表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラズーン 4  作者: segakiyui
3.罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/89

3

「……それで」

 イルファはぶっすりと唸った。

「どう思ってるんだ、ユーノは」

 イルファ自身はユーノがここに留まるとは思っていない。なのに、レスファートは彼女がここに留まると確信しているように思える。その理由を知りたかった。

「うん…」

 イルファの問いに、レスファートはゆっくりと瞬きする。何か遠いものを、いやむしろ自分の内側を深く深く覗き込むような顔になる。

「……ひどく迷ってるの……。どちらかを選ばなきゃならない……けど……どちらを選んでもどうにもならない……って。泣きたくなるよ…」

 アクアマリンの瞳が潤む。

「悲しくて……寂しくて……迷ってる…ユーノ…」

 吐息が湿った。

「泣きたいのに……泣かないんだもん……ユーノ……ぼくの方が…セツナイよ」

「せつない、ねえ」

 こんなガキが、切ない、と言うかよ。

 イルファは溜め息を重ねて、唇を噛んで俯いたレスファートを見下ろす、と、ふいに間近に人の気配がした。直前まで感じなかった気配、思わず腰の短剣に手をやって振り返り、イルファは呆気にとられる。

「…お前…」

「やあ、イルファ」

 相手は朗らかで明るい笑みを返してきた。足下に踞る少年に気づき、不審そうに眉を寄せる。

「レス、どうしたの? どっか、擦りむいたのかい?」

「、ユーノ!!」

 白いチュニック、腰に鈍い銀の帯、額に透き通る輪を嵌めたユーノが、飛びついてきたレスファートを受け止め、しっかりと抱き締める。微笑みながら、レスファートの髪に頬ずりし、小さく囁いた。

「どうしたんだい、レス? ん?」

「ユ、ノォ…」

 首にしがみつき、その胸に潜り込もうとするように身を揉んで、レスファートはしばらく強くユーノに抱きついていた。それからようやく満足したように、顔を上げ、体を離して、ユーノを見上げた。

「大丈夫だった? ねえ、何してたの? もう、ユーノ、帰ってこないかと思ってた」

 帰ってこない、のことばを聞いた瞬間、僅かにユーノは眉をひそめたが、すぐに悪戯っぽい笑みを広げて片目をつぶる。

「でも帰ってきただろ? また、後で話してあげるよ。……それより、もうお昼だよ? お腹空いてない、レス?」

「すいてる!」

 さっきまでべそをかいていたのを忘れたように、レスファートは喜々としてユーノの手を引っ張り、屋敷の方へ歩き出す。

「現金な奴だな、俺だと『いらない』で、ユーノだと『すいてる』か?」

「ふふっ」

 イルファの呆れ声にも、レスファートは上機嫌で先に立って歩いていく。手を引っ張られながら、ユーノは生真面目な顔をイルファに向けた。

「アシャが『狩人の山』(オムニド)に行ったんだって?」

「ああ、あんまり気楽な所じゃなさそうだぜ」

「そう、らしいね」

 ユーノが厳しい表情になる。

「そっちは?」

「後で話すよ。アシャのことも聞きたいし」

「わかった」

「早くぅ!」

 苛立たしげに急き立てるレスファートに苦笑しつつ、ユーノはイルファに頷いてみせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ