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ウィッチ  作者: 望月陽介
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決めろ

 ピタッ…という音が響く。洞窟は湿気に満ちていた。久しぶりの水分補給だ。砂漠のような血管に水が沁み渡るのを感じる。カレンの料理魔法は水を綺麗にできる。魔法が羨ましい。俺も宝を手にすれば…。ワクワクがはたまた込み上げて来た。

「見ろ、足跡が二つあるぞ。」

カイの顔は手の松明に照らされ輝いていた。その顔に見とれているうちに、レイコは足跡を辿って走り出した。興奮が抑えられないように見えた。鎧をカチャカチャさせながら俺も後に続く。

「剣を」

彼女は立ち止まり振り返って言った。なんだ?また、戦いを仕掛けられるのかと思いきや、前方の鎖が視線を強奪した。網状になり行く手を阻んでいる。禍々しい輝きを放つその黒は、カイの輝きとは対照的である。

俺は触れた。

吹っ飛んだ。約3m。どうやら普通のものではない。どうしたら良いのか。今度は鎖の部分に触れないようにくぐろうとした。俺はまた、飛んだ。

「早く、剣」

この一分の茶番をなかったことにして、俺は剣を振り下ろす。綺麗に鎖は切れた。洞窟に入るために剣を渡されたことを、忘れていたことには触れず、また歩く。レイコはまた先に行ってしまった。気になったのは足元に鎖が散らばっていることだ。どうやら、ひどく長いものを使っていたらしい。

「ブラックナイトがドラゴンになっちゃった。」

彼女の声は10mは離れている俺のところまで響く。小走りすると広い空洞に出て、その中央に彼女がいて、その後ろにいたドラゴンがいた。その猛獣とバッチリ目があった。

ゴアアアーー!

低くてよく響く声が耳を貫く。よく見ると、足跡はそのドラゴンの足元で終わっている。あの伝説コンビはこの生物にやられたのかもしれない。

この暴君は口から何か出そうとしている。口の中が光る。視線の先にはレイコが。鎧を着ていない彼女が食らったら致命傷は間違いない。

危ない。

俺は走った。しかしビームの速度は凄まじく、彼女の綺麗な腕の30cm横までその尖りものが迫っていた。

間に合わない!

俺はか弱い肩を全力で突き飛ばし、俺は忌々しい青き光線と出会い頭…。

鎧は削れただろう。脇腹のあたりが痛い。横たわる体とともに意識も動く力をなくしていく。このまま出血多量で死ぬのだろうか。ああ…音が聞こえない。みんな…逃げて。



「早く乗ってよー。いつまで寝てるの。」

これは、夢か。はたまたあの世か。

「置いてくぞー!」

痛い。どうやら、頰をつねられた。目を開ける。女の子が二人何かに乗っている。あれは走馬灯か。

俺、死んだのか?

心の中で呟いたつもりだったが、口に出ていたようだ。

「何を言ってるんだ?」

男はそう言った。早く乗れ、と言われたので、その走馬灯に乗った。垂直に上昇したかと思うと、辺りが光り出した。どうやら天国には行けたらしい。

そっか、この人達も死んだのか。天国って一人ずつ行くのかと思ってた。死は寂しいものじゃないかもしれない。死人同士仲良くやりたい。

「ありがとう、ドラゴン。」

女の子の一人がそう言った。その鎖をぶら下げたドラゴンはガウッと返事をした後、天国の端で羽を休めている。

…ってなんでドラゴンに乗っていたんだよ。

「あった!この宝箱がきっとそうだよ!」

宝箱が光っている。その光に三人の顔が照らされた。よく見たら、カイとカレンとレイコだった。

「待て待て、なんで俺生きてるんだよ?」

これは半ば独り言だった。

「なんでって、俺たちが到着したらソラは寝ていたぞ。」

傷を触ってみると、鎧が少し剥がれているだけだった。出血の痕は全くなかった。もう1つ大きな大きな疑問がある。

「なんであのドラゴンは、言うことをきいてんだよ!?」

「あ、それがカレンを見るなり近づいてきたんだ。それから言うことをきくようになった。恐らく交渉魔法のおかげだ。」

交渉魔法という言葉に反応して、カレンがこっちを向いた。

「感謝してよね。」

彼女の顔はいわゆるどや顔だった。ひどく可愛かった。

「…無事でよかった。」

小声ではっきりとは聞こえなかったが、俺にはそう聞こえた。もしそう言っていたなら、いや言っていなくても、俺は彼女が好きだ。

「どうした?」

彼女を黙ったまま見つめていた俺をカイが覗き込む。

「あ、その、交渉魔法ってどんな魔法なのかなって。」

咄嗟に適当なことを半笑いで言った。

「カイが言うには、私が願った交渉はよく成功するの。ほら、ソラとカイの…」

レイコがカレンの袖を引っ張った。目の中では怒りの業火が燃えていた。

「早く、開けよう…」

静かな怒りがより一層恐怖を増やす。ごめんごめん。と三人は言い、宝箱の前に向かった。

「じゃあ、いくよ。」

俺は生唾を飲んだ。カイの喉も波打っていた。

 俺は一番遠い位置にいたが、上半分には何も見えなかった。レイコが手を入れ、紙切れを取り出す。

「なんだろ、これ。」

俺ものぞき込み紙を見た。左右に手形が二つ。下に文章があった。

「『レオニオ。アル―マ。我らは決闘の末和解し、ここに不戦の誓いを示す。眠る宝はいかなる時代においても価値のある〝絆〟である。』と書いてある。」

俺は他にないものかと、箱に手を入れた。何もなかった。

 宝が絆?少し腑に落ちない。カイの顔も考え込んでいる。

「やっぱり何においても絆は大事だよね。絆があったから、私達はここまで来れたんだし。」

「あ」

レイコが声を出した。裏にも何か書かれていたようだ。

「剣を持つものよ、箱の底を開けよ。」

箱の底は二重だった。そこには、鍵と何も書かれていないその紙が数枚入っていた。何の鍵か分からない。他にも宝があるのか。

「剣を持つもの…。ちょっと貸してくれ。」

カイは剣を回しながら見る。すると、柄の底に穴が開いていた。鍵を挿してみる。一周回すと底が落ち、丸まった紙が出てきた。

『ローゼルよ、剣をありがとう。おかげでニムルを助けることができた。』

「ローゼルは私のひいおじいちゃんだよ。」

「この文から察するに、カイを元に戻せたのは、きっとこの剣のおかげ。ちなみにニムルはアル―マの本名。騎士は本名を認めた者にしか教えない。」

「この紙に、俺達も何か書くか!」

 会話が弾んでいる。



 いつのまにか俺は話せなくなっていた。周りが真っ白になり、俺は立ち尽くす。そこに二人が急に現れた。

「魔法の正体、まだわかってないのね。」

レイコは真顔で言った。

「え、あ、うん。」

困惑しながら言った。

「実は、私も分からない。でも、そっちでは、料理も通信も医療も多くの人ができるでしょう?手から火を出すことはないけれど、火を自在に使うことはできる。それらは魔法なの?」

『そっち』という言葉で俺は気が付く。記憶が戻っている。高校生だったが、こちらの世界になぜか来ていた。

 そう言われてみると確かに魔法が何なのか分からない。人間は技術の進歩により魔法を使えるようになったのか。それはすごく素敵なことだ。俺は小さいころから魔法の世界のファンタジーが好きだった。いつか、魔法が使えて、楽しく険しい冒険に行きたいとも思っていた。仮ではあるが、その夢は叶った。しかし、魔法はありふれていた。昔から考えれば今の科学は全て魔法と言える。

「魔法さ。俺が住んでいるのは魔法の世界なんだ。」

俺は、誇らしい顔をした。レイコはそらを見て微笑む。

カイが何か言いたげな顔をしている。俺はそちらに顔を向けた。

「ゴホン。ところで、カレンの誘いはどうするんだ?」

カレンの誘い…。そうだ、俺はカレンに誘われ、迷っていたところだった。

「ところでソラ、旅は楽しかったか?」

カイは笑顔でそう尋ねた。

「…ああ、楽しかったよ。色々あったけど。こんな冒険したことない。ありがとうな。」

「冒険は宝探しだけじゃない。行ったことのない場所に行くことはなんでも冒険さ。」

そうだな。俺は何を迷っていたのだろう。世界には、行ったこのない場所、知らないこと、初めてすることがまだたくさんある。

「それに、騎士のお前がカレンの〝けん〟を受け取らないのか?」

「けん?」

「あ、そっちでは〝チケット〟と言うのか。」

ああ…『券』か。よくできた話だ。

「誘いに乗るよ。きっと楽しいと思う。家の中にいるだけじゃ、冒険はできないもんな。」

「そりゃよかった。分かっていると思うが、危険な生き物や悪い人間、過酷な場所とかには気を付けろよ」

カイはサムズアップポーズをした。俺は「この旅で良く分かった」というメッセージを込めて頷く。二人の体が白い光に埋もれ出した。足からどんどん見えなくなっていく。レイコは足元を見た後、俺に手を振った。

「最後に聞かせてくれ、魔女に魔法をかけられた俺をなぜ倒さなかった。」

「カイがいいやつだって信じていたからな。」

「すごい。私、本音が出たのかと思った。」

手を振るのを止め、目を丸くした。カイがおいおいと言いながら笑う。レイコも珍しく声を出して笑う。

短い間だったが、ありがとうな。

別れを悲しみながら二人の顔を見ていると、視界は白だけになった。




 …ねえ…ねえってば!

 ん?カレン?

 高校の廊下で右手をかれんに揺らされていた。

「あ、ごめん。」

「それで、どうなの。遊びに行ってくれる?」

どうやら時間はごまかす前で止まっていた。あれは夢だったのだろうか。あの体験がなんだとしても、この誘いの答えは見つけられたから、感謝してる。

「もちろん。行こう。」

彼女は、うん、とキラキラの笑顔を向けた後、斜め後ろを向いて小さくガッツポーズをした。

 それから彼女は小さな声でこう言った。

「私の交渉はやっぱり成功するみたい。」


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