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ラズーン 4  作者: segakiyui
4.緋のリヒャルティ

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26/89

6

 ジジッ。

 灯皿が微かな音をたてた。ゆうらり、ゆうらり、と揺らめく炎にじっと目を据えていたセシ公が、ゆっくりユーノに目を戻す。

「すると……ガデロのダイン要城に姉君が囚われていると?」

「はい」

 きゅっとユーノは唇を噛み締めた。

「期限は5日……既に…」

 窓の外には白々とした光が漂い始めている。

「2日は過ぎました。後3日以内に辿り着けなければ、姉の命はありません」

「セレドのレアナ姫…」

 それが癖らしく、少し眼を細めて、セシ公は煙るような色を淡い茶色の瞳に浮かべた。

「美しい女性とのことだが…」

「ええ」

 ユーノは唇の両端を軽く上げた。

「アシャが心奪われるほどに」

「…それで…」

 セシ公はためらうように問いかけてくる。

「そのために、たった2人でダイン要城へ?」

「他に動ける者がいません」

 声が虚ろにならないように、注意しながらユーノは答えた。

 慣れているはずだ、そうだろ? 傷は後で舐めればいい。今は痛みを忘れておくんだ。でないと、『本当に』痛みさえ感じない世界に引き込まれてしまう。二度とアシャの顔も見られなくなってしまう。

「だから、私とイルファが動いたんです」

「わかった」

 セシ公は、肘を突いた手の甲を優美に曲げて片頬に添え、軽く眼を伏せた。

「力を貸そう。地下道への入り口もすぐにわかる。だが、明日だ」

「っ、どうして?!」 

 思わずユーノは椅子から立ち上がった。

「体力が保たない」

 セシ公は淡々と突き放す。

「そんな!」

「ダイン要城を甘く見ないことだな。既にあなたは2日近く不眠不休、おまけにあのバカと一戦交えている」

 きらりと光を放って、セシ公の瞳がユーノを射抜いた。

「なるほど、あいつは短気でおっちょこちょいだが、伊達に『金羽根』の長を名乗っているわけではない。並の視察官オペなら、あいつ1人で十分相手できる」

 弟の前では決して見せないだろう、どこか誇らしげな気配、唇を軽く歪めて続ける。

「そのリヒャルティを、いくらアシャに剣の手ほどきを受けていたからといって、女のあなたが腕尽くで黙らせたとなると、これはあなたの方も並の疲れ方ではないはず………。そんな女性を放り出すわけにはいかないな、私の性分としては」

「だけど!」

 口に出し切れぬ苛立たしさに歯噛みしながら、ユーノは言い返す。

「そうしている間に、姉さまが…!」

「だからと言って、私の協力なしに、あなたが3日以内にダイン要城へ行けるわけもない」

「っ…」

「だーめだぜ、ユーノ」

 イルファが両手を差し上げる。

「生っちろい面のわりにゃ、そう簡単に教えてくれそうにない」

「……わかり、ました」

 ユーノは溜め息をついて、腰を落とした。

「夜が明け、私達が動けるまで、少し休まれるがいい」

 セシ公は淡く微笑して、つい、と戸口の方を見た。

「リヒャルティ! そこにいるのはわかってるぞ」

「ちっ…」

 軽い舌打ちをして、戸口の影からリヒャルティが再び姿を現した。鈍い青の短衣に着替えた姿は、皇族と言っても通るほどだったが、不敵な表情は紛れもなく戦士のものだ。

「客人を部屋に案内しておけ。私は明日のための人間を集める」

「了解……あ、兄貴」

 セシ公の命令に、リヒャルティはひょいと振り向いた。

「その中にオレも入れておいてくれよな?」

「『金羽根』の長のくせして」

「いいじゃないか。オレ、ユーノが気に入ったんだ」

 にこり、と邪気のない笑みをユーノに向ける。

「女にしちゃ、いい腕だし、飾らないとこもいい。頬の傷…」

 戸口を出ようとするユーノを振り返り、すっと顔を近づけた。ほぼ同じぐらいの背をいいことに、舌を軽く、ユーノの頬に擦らせる。

「!」

「悪かったな」

 片目で笑って歩き出す。

「レスが怒るぜえ」

 イルファの呆れ声に、ユーノは引き攣りながら先に立つリヒャルティを見つめた。


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