第21話:盗賊ギルドの中
公共依頼の話を聞くために、オレたちは王都の貧民街最外周区画にやってきた。
依頼主である盗賊ギルドの建物に入る。
「うっ……ここが盗賊ギルドの中ですか……ん? なんか、意外と普通⁉ もっと、『犯罪者集団の巣窟』みたいな場所をイメージしていたのに⁉」
ギルドの中を見てマリーは小さく声を上げる。おそらく予想していた雰囲気と、ギルドの中が違ったのだろう。
周りをきょろきょろして口を開けている。
「“盗賊ギルド”といっても表向きは公の機関ですから、ギルドの事務所はこんな感じで普通なんですよ、オーナー」
「なるほど、そうだったんですね」
マリーが勘違いするもの無理はない。“盗賊ギルド”という組織の市民の中でのイメージは、あまり良くないのだ。
だが盗賊ギルドは一応、国にも認められている公の機関。だからギルドの受付は一般的な冒険者ギルドに近いオープンな雰囲気もあるのだ。
「もしかしたらオーナーの中では、盗賊ギルドは『盗人の集団』とイメージがありませんか?」
「えっ、まぁ……あまり大きな声で言えないけど……はい」
「たしかに昔はそんな一面もありました。ですが王都のように大都市では、盗賊ギルドの存在はかなり重要なのです」
大都市での盗賊ギルドの仕事はかなり重要。その理由は“冒険者”という職業の存在だ。
迷宮や魔物が多いこの大陸で、冒険者の重要性は高い。そして未知の場所に挑む冒険者にとって、盗賊は必須に近い仲間でもある。
つまり冒険者の必要性が高い大都市では、必然的に盗賊も重要。その盗賊を管理して育成する機関が、盗賊ギルドということなのだ。
「なるほど、そうだったんですね。『盗賊を管理して育成』って、けっこう真面目なギルドなんですね、ここは」
「たしかに、そうですね。盗賊は特殊な技術や知識が必要になるので、彼らは幼い時から鍛錬をしているのです」
盗賊になる者は孤児や訳ありの出身者が多い。彼らは生きていくために盗賊ギルドで技を磨き、冒険者の一員となって一攫千金を目指しているのだ。
「ふむふむ、とういうことは盗賊ギルドも冒険者ギルドの似た感じ……という、ことですね。なんかビビッて損しちゃいました!」
説明を聞いてマリーの顔に緩む。冒険者ギルドの孫娘として育った彼女は、“冒険者という職業人”に対して愛情を持っている。
盗賊ギルドの実態を知って親近感が湧いてきたのだろう。笑顔でギルドの中の人たちを見回す。
「分かってくれて嬉しいです。ですがオーナー、冒険者ギルドと盗賊ギルドには“決定的な違い”があります」
「えっ……“決定的な違い”……?」
「はい。盗賊ギルドには必ず“裏の顔”があります。特に今回のように冒険者ギルドにわざわざ公共依頼を頼んできた時は、そっちの方面の可能性が高いです。あんな感じで」
盗賊ギルドの入り口で話をしていた時だった。
いつの間にか数員の強面の男たちに囲まれてしまう。
「おい、あんたら、何者だ?」
「まさか遊びにきた訳じゃないだろうな?」
「さっきから小声でごちゃごちゃと……もしかしたら他のギルドの偵察か?」
包囲してきたのは強面の男たち。おそらく盗賊ギルドの会員であろう。
刃物は抜いてはいないが、手は懐に入れてある。盗賊特有のいつでも刃物を抜ける戦闘態勢だ。
「ひっ……フィ、フィンさん……話しが違いますよ……」
先ほどまで笑顔だったマリーの表情が、また急変。顔を真っ青にしながら、オレの後ろに隠れる。
「大丈夫です、オーナー。これでも彼らなりの挨拶なのでしょう。えーと、挨拶が遅れました。我々は冒険者ギルド協会から紹介を受けてきました“ボロン冒険者ギルド”の者です。ガメツンさんという担当方はいらっしゃいますか?」
怯えるマリーを元気づけながら、包囲している男たちに自己紹介をする。
先ほど協会の副理事長ゼノスから聞いた担当者の名前“ガメツン”を口に出す。
「はぁ? 冒険者ギルドだと⁉」
「ちっ……ガメツンさんの客か。仕方がねぇ、奥に案内する。こっちにこい」
担当者の名前を出したら相手の反応が変わる。舌打ちをしながらも友好的な態度になる。
「えっ、これでのどこが有効的な態度なんですか、フィンさん⁉ というか、奥に行くのはマズくないですか⁉ って、いうか地下ですよ、この先は⁉」
「大丈夫ですよ、オーナー。別に取って食われる訳ではありません。さぁ、行きましょう」
こうして数員の強面の盗賊に連行されながら、オレとマリーは盗賊ギルドの地下室に降りていくのであった。




