第70話:王宮応接室
横柄な役人、王宮執政官のイバリー・バルサンが突如ギルドにやってきた。
大きなリスクがある王政依頼の説明を受けるため、オーナーのマリアと馬車に乗り込む。
色んな思惑がある中、王都の中心部にある王宮に馬車は到着。
イバリー・バルサンの案内の元、王宮の一室に案内される。
「ふん、ここで待っておれ!」
案内されたのは雰囲気的に応接室なのであろう。王宮は外部の者との交渉の場所でもあるのだ。
少し広めの部屋に、豪華なソファーテーブルが置かれていた。
「勝手に部屋の調度品を触るんじゃないぞ、キサマ! 庶民には弁償ができない効果品ばかりだからな!」
イバリー・バルサンが相変わらず不遜な態度で、立ち去りっていく。誰からを呼びに行ったのだろう。
部屋の中に残されたのは、オレとマリーの二人だけ。応接室の扉の向こう側は、数人の衛兵がいる状況だ。
「こ、ここが天下の王宮の中か……こんな豪華な応接室、なんか落ち着かないですね。あと、こんな柔らかいソファーも、初めて座りました……ふえ……」
始めて足を踏み入れた王宮の豪華さに、マリーは終始落ち着かない様子。ソファーに座りながらも、周りをきょろきょろしている。
「それにしても豪華そうな調度品が、こんなに無駄にあって、どういう部屋なんでしょう、ここは?」
「王宮の応接室は、他国の使者と会談する場所でもあります。そのために自国の豊かさを誇示するために、あえて無駄に豪華にしているんですよ、オーナー」
「えっ、そうだったんですか⁉ それじゃ、このソファーテーブルの価格も……」
「そうですね。こ庶民が一生働いでも、買えない特注品でしょう」
「ひえ――――⁉ 傷つけないように、気を付けて座らないと! はぁ……王宮は別世界すぎるわ」
マリーが困惑しているのも無理はない。王宮は国の施設の中でで、最も金がかかっている設備の一つ。
内政を行うだけではなく、外交や社交場としての多くの国の権威を保つ場である。そのため税金の多くが投入されて、建設と改築が繰り返されているのだ。
「あれ? それにしてもフィンさん、随分と王宮とかの事情に詳しいですね? もしかして前の職場でも王政依頼の経験が?」
「いえ、前の職場でも王政依頼はありません。王宮の知識は本、王都の図書館で覚えました」
王都の中央部には王立図書館がある。市民であれば誰でも無料で利用できる便利な施設だ。
図書館から持ち出して借りることはできないが、図書館の閲覧コーナーで自由に読むことは可能だった。
田舎から出てきたオレは、世間の一般知識を得るために定期的に図書館に通っている。この二年間で、約一万冊の本や文献を読破していたのだ。
「えっ……たった二年間で、一万冊の本を読破……ですか?」
「はい。でも厳密にいえば図書館には毎週末しか行っていないので、通算百日間で一万冊です」
「百日間で一万冊ということは……い、一日で分厚い本を、百冊も完全読破⁉」
「はい、そうです。昔から読書は好きな方なので」
マリーは何やら驚いているが、読書はコツさえあれば速読は可能だ。
もちろん早く読むだけではなく、内容も暗記するもの重要。オレも一万冊の書物の中で、大事な内容は頭の中にインプットしてある。
「そ、そうなんですか⁉ そういえばフィンさんはギルドの書類を読み書きするもの、尋常じゃなうい速さでしたね。とんでもない尋常でない人だと再認識です。はぁ……そう考えたら、この無駄に豪華な調度品も、なんか大したことない気がしてたかも」
マリーは深いため息をつきながら、雰囲気が落ち着いてきた。
何が原因か分からないが、“何か大きな存在”の経験を思い出して、緊張感が解けたのであろう。たいしたものだ。
「それにしても、今日はこれから何が起きるんでしょう? 王政任務って、どんなシステムなんでしょう?」
「オレも実際には経験したことはありませんが、基本的に王政任務は複数のギルドのよって、競合制度によって、決められるようですよ」
「えっ、“競合制度”……ですか?」
「はい。簡単に説明すると、同じ事業内に関して、複数のギルドが同時に着手する手法です」
競合制度はとは基本的に国が、王政事業を行う制度の一つだ。
内容としては事業内容と契約事項を提示して、複数フギルドが解決策を提示。最も早く正確に解決したギルドが、成功報酬を得られる制度だった。
「なるほど……難しくてよく分かりませんが、ようは、私たちにはライバルがいて、一番早く良い解決したギルドだけが、仕事の報酬を貰える……ということですか?」
「はい、そうです。表向きは公平に行うことです」
競合制度に参加するギルドは、基本的には公平に審査されて声がかけられる。
何しろ王政の依頼には桁違いの経費や依頼金が動くから。そのために絶対的に公平の必要があるのだ。
「そ、そうですか。公平ならよかったです」
「ですがオーナー、競合制度には実は色々と問題もあるらしく……ん?」
更に詳しく説明をしようとした時であった。
応接室の外に新しい人の気配を感じる。先ほどの役人イバリー・バルサンと、更に別の気配だ。
「ふん。待たせたな」
「お待たせしました」
役人イバリー・バルサンの後に入ってきたのは、豪華な市民服を着た中年男性。雰囲気的に裕福な商人なのであろう。
「ん? あのバッチは……」
男が胸につけているバッチに、オレは見覚えがあった。
あれはたしか……。
「それではこれより、今回の王政依頼について説明するぞ! 今回の対象ギルドはボロン冒険者ギルドとウインズボーン冒険者ギルドの二つだ!」
「えっ……ウインズボーン冒険者ギルド⁉ って、まさかあの⁉」
役人イバリー・バルサンの説明を聞いて、マリーが声を上げる。
何故ならオレたちのギルドのライバルとなる“ウインズボーン冒険者ギルド”は、王都で知らない者はいないほどの名なのだ。