第82:模擬戦の結末
冒険者ギルドの職員フィンは、王城に呼ばれてやってきた。
王子ラインハルトを慕う女騎士アイナスと模擬戦をなぜか行うことに。
フィンが遊び感覚で模擬剣を振るうと、アイナスの剣は消滅してしまうのだった。
◇
「ば、馬鹿な……何が起きたのだ……私の剣が、消えた……だと?」
異様な雰囲気になっていたのは女騎士アイナス。
言葉を失いながら、空になった自分の右手の中を凝視てしている。
まるで狐に騙されたかのように、目を丸くして呆然としていた。
審判席にいた騎士ドドカスも唖然としている。
「ア、アイナス殿、私が辛うじて見えたのは……フィン殿が動こうとした直後、彼の右手が神々しい光を放ち……その閃光がアイナス殿の剣を照らした……という不可解なことだけです……」
彼は客観的に見られる場所にいた。
だが何が起きた理解でずにいる。抽象的なことを口にするだけで、何が起きたか混乱していた。
「こ、こんなことは初めでだ……どう判定すればいいのか……」
そのため審判ドドカスは困惑していた。
何しろ突然光ったと思ったら、両者の剣が消失していたのだ。
王国の長い剣の歴史の中の記録の中でも、初めてのことなのだろう。
(ん? 判定不能か。これは困ったな)
そんな重い雰囲気にしてしまった当事者として、オレも心の中で深いため息をつく。
何しろ勢いとはいえ自分の剣を投擲。挙句の果てに紛失してしまったのだ。
訓練用の剣とはいえ王宮で使用する武器。おそらくオレの給料どころの高額でないだろう。
そんな時だった。助け舟が出される。
「勝負はそこまでだ、両者とも」
立会人である王子ラインハルトが口を静かに開く。
ふう……よかった。どうやら本日の勝負はここで終わりになるだろう。
「お、お待ち下さい、ラインハルト様! 私は負けてはおりません! 是非とも再戦の機会を!」
主であるラインハルトの言葉に、呆然としていたアイナスは正気を取り戻す。
勝負のやり直しを懇願する。
「落ち着くのだ、アイナス。その痺れた両腕では、しばらくは剣を触れないことは、お前自身が一番分かっているだろう?」
「う……そ、そうですが、このままでは勝負の結果が……」
「勝負はすでについておる。フィンが手加減してくれていなければ、お前の騎士生命は終わりを迎えていたのだぞ? 分かるだろう?」
「くっ……はい、申し訳ございませんでした」
ラインハルトの説得が功を奏すしぶしぶながらも彼女は引きさがってくれた。
「さて、フィン。私の可愛い家臣に気を使ってくれたことを、感謝をする」
「いえ、オレは何もしていません。ところで借りていた剣の弁償の件ですが、返済まで少し期間をいただいいいですか?」
「弁償だと⁉ はっはっは……相変わらず冗談が面白いな、お前は! お前の武の一介を垣間見ることができたのだ、気にするな」
「……はい、分かりました」
よく分からないが王子ラインハルトは上機嫌そののも。
紛失した剣の弁償の件を水に流してくれた。
「面白いものを見せてくれたな。今度よかったら私とも立ち会ってくれないか、フィン?」
「私とラインハルトさんが? 冗談が上手ですね」
この第二王子は一見すると優男に見えるが、実は王国随一の剣の使い手。
全騎士の中でもトップクラスであり、腕利きの冒険者を合わせた全王都の中でも、五本の指に入る強さだという噂だ。
そんな剣豪ラインハルトと一介の職員であるオレの勝負。
まともな剣の相手になるはずはないのだ。
謙遜して辞退する。
「そうだな。私ごときではフィンの相手になる存在ではなかったな。さて時間的に、それでは妹の所に戻るとするか?」
「そうですね、オレもオーナーと職場に戻らないといけないので」
「そうか、それは残念だな。また気軽に遊びにこい」
「はい」
王宮での王子からの頼み事は無事に終わる。
こうしてオレはマリーとギルドに戻るのであった。




