第72話:油断ならぬライバル
王政依頼の話しがボロン冒険者ギルドに舞い込んできた。
「はい、専務理事も兼任しております。この度のボロン冒険者ギルドの特別試験の責任者も担当しておりますが」
だが競合ライバルとなる相手は、予想以上の大物であった。
王都でも三本の指に入る大手ギルドのオーナーであり、冒険者ギルド協会の専務理事ウルガリン・ウインズボーンだったのだ。
(これがウルガリン・ウインズボーン……か)
年齢的には五十代の壮年だが、歳を経た経営者によくある傲慢さ、この男にはまったくない。同じ年頃の役人イバリー・バルサンと比べても、月とスッポンの落ち着いた様子だ。
(先ほどのやりとり、かなりの人物だな……)
半狂乱寸前だったイバリー・バルサンを、たった一言で収めた対応力は見事なものだった。人心掌握術もかなりのものなのだろう。
(それに無駄な動きがないな……)
五十歳を過ぎていてもウルガリン・ウインズボーン、全身には無駄な脂肪はない。噂によるとこの男は元腕利きの冒険者。雰囲気的に今も自己鍛錬を欠かしていないのだろう。
そんなオレの観察をよそ眼に、マリーとは慌てて挨拶を始める。
「ウインズボーンさんは、冒険者ギルド協会の専務理事の方だったんですね……あっ、申し遅れましたが、私はボロン冒険者ギルド、一応はオーナーをしていますマリーと申します! あと、こっちにいるのが……」
「フィン殿ですね」
「えっ、知っているんですか、フィンさんのことを⁉」
「はい、あと黒髪の方は王都でも珍しいですし、狭い業界なのでボロン冒険者ギルドの知恵袋だという噂は」
マリーとそんな話をしながら、ウルガリン・ウインズボーンは鋭い視線を向けてくる。敵意や悪意はないが、全てを見透かすような鋭い視線。
受けているだけで身がすくむ視線だ。
「“あの”ウルガリン・ウインズボーン殿に名前を知っていただき光栄です。申し遅れました、フィンと申します」
だがオレは鋭い視線を受け流し、礼節の態度で挨拶をする。相手はライバルではあるが、礼節のある年長者。それなりの対応するのが相応しいのだ。
「ほほう。この私を前にしても、その冷静な態度……噂通り、いや、噂以上の男のようだな」
何やらオレの挨拶の態度を見て、ウルガリン・ウインズボーンは嬉しそうな笑みを浮かべる。
だが鋭い観察する視線は解いていない。
あくまでもオレの一挙手一投足を観察して、人物の底を見透かそうとしているようだ。
「お、おい、ウルガリン! 話は済んだのか⁉ そろそろ、吾輩の挨拶の続きを……」
そんな時、執政官イバリー・バルサンはヒステリックに近い声を上げる。
存在感のあるウルガリン・ウインズボーンの登場によって、わい小な役人の存在感が消えてしまったのだ。
自分をアピールする子供のように、無駄に大きな声を出している。
「バルサン殿、これは失礼いたしました。ボロン側への説明はちょうど終わりました。では、バルサン殿の有りがたき言葉をどうぞ」
「有りがたき言葉だと。たしかにそうだが。うむ、えー、ごほん! という訳で、ボロンとウインズボーンの両ギルドに、今回の王政依頼の件は競ってもらう! 詳しいことは吾輩の文官に聞け! ありがたく拝借して依頼に精進するがよい!」
そう上から言い放ち、イバリー・バルサンは応接室を立ち去っていく。結局のところ何の追加説明もない。部下の文官に丸投げしただけだった。
とにかく今回の説明会はこれにて終了。オレたちは応接室を立ち去る時間となる。
「それではマリー殿。今回はよろしくお願いいたします」
「あっ、ウインズボーンさん、こちらこそ説明わざわざありがとうございます!」
別れ間際、経営者同士で二人は社交的な挨拶をする。
今回は同じ仕事を受けるライバル関係だが、同業者同士で交流は大事なのだ。
「そういえばマリー殿は王政依頼を、今回が初めてでしたな。よかったら、後日でも当ギルドに来ていただければ、過去の報告書を勉強がてらお見せしますよ」
「えっ、本当ですか⁉ それは有り難いです! えーと、明日か明後日にでも是非、伺います」
「はい。大丈夫です。その時はもちろんフィン殿も是非ご一緒に」
「……はい。ありがたく伺わせていただきます」
別れ際にウルガリン・ウインズボーンが、また鋭い視線をオレに向けてきた。マリーよりもとオレの方を警戒……いや、注目してかのようだ。
もしかしたら何か意図があるのかもしれない。
だが当人を前にして詮索はできない。
オレはマリーと応接室を後にして、今回の王政依頼について対策を立てることにする。




