に考えていた。むしろ、無事に姉に会わせてもらえる確率の方が少ない。まずくすれば、そのままレアナとともに晒しものになるかも知れないのだ。

 だが、どれほどその可能性が高いと予想したところで、レアナが捕まっている以上、ユーノには行くしか道がない。

「手紙には、1人で、とあった」

 低い声で応じた。

「じゃあ、1人で行くしかない。もし、それに抗って、姉さまを殺させてしまったら」

 脳裏を掠める悪夢。どす黒い後悔と身を絞る悲痛。

 あんなことはまっぴらだ。

 唇をきつく噛み締め、吹っ切る。

「それこそ、どれほど後悔しても取り戻せない」

「だけどユーノは!」

 リヒャルティが食い下がる。

「ユーノの体は誰が心配するんだよ!」

「っ」

 リヒャルティのことばが、一番弱いところに突き刺さった。ぎくりとしたのを勘づかれまいと、あえてふてぶてしく笑ってみせる。

「大丈夫だよ、リヒャルティ」

 短い髪の毛を跳ね上げて請け負った。

「私も伊達に『星の剣士』(ニスフェル)と呼ばれたわけじゃないんだ。そう易々と殺られはしないさ」

「そうだぜ、リヒャルティ」

 イルファが何を気にしてるんだと言う顔で口を挟む。

「こいつなら、1対20でも生き抜けるさ」

「そりゃ…そうかもしんねえけど………そりゃ、『星の剣士』(ニスフェル)なら、そうかもしんねえけどさ」

 口ごもる相手にことばを重ねる。

「それに、リヒャルティ達に詰めておいてもらえるからこそ、私も安心して動けるんだしね」

「リヒャルティ、ここは一つ、『星の剣士』(ニスフェル)の言うことに従ったらどうです?」

「そうですよ」

 バルカとギャティが代わる代わる宥める。

「仮にも、『星の剣士』(ニスフェル)の名前をとったほどの人だ。任せられるんじゃないですか?」

「う…」

 リヒャルティはなおも心配そうにユーノを見やったが、自分に相対したユーノの腕前を思い出したのだろう、不承不承頷いた。 

「わかった……じゃ、ユーノ」

「ああ。行こう」

 ぐい、と地下道へ踏み込んでいく。


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