第52話:第1章エピローグ
ボロン冒険者ギルドが《冒険者ギルドランク特別昇格試験》のチャンスに盛り上がっているころ。
王都のとある地下室、数人の者たちが集まっていた。
「先日の冒険者ギルドオーナーを使った策は、どうなった?」
「情報によれば《上級魔族》の召喚には成功したが、策は失敗に終わったらしいぞ」
彼らが話をしているのは悪徳経営者リッパーの事件について。
《王国竜鎖騎士団》が隠匿した極秘情報を、自由に引き出せる身分の者が集まっているのだ。
「《上級魔族》を呼び出せて失敗じゃと? どういうことだ⁉」
「なんでも、何者かが上級魔族を打ち倒したらしいぞ」
「「「な、なんだと⁉」」」
彼らが驚くのも無理はない。
リッパーに渡した《魔族召喚石》は特殊なもの。召喚された上位魔族は通常攻撃では倒せない存在なのだ。
「まさか、《王国竜鎖騎士団》がの介入があったのか⁉」
「いや、報告書によれば、それはない。なんでも《王国竜鎖騎士団》が到着した時には、すでに討伐された後だったという」
「それでは一体誰が、上級魔族を⁉」
「まだ調査中だが、どうやら“ボロン冒険者ギルド”という弱小ギルドが関係しているらしいぞ」
「“ボロン冒険者ギルド”だと? 聞いたことがないな。だが、早急に調査する必要があるな」
「ああ、そうだな。我々の至高なる計画を成功さるために……」
「我らが“偉大なる神”の復活のために……」
「我ら《暗黒邪神教団》の邪魔をする者は、誰であろうと全て排除を……」
こうしてフィンたちの知らないところで、強大な権力を持つ教団が動き出す。ボロン冒険者ギルドにも魔の手が向けられるのであった。
◇
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更にボロン冒険者ギルドを脅かすに驚異の存在が“もう一人”いた。
「――――くっ、せいや――――! はぁ、はぁ、はぁ……ようやく封印から脱出することができたわ!」
その者は褐色銀髪の麗しい容姿の女性。怪しげな意匠の服に身を包んだ術師だ。
「ん? フィン……アタシの可愛い息子はどこ⁉」
女はフィンの師匠だった。
そして彼を幼い時から育てきた、母親代わりでもある存在だ。
「この感じだと……どこか遠くに逃げたのね⁉ それにしてもこのアタシすら封印するとは、フィン……アタシの愛息子、《魔神術式》の腕を上げたわね!」
だが二年前に人里に働きに出ようとしたフィンと、彼女は大喧嘩。
逆に封印されてしまったのだ。
「今フィンはどこに? ん……この方向は人里か。ここはたしか“王都”って人族が呼んでいる街か⁉」
彼女の《魔神術式》は尋常ではない。一瞬でフィンの独特の魔力を発見する。
「早くフィンを連れ戻さないと大変なことになるわ! でも人族がたくさんいる街は“人酔い”が……うっ、思い出しただけでも吐きそう。でも今は愛息子フィンの危機! 急いで連れ戻さないと!」
――――彼女の名前は《魔神ララエル》。
かつて魔王や竜王を倒し世界を救ったり、逆にやり過ぎて破壊しそうになったこともある危険な存在だ。
「待っていなさいよ、可愛いフィン……ママが連れ戻しにいってあげるから!」
こうしてフィンの元に更なる強大な脅威が迫るのであった。