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ウィッチ  作者: 望月陽介
3/4

信じろ

 森までの1kmは短かった。砂漠での歩行距離に比べれば、短いか。

 森の木は約3m。辺りは霧で満ちていた。

 カチャンという音が足元からした。カイが何かを踏んだらしい。カイがそれを持ち上げると、それは黒い剣だった。

「まあ、剣はあって困るものでもないし、持っていくか。」

カイは剣術に優れている。これは心強い。

「さまよいの森。ここでは多くの人が帰れなくなって、朽ち果てる。」

レイコは無感情でそう言った。

「もう、やめてよ!」

カレンはまた、震え出した。

「大丈夫だ。俺は地図魔法がある。一度来た道は示せる。」

彼が指を鳴らすと、線が道に現れた。

「でも、辿り着けるの?さっきから、同じ景色だけど。」

俺達は森に入った方向をずっと真っすぐに歩き続けていた。しかし、辿り着く気配はない。


 早三十分は経っただろうか、さすがに疲れてきた。湿気で体が気持ち悪い。そして誰もが思っているはずだ。本当にたどり着けるのか…。

 先頭を歩くカイは黙々と歩いている。が、いきなり振り返り、

「もし、宝を手にしたら誰のものにするんだ」

と言った。

「そりゃ、ものにもよるけど山分けでしょ」

「そうか…」

 約三秒後、カイは体の横から大きく剣を振りかざした。咄嗟に俺は腰の剣を持ち上げて受け止める。急な判断のため、持ち方もままならず、そのまま弾き飛ばされる。

「いきなり、なんだよ!」

「俺は必ず宝を手にする。そして全て俺のものにする。一つ残らず俺の力となるのだ。」

 カイの目つきは鋭く、今までとは別人である。剣の刃が黒い炎に包まれる。

「そ、そんな魔法が使えたの?」

「あなた、最初から敵だった?」

カレンとレイコが驚く。一番驚いているのは俺だ。あんなに優しかった彼が…。

「くらえ。」

そう言った刹那、下段から剣を振り上げてくる。どうやら、彼女たちを狙う気はないらしい。俺は上がってくる剣に向かって剣を振り下ろす。しかし、すぐに上段から切り下ろす。十回ほど様々な角度から攻撃を受ける。俺はかろうじて防いだが、相手の剣をはじくので精一杯だ。

 …まずい。

 明らかに剣術はカイが上だ。

「やっつけて」

レイコが言う。そう言われても、彼を傷つけたくない。

「おい、覚悟は決まったか。」

 カイは鋭い視線を向けてくる。彼は本当にこんな人物だったのか。確かに宝に固執している節はあった。しかし…。

もしかしてあの剣が原因か。だが、魔剣なんて存在するのか。

「選択肢は2つ。死ぬか、俺を殺すかだ。」

カイはそう言う。いや違う。死ぬか説得するかだ。俺はカイが剣か何かに心を変えられたという説に賭ける。

 だって彼は優しいから。

「カイ、剣を交換しないか。」

「なんだと?俺の目当てはその剣だ。もらえるなら命だけは助けてやってもいいぞ。」

そういうことか。なら…!

「いや、その必要はない。俺はこの剣が嫌いなんだ。歴史のあるこの剣を使ってお前を倒しても、何も嬉しくない。だから交換し、決着をつけよう。」

なに言ってるの?という声が背中に当たる。俺はそれを無視する。

 ゆっくりと近づき、剣を交換した。彼はやはり騎士なのか、不意打ちをしてこなかった。

やはり賭けは成功している。心の全てが闇に飲まれているわけではない。あとは、この剣があれば…。

 なんなんだ、この剣は…。重い。そして体の一部のような不思議な感じがする。待てよ、もしかしたら俺が闇に飲まれるんじゃ…

 しかし、剣は壊れた。突然、割れた。そして、よく見ると、カイは倒れている。

「大丈夫か!?」

俺は走ってカイのもとに行った。カイは目を覚まさなかった。

「このガキが…!」

突然、声が森に響き渡る。そして、5m先に5mの人間が現れた。

「仕方ない。直接殺してやる。」

彼女はいわゆる巨大魔女だった。手に黒い炎を持ち、俺たちに投げてくる。

「避けろ!」

俺達は全力で逃げた。木が多い所に行き、俺は草むらの中に隠れた。すると、目の前にレイコの顔があった。

「大丈夫?」

「うん。」

顔が近くて気まずそうにしていると、

「私、村長さんに聞いてみる。」

レイコは通信魔法を使った。音声のみで、村長と連絡しているみたいだ。

「俺は様子を見てくる。」

俺は中腰になり、辺りを見回した。カイは同じ場所に倒れている。待っててくれ、助ける。しかし、カレンの姿が見当たらない。まさか、魔女に連れ去られたのでは…。

 頬を汗が通った。これが冷や汗なのか、湿気による汗なのか分からない。しかし、動機が止まらない。あんな風に攻撃魔法を使ったり、恐らくだが、心を操ることができる魔女を倒せるのか。頼りは村長の助言くらいか。レイコはひょっこり頭を出して言った。

「お父さんは、見極めろ、だって。魔女ができる魔法には限りがある。実物に見えて偶像のものもあるから、見極めるんだ。」

アドバイスが抽象的で驚いた。

「行こう」

レイコとともに、カイのもとへ戻る。約50m先に魔女が見えた。レイコにカイを任せ、剣を拾い、俺は魔女に向かって走った。

 カレンは、魔女の近くで手を広げていた。

「私、ずっと前から、魔女になりたかったの。さっき、この方に魔法を教わったわ。そしたら、こんな風にね。」

両手から炎を出した、この炎は黒くなかった。

「もう、だまされない。」

俺はカレンを無視し、魔女のもとへ走った。そして剣を振る。しかし、魔女の体は幻影だった。そして俺の後方に瞬間移動した。すぐさまもう一度切る。しかし、やはり、空を切った。そしてさらに遠い、カイの近くにワープしていた。

「あら、私を倒せないのかしら」

やはり今見えている魔女は幻影だ。それは分かる。しかし、本体はどこにいる。

考えていると、顔に熱風が当たる。どうやら顔の数mm横を炎が通っていった。熱い。これは幻影ではない。

「すごいでしょ、私だってやればできるのよ」

カレンは言った。悲しみ喜び怒り憐れみ虚しさ、全てを含んだ声だった。やっぱり彼女も操られている。カイは剣を奪ったら元に戻った。カレンも何か持っているはずだ…

ない!

彼女は素手で魔法を出しているし、装備も何も変わっていない。カレンは炎を飛ばし続けた。しかし、一つも命中はしていない。魔女はその姿を見て終始笑っているだけで何もしてこない。

これは考える時間がありそうだ。適当に魔法を避けているふりをし、焦った顔をしておけば、魔女は何もしてこなかった。しかし、カイが目覚めないのが気がかりだ。何かあったのだろうか。そして、レイコの姿がないのも気がかりだった。

カレンを助けるためにも、カイがおかしくなった経緯をもう一度考える。彼は剣を拾い、しばらく経ち、襲ってきた。しばらく経ち…。カレンはどうだ。カイが気絶するに伴い、数分で変わってしまった。この時間の差はなんだ?魔法がかかるまでの時間か、それとも場所か。2人とも変化したのはこのあたりだ。なにか魔法陣でもあるのか。

答えは見つからなかった。とりあえず、あたりを見回し、魔法陣らしきものを探す。

なぜ気づかなかった。

いや、魔法陣を見つけたわけではない。しかし、どうして森が燃えていない。

カレンは炎の魔法をもう数十発は放ったであろう。であるのに森は燃えていない。肌をこがすような熱風からしてあれは本物だ。なにかがおかしい。

「どうしたんだ坊や。私との鬼ごっこ、疲れちゃったかい?」

魔女は挑発ばかりしてくる。

「必ず捕まえてやる。」

あえて乗った。なにか分かるかもしれない。そして全力で走り、切る、走り、切る…。数回行って分かったことは、魔女は同じ場所を回るように逃げていくこと。

そうか!カイの変化の時間も挑発の意味も。やつは俺たちを進めたくないんだ。カイが急に変わったのはこの森のゴールが近いからだ。そして魔女は近くの人間しか操れない。だから、カイもカレンも…。

確認はあとだ。とにかく、あいつが1番嫌がるのはこれだ。

「待ちやがれ、ガキが!」

60mほど進むと、洞窟の入り口があり、その前にフードをかぶった女性が正座をして手を合わせていた。

コツンっ

剣の柄で頭を叩いた。い、痛い、と言いながら頭を抑えた。

「観念するんだ」

脅してみた。しかし、彼女はそれを聞き終わる前に逃げていった。木の中に消えていった。その途端、周りの木々は数本のみとなった。森が燃えない理由もこれで分かった。戻ってみんなの様子を見に行った。カレンはキョロキョロとしていた。

「大丈夫か?」

「え、なんのこと?あ、カイ!」

カイは立ち上がった。伸びをして、あくびした。

「あ、おはよう二人とも」

「いや、おはよーじゃねえよ」

カレンは笑った。やっぱり二人は操られていただけだったらしい。表情がまるで違う。

「で、今まで何があったんだ。俺はなぜ寝てた。」

俺は心の中で思った。説明するのめんどくせえ〜。

「あ、2人とも、戻ったんだ。」

「あ、どこにいたんだよ」

レイコが歩いてきた。

「これ、読んでた。」

その手にはぼろぼろで砂ほこりにまみれた本があった。砂遊びでもしていたと思われるその本の名は…

「魔女日記」

彼女は笑顔で言った。恐らく自分で命名した。

「何か分かると思ったから。」

危うく、彼女を責めるところだった。

「何か書いてあったか?」

「まず、森を大きく見せていたのは迷わせる為みたい。それから、彼女はブラックナイト、アルーマの妹。」

「えー!」

3人の目も顔も声も同じだった。歴史上の人物の妹と闘っていたなんて。

「彼女はアルーマと共に旅をしていた。彼女はこの森で、覚醒してしまう。兄にばかり頼っていた彼女は遺跡で見た文字を唱えた。すると、さっきの2人みたいにアルーマは変貌した。恐ろしくなった彼女は彼を洞窟の中に入れ、洞窟を何年も守っていた。」

「じゃあもしかして、アルーマは中にいるのか!」

「本当に会えるかもしれない。」

レイコの興奮は極大値を迎えた。

「他にも面白いことが。その数年後、レオニオがこの森に来て…ここから、ページは破れているけど、確認できる文字は、『初めて魔法が』『レオニオの剣』『決闘』と書いてある。」

「やはり決闘はあったのか。」

「かもしれない。昨日の記録もあって、そこまで全部読んだけど、魔法を破った人はいなかった。だからおそらく、あなたは二番目」

俺の目をまっすぐな瞳で見てきた。

「二番目?どーゆーこと?」

レイコが大きな声を出す。そうか、俺は2番目なのか。でも、カイの魔法が解けていなかったら、全滅していただろう。どうして、戻せたんだ?分からない。剣の交換は正解だったらしいが。

「腹が減った。」

カイが呟いた。

「カレン、料理お願い。」

「じゃあ、さっきの教えてよー!」

レイコは何回でも話すという顔をしていた。よほど、日記の発見が嬉しかったのだろう。それよりも、俺は気になった。ブラックナイトがいるかもしれない洞窟。

ここに必ず、何かがある。


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