第62話:強襲 師匠
“世の中でオレが一番厄介なだと思っている人物”が、職場にやってきた。
「はっはっは! 待たせたのう、我が息子よ!」
腰に手を当ててドヤ顔している幼女。
オレの師匠であり育ての親であるララエルが突然、王都にやってきたのだ。
「え――――フィンさんの、お、お母さん⁉ こ、この幼女さんがですか⁉」
「ええ、そうです。戸籍上、一応は母です」
二年前、オレが王都に引っ越してきた時、住民登録をする必要があった。親の欄には師匠ララエルの名前を記入していたのだ。
あと仮にも捨て子だったオレを、十数年間育てくれたもの師匠であり一応は本当の親代わりとも言える。
まぁ……だがオレは五歳を過ぎたくらいから家事掃除を習得。逆に生活能力の皆無な支障を、オレが世話していたのだが。
そんな師匠がどうしていきなり王都に来たのだろうか?
理由を聞きたい衝撃音に野次馬も集まってきて、ゆっくりと話しを聞ける状況ではない。
師匠の登場によって破壊された広場をなんとかしないとな。
「ふう……師匠、街の中をこんなに破壊しちゃって、とりあえず修復しておきますよ」
オレの【概念逆行】で破壊現場を原状回復しておく。土煙が完璧に晴れる前に完璧に修繕しておく。これで野次馬たちも何が起きたか理解できないはずだ。
「ん⁉ さっきの衝撃音はいったい何だったんだ?」
「土埃が消えたけど……何もないぞ?」
「子どものいたずらだったのか?」
「ああ、そうだかもな。さて、仕事に戻るとするか」
野次馬の市民は自分たちの家と店に戻っていく。さて、これで大きな騒ぎには発展せずにしんだ。
「ふむ、相変わらず見事な【概念逆行】じゃのう? まぁ、ワシに比べたら足元にも及ばないがのう。はっはっは……!」
「はいはい。師匠は凄いですからね」
「な、なんじゃ、フィン。その“師匠”という他人行儀な呼び方は⁉ 昔みたいに『ママ!』とか『お母さん!』と呼んでもいいのじゃぞ?」
「はぁ……今のオレを何歳だと思っているんですか? まったく師匠もいい歳なんだから、弟子離れもしてください」
師匠が昔から親バカなところがある。そのため弟子であるオレに対して過保護すぎるのだ。
「とにかく、ここじゃ目立つので、中に入ってください、師匠」
今の師匠は“何故か銀髪褐色の六歳くらいの幼女の姿”に擬態している。そのため会話しているオレは、周りからどうしても不審者にしか見えないのだ。
呆然としていたマリーやレオンたちと、ギルドの中に一緒に戻ることにした。
「うむ、ここがフィンの本当に職場なのか? 随分とこじんまりとしている場所じゃのう? 我が家のトイレの方が広いぞ?」
「王都ではこのくらいの広さが標準なんです。はい、師匠。この席にどうぞ」
興味津々そうにきょろきょろしている師匠を、ギルドの奥の応接席に座らせる。もうすぐボロン冒険者ギルドは開店となる。
だがここなら少しくらい騒いでも、客たちには迷惑がかからないだろう。とりあえず何故、王都にいきなり来たのか事情を聞いてみる。
「はい、お茶をどうぞです」
まだマリーは呆然としている。そのためレオンが気をきかせてお茶を出してくれた。
「あの……フィンさんのお母さま。師匠さんなんですか? あっ、はじめまして!ボクはレオンと申します」
「うむ。フィンの配下の小僧か、キサマ? うむ、苦しゅうない。我が名はララエルじゃ」
「ララエルさん……ですか。素敵なお母様……師匠様ですね! ねぇ、姉さん?」
先ほどから呆然としている姉マリーに対して、レオンは話をふる。経営者として挨拶をして欲しいのだろう。
「ん? え……“素敵なお母様”……? レ、レオンには見えないの、その幼女の頭に生えている角が⁉ ここだけの話、どうひいき目に見ても、人族じゃないわよ⁉」
「え? 角? 幼女? 何を言っているのお姉ちゃん? たしかにララエルさんは少し若く見えるけど。あと角なんてものが生えている訳ないじゃない?」
「えっ⁉ レオンには見えていないの⁉ もしかして私の目の錯覚⁉ いえ、違うわよ! たしかにあるじゃない⁉」
弟と話ながらマリーは何やら騒いでいた。どうやら二人の目から見た師匠の姿に差異があるらしい。
これには理由があり、原因は師匠にある。
混乱しているマリーに説明してやる必要があるな。