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第71話:相手の器

 王政依頼の話しがボロン冒険者ギルドに舞い込んできた。

 横柄な役人イバリー・バルサンによって説明が始まる。


「今回はボロン冒険者ギルドとウインズボーン冒険者ギルドの二つで競合を行う!」


「えっ……ウインズボーン冒険者ギルド⁉ って、まさかあの⁉」


 イバリー・バルサンの説明を聞いて、マリーが声を上げる。視線でオレに確認をしてきた。


「はい、そうですね。あの“Aランク”冒険者ギルドの一つですね」


 冒険者ギルドに関わる仕事をする者で、ウインズボーンの名前を知らない者はいないだろう。

 何故なら王都に百近くあるギルドの中でも、たった三つしかないAランクの称号を持つ老舗。

 ランクだけではなくギルドの規模、冒険者の質と数、全てにおいてトップクラス。噂によると王都のギルドの中でも、最もSランクに近いギルドなのだ。


「や、やっぱり、そうなんですね! で、でも、どうして、そんな別世界の大手ギルドが、どうしてこの場に⁉」

「落ち着いてください、オーナー。まずは説明を聞いてみましょう」


 役人イバリー・バルサンの話ははじまろうとしている。興奮するマリーを落ち着かせる。


「吾輩は忙しいので簡潔に説明するぞ。ウインズボーンとボロンの両ギルドに今回は、“国立地下礼拝所”の調査をしてもらう。解決の期限は今月中。詳しい説明は、今から配る書類を見て、自分たちで確認しろ!」


 イバリー・バルサンの話は、説明は言えない横柄なもの。おそらくは文官としての能力は高くないのだろう。後は部下に丸投げ。数枚の書類をオレたちに配らせる。


 配布された書類に、オレはマリーと一緒に目を通していく。


「うーん、難しい言葉が並んでいるから、よく分からないけど、要は『王都の地下礼拝所で不可解な事件が連続で起きているから、調査して原因を排除しろ』……ってことかしら?」


 王国の発注する書類は、わざわざ難しい言葉で書かれている。慣れない者にとっては暗号にも近い難解さ。マリーは頭を傾げながら、必死で解読している。


「ん? えっ? でも、この報酬はどういうこと⁉ 『成功報酬は適宜』って⁉」


 冒険者ギルドに一段大事な項目は成功報酬。記載されたいる内容を確認して、マリーは言葉を失う。


 彼女もこの反応も無理はない。普通、依頼の成功報酬の部分は、“〇ペリカ”と必ず明確にすることが法律義務化されている。

 だが今回の“適宜”とは、その時々の状況に応じてふさわしいことの意味。つまり報酬が相手の意向で勝手に変更が可能なのだ。


「ん? なんだ、小娘⁉ 吾輩の……いや、我が王国の作成した依頼書に、何か不服でもあるのか⁉ もちろん、そんなものは無いじゃろうが⁉」


 イバリー・バルサンに視線を向けてくる。威圧的な言葉で睨みつけてきた。

 イバリー・バルサンは体格がよく、文官らしからぬ強面な顔だ。その威圧ある視線で睨まれた、大の大人でもたじろいでしまうだろう。


「えーと、不服はないんですが、この成功報酬の部分ところが、大丈夫か思いまして? もしかしたら記載ミスかと思いまして?」


 だがマリーはたじろがない。

 そればかりか、まるで“私は普段はもっと規格外で怖い存在の人がいるから、そのくらいは気にならない”といった風な、何食わぬ顔で質問を返す。


「あ、あの娘、バリサン様に反論を⁉」

「な、なんという肝が座っているのだ……」


 そんな彼女の反応に、室内の文官たちがざわつく。もしかしたら今までマリーのような反応をした者がいなかったのかもしれない。


「な、なんだと、この小娘が⁉ この吾輩の言葉を無視するのか⁉ 許さんぞ⁉」


 一方で、自分の威圧的な言葉が通じず、イバリー・バルサンも慌てる。だが王宮執政官として退く訳にはかないのだろう。更に声を大きくして、威圧的にマリーを制そうとする。


「いえ、無視するわけでなくて、どういう意味かな……と思いまして?」

「そ、その態度がいかんというのじゃ! 更に反論するつもりか⁉」


 これはマズイ状況になってきた。何とか場を収めないと、マリーに被害が及ぶ危険性があるかもしれない。

 仕方がないから動くとするか。


「バルサン執政官、ここは私の方で説明をしておきましょう」


 オレが口を開こうとした時であった。

 もう一人の参加者、ウインズボーン冒険者ギルドの代表者が口を裂きに開く。


「あなた様ほどの方の口を煩わせるほどではありません。よろしいでしょうか?」


 興奮するエドガー・バルサンを、絶妙なタイミングで、だが静かな声で相手は収める。


「う、うむ、そうか。それなら頼むぞ。ウルガリンよ」

「はい、お任せください」


 その光景を見て、思わずオレは感心する。


(ほほう。この男は……)


 半狂乱寸前だったイバリー・バルサンを、たった一言で男は収めてしまう。このやり取りだけで、男がイバリー・バルサンから高い信頼を得ていることが読める。

 しかも人としての器の大きさが、イバリー・バルサンとは桁違い。上手く丸め込まれていたのだ。


 そんな感心している中、男はマリーに説明を始める。


「それではマリー殿、説明をいたしましょう。王政依頼というものは基本的に報酬を書かずに、最初はこのような記載になります。ですが、成功した後にはちゃんと報酬が……ここだけの話、かなり高額が支払われるのでご安心を」


「あっ、そうだったんですか。なるほど。ありがとうございます、えーと……」


「申し遅れました。私はウインズボーン冒険者ギルドの代表者を務めております、ウルガリン・ウインズボーンと申します」


「えっ⁉ あの三大ギルドの代表者さんだったんですか⁉ ん……あとウルガリン・ウインズボーン……って、もしかして冒険者ギルド協会の……」


 ライバルとなる相手は予想以上の大物であった。


「はい、専務理事も兼任しております。この度のボロン冒険者ギルドの特別試験の責任者も担当しておりますが」


 王都冒険者“三大ギルド”の代表者兼、冒険者ギルド協会の専務理事。


 こうしてかつてない大物がライバルとして、オレたちの前に立ちはだかるのであった。


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