第69話:断れない相手
横柄な役人がいきなりギルドにやってきた。
「吾輩は王宮執政官のイバリー・バルサンである! このギルドの経営者を王政依頼のために、偉大なる王宮に呼びにきたのだ!」
男は王宮執政官と名乗ってくる。小柄でヒステリックそうな、薄毛な男。だが着ている服は確かに王宮文官の服だ。
「えっ……王宮執政官の方? 王政依頼⁉ ど、どういう意味ですか⁉」
いきなりの役人の訪問にマリーは言葉を失っている。まだ何が起きたか理解できずにいるのだ。
「ふん! やはり低ランクのギルドか。王政依頼のことも知らんのか⁉ まあ、いい。とにかく今すぐ王宮についてくるだ!」
「えっ、い、今すぐですか⁉ まだギルドの営業中なんですが⁉ と、というか王政依頼って、どういうことですか?」
マリーがあたふたするのも無理はない。何しろ執政官イバリー・バルサンの態度は横柄で、いきなり命令口調できたのだ。
「なんじゃと、吾輩の命令が聞けないのか⁉」
あたふたマリーの態度に、イバリー執政官が不快な表情になる。
これはまずい状況。オレは小声でマリーにアドバイスすることにした。
「オーナー、残念ながら王政依頼の招集に対して、ギルド側に拒否権はありません。とりあえずここは大人しくついていきましょう。王政依頼についてはオレが道中で説明をしますから」
「そ、そうだったんですか、フィンさん⁉ それは仕方がないですね……わ、分かりまし、今すぐ登城の準備をしてきます」
「ふん! ようやく吾輩の偉大さに気がついたのか。これだから低ランクギルドの連中は。おい、早くしろよ!」
イバリー・バルサンはなんとか怒りを鎮める。
マリーは自分の席に戻り、自分の身支度を取りかかる。外出用の上着や鞄や小物を用意する。
(王政依頼か……それなら、これと、これが必要になるだろうな)
一方で、オレも準備を開始。王政依頼に必要になるだろう書類一式を、手早く準備していく。
あと受付のレオンとクルシュに、留守番を言いつける。二人とも優秀なスタッフなので、通常業務は完璧にこなしてくれる。
これでオレとマリーが外出もギルドの方は万全だ。
「お、おまたせしました!」
マリーも少し遅れて準備を完了。自分用の鞄に、とにかく色んなものを押し込んでいた。だが一応は外営業の準備になっている。
「ふん。忙しい吾輩をこんなにも待たせるとは、これだら教育のない者の相手は疲れるのだ。ふん、それなら早く、表の馬車の後続車に乗れ!」
「えっ、はい。分かりました!」
イバリー・バルサンの案内で、ギルドの外に出る。ギルドの前には二台の馬車が、やや下品に横付けされていた。
装飾の豪華さ的に、先頭車両は執政官であるイバリー・バルサン専用車両なのだろう。
一市民でしかないオレたちは、質素な後続車に乗るのだろう。
他にも場所の周りには、数人の騎乗の騎士がいた。おそらくはイバリー・バルサン専用の護衛の騎士なのだろう。
「ば、馬車に乗るなんて、なんか緊張しますね……」
「そうですね。とりあえず乗りましょう、オーナー」
「あっ、はい」
緊張しているマリーと馬車に乗り込む。中には先客は誰もいない。オレとマリーだけを乗せて、馬車はゆっくり動き出す。
「うっ……うっ……馬車って、けっこう揺れるものなんですね」
初めて乗る馬車の乗り心地に、マリーは声を出している。王都の石畳を進み度に、馬車の中もがたがたと揺れてしまうのだ。
「そうですね。ですが豪華な馬車は、魔道具で衝撃を吸収するので、もう少し揺れないと聞きます。もしもオーナーが揺れを我慢できないようないでしたら、オレが“少しだけ”何とかしますよ。どうしますか?」
「え、そんなことが可能なんですか⁉ あっ……でも遠慮しておきます。フィンさんの“少しだけ”は何か嫌な予感しないですから。もしかしたら馬車の揺れが完全に消えて、大変な事態が起きそうな予感がするので……」
何やらためブツブツ言いながら、マリーは息をついている。この様子だと馬車の揺れを我慢するらしい。それならオレも手助けを止めることにした。
「あっ、そういえばフィンさん。王政依頼って、どういう意味ですか? 名前だけは、なんとか聞いたことはあるんだけど……」
マリーに知識がないのも無理はない。
王政依頼は普通のギルドには縁のない依頼の一つなのだ。マリーの祖父も受けたことがなく、冒険者ギルドの詳しい彼女も知らないのだろう。
王宮までの移動時間はまだある。彼女も分かるように説明をする必要おく。
「王政依頼はギルドに出される依頼の中でも、かなり特殊です。簡単に説明するなら『国から出される依頼』のことです」
「『国から出される依頼』? それなら前回の公共依頼と、何か違うんですか?」
「はい、大きく違います。公共依頼は協会を通して、各ギルドに出されます。ですが王政依頼は直にギルドに依頼がきます。そして依頼されたギルドには、基本的には拒否権はありません。更に依頼されたものは、失敗することも許されない特別な依頼です」
「えっ……拒否権がなくて、失敗も許さない⁉ そ、そんなの依頼って呼べるんですか⁉」
「そうですね。別の言葉で説明するなら王政依頼は『国や王からの絶対的な命令』です」
「く、国や王からの命令⁉ そ、そんな……どうして、そんな怖そうなものが、うちに……」
説明を聞き終えて、マリーは涙目になる。
彼女のこの反応も無理はない。何しろ王政依頼を失敗したことで、過去には厳罰を受けたギルもあるのだ。
失敗したギルドは、大幅にギルドランクの取り下げが基本。最も大きな厳罰の記録として、ギルドの撮り潰しになったギルドもあったのだ。
「ですがオーナー。王政依頼は成功させたら、メリットも大きいです」
「そ、そうなんですか⁉ それは良かった。と、とにかく粗相がないように、王宮で説明をちゃんと聞かないとですね……」
説明を聞いて、マリーはやや落ち着きを取り戻す。ため息つきながら、馬車の外の景色を見ていた。
これなら王宮に到着しても、なんとかなるだろう。
(王政依頼か……どうしてうち、白羽の矢立ったんだ?)
それは王政依頼の話を聞いた時から、オレの頭の中に浮かんでいた大きな疑問。
何しろ王政依頼は王都の中でも、Aランク以上のギルドにしか出されないもの。
たしかに最近のボロン冒険者ギルドは怖いくらに好調だ。
だがここまでランクのギルド呼ばれることは、記録でも見たこともない。
(何や裏があるのか? いや……今はいくら推測を立てても意味はないな。とりあえず王宮で何が待っているか、様子をみるしかないな)
こうして大きなリスクだらけの王政依頼の説明の場所。王都の中心部である王宮に、オレたちを乗せた馬車は到着するのであった。




