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ウィッチ  作者: 望月陽介
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考えろ

もう・・・だめだ。

「暑い。」

「あー言った。言っちゃった。」

カレンがあきれる。だって暑い。この鎧にこの日差し、耐えられわけがない。恐らく、四人全員が思っていたであろう。しかし、言葉の重みは大きかった。

「あそこの遺跡で…休もう。」

また休憩?とカレンが嘆く、彼女は早くこの砂漠を抜けたいらしい。俺はカイに賛成だけど。

 正直俺はなめていた。目的地までそう遠くはないかと思っていた。そもそもこんなに砂漠が広いと思っていなかった。もう何時間歩いたかは分からないが、三時間は歩いているだろう。とっくのとっくに水は空になり、喉はカラカラになった。

「遺跡の向こうに森が見える。」

レイコが呟いた。俺には、遺跡の向こうは暗くなっていてなにがあるのか見えなかった。

「目が良いんだね」

「うん!」

レイコは嬉しそうにうなずいた。ようやくゴールが見え、カリンとカイははしゃいだ。カイは大人びた低めの声で笑いながら走った。

 いや、まだ元気じゃないか。

 というツッコミを心の中でし、俺は体力を温存し、歩いた。

「はやく、はやくー」

カレンが俺たちを呼ぶ。おーと返事をし、隣のレイコを見た。彼女も歩いている。そういえば、二人で話すことはなかったな。せっかくの旅仲間だし、話してみたい。

「レイコちゃんは、どうして宝探しに行こうと思ったの?」

「ブラックナイト、アル―マ」

いきなり彼女はそう言った。

「私は彼のファン。もしかしたら彼に会えるかも。」

ブラックナイト、アル―マ。うん、聞いたことはない。

また出てきた知らない単語に俺は戸惑う。後でカイに訊こうと思った。

先程まで、追いかけっこをするように砂漠を駆けていた砂ぼこりも少なくなっていた。遺跡には様々な形の岩があった。形は誰かが作ったかのように整い、角は尖っていた。この遺跡は人の手によって作られ、人の手によって利用されていることが分かる。建物も複数あるが、不気味であった。独特の光が中から顔を出し、神秘のドームが俺を招いている気がした。少し気になった。

「おいおい、遺跡は危険だぞ。」

カイが俺の肩に手を乗せる。俺の視線は遺跡に釘付けだったようだ。

「ねえねえ、何の魔法が使えるか、みんな教えてよ。」

遺跡がどんな風に危険なんだ?と言おうとした矢先、座りこむカレンの提案に先を越された。

「私はね、料理魔法と交渉魔法。」

カレンは得意げな顔をした。

「俺は、地図魔法と回復魔法しか使えない。」

「え、いつのまに回復魔法を覚えたの?」

「三年ほど、父に訓練してもらった。そしたら、できるようになった。」

俺は魔法についての知識は全くなかった。だが、俺には分かった。俺は何の魔法も使えないだろう。口ぶりからするに、魔法は努力によって身に付くもの。だが俺は、生まれてから今まで、自分にはこれだ、という何かに出会ったことはなかった。全てが中途半端で、いつだって楽な道を選んできた俺は落ちこぼれそのものだった。外に出たのもこれが久しぶりで、そんな生活をしている俺が魔法など使えるわけがない。 

俺はおかしな気分だった。過去のことは何も思い出せない。しかし、自分が落ちこぼれでどんな生活をし、どんな人間かは覚えている。

「私は、通信魔法。村と通信ができる。」

「ソラは?」

「多分、何も…使えない。」

鋭い風が俺たちの間を通った。

「俺の魔法なんて、あってないようなものさ。騎士レオニオのように、他人の心を動かす魔法や、ひらめきの魔法が使えたらな…。俺がこの宝探しに行こうと思った理由もそれなんだ。伝説の秘宝に触れれば、俺もなにか変わるかもしれない。」

「秘宝はアル―マのものだよ。」

レイコが言った。

「まあ、そうとも言える。しかし、レオニオは誰も見つけられなかった秘宝を見つけたんだ。しかし、持って行かなかった。彼のものと言っても過言ではないだろう。」

声は穏やかだが、彼の目は鋭かった。

「でも決闘で彼は敗れた。」

レイコは反論した。カイから彼女に向けられた火花が俺には見えた。カリンも見えているのだろう。その火花を彼女は体で消火した。

「2人とも、落ち着いて。実物を見れば、何かわかるよ。」

「…そうだな。」

彼の目は冒険をする青年の目に戻った。俺は自分なりに解釈した。そのブラックナイトが持っていた秘宝を今回行く洞窟に隠した。それをレオニオさんが見つけ、所有者を決闘によって決めた。そんなにすごい宝なのか。疑っていたが、宝に触れれば俺も魔法が使えるようになるかもしれない。早く俺は到着したい。今のところ、暑いだけで順調だ。さまよいの森ももうすぐだし、あっさりたどり着けるのではないだろうか。三人は魔法を使えるみたいだし。

「決闘の決着には諸説あって、それも…」

 急に地響きが俺たちの耳を覆い、激しい揺れがバランスを奪った。

カイが寄りかかっていた岩が地面の中に吸い込まれた。

「なんだ!?」

彼が叫んだ途端、地響きは止まり、静けさが訪れた。

「なんなの…?」

これは遺跡の怒りだろうか。とりあえず逃げた方がよさそうだ。

「行こう」

俺は、先頭で森に向かって走った。しかし、突然1m前の砂からさっき引っ込んだ岩が出てきた。と思ったらそれはデカブツの頭だった。

「ゴーレム!」

彼の叫びはゴーレムの体に跳ね返される。このデカブツは拳を俺たちの上から振り下ろした。さすがに動きが遅いので横に飛んでかわした。

咄嗟に俺は腰の剣を見る。こいつを倒さないと先には進めないのか?

と、思ったが、ゴーレムは砂の海に潜っていった。

「気をつけろ、遺跡に人が近づかない理由はあいつだ。村の人たちもたびたび襲われている。」

「なんでもっと早く言わないんだよ」

俺は彼に文句を言った。

静寂が訪れた。また、地響きが起こる。その地響きで辺りの砂が波を起こす。まるで生きているかのように。そして、遺跡に転がる岩を飲み込んだり吐き出したりする。もはや、元々どの岩があったのかさえ分からない。地形は変動の連続で、俺たちを困惑させた。

レイコは急に振り向いた。

約0.5秒後ゴーレムが頭を出し、今度は手で俺たちを掴もうとした。

「危ない!」

俺は、レイコとカレンを弾き飛ばし、その手を両手で押した。なんて強さなんだ。そして、砂の摩擦力のなさが仇となる。俺はその押し相撲を続けるに従い、後ろに後退していった。ついに俺はバランスを崩し、倒れこんだ。自分の陰が大きくなっていく。いや、違う。これはやつの拳だ。

 死ぬ…。

「はー!」

カイがその拳に拳を叩きつけた。カイの力、恐るべし。ゴーレムは数センチ後退し、また砂に潜る。カイは大丈夫か、と尋ねながら、俺に手を差し伸べた。しかしその手も顔も血まみれだった。

「お、おい…」

「鎧が砕けちまったみたいだ。」

カイの手の鎧は粉々で辺りに破片が飛び散っていた。この破片にカイは当たったのだ。もう、カイには頼れない。

「止血魔法。」

カイは自分に魔法をかけた。どうやら、魔法はスタミナを使うらしい。カイの顔色が良くない。

まさに絶体絶命。早くやつを倒すか逃げないと全員ここで終わる。

…考えろ!

俺は辺りを見回した。動く石、800メートル先の遺跡、1キロ先の森、震えるカレン、それを支えるレイコ…。

レイコ!彼女はゴーレムの強襲にいち早く反応していた。恐らく感覚が優れているんだ。

「レイコちゃん、これを。次の攻撃から、俺たちを守れないか。」

「分かった。」

レイコに剣を渡した。これでしばらくは防御できる。しかし、それは状況を打開する決定打ではない。

「来る!」

レイコは言った。そして見事にその方向から、ゴーレムは現れた。今度は1番前のレイコに向かって直線的なパンチを繰り出した。レイコは上段に構え、その拳に向かって剣を振り落ろした。

カーンっという大きな金属音が鳴り響く、のけ反ったデカブツは砂漠にダイブした。

そもそも、ゴーレムはなんであんな風に動けるんだ?岩の塊だろう?これが遺跡の文明のたまものなのだろうか。いや、だとしても何か秘密があるのだろうか。

「もう…ダメ。」

レイコは膝をついて言った。レイコの手は痙攣している。恐らくさっきの衝撃で手がダメージを受けすぎた。もう、この作戦は使えない。

「ごめんね、レイコちゃん」

剣を受け取った。俺は集中していた。俺の考えがあっていれば、ゴーレムに不意打ちを食らわせられるかもしれない。

俺は一番離れているカイに歩み寄った。

「一つだけ教えてくれ、ヤツは生物なのか?」

「誰かが乗っているという噂はあるが、なぜそんなことを訊く?」

俺はその問いには無視した。行動を持ってその質問に答えよう。やはりヤツの中には生物がいる。生物と言うことは、呼吸をするはず。最初に岩から頭部だけを出していることを考えると、その生物はゴーレムの頭部にいると予想できる。そして、やつが潜ったあと、攻撃までは約一分の時間がある。恐らく、それは様子を伺い、最適な方向から攻撃をするためだと予想すると、そう遠くはない距離にいるはずだ、さっき潜った時から、もう四十秒は経っている。もういつ攻撃してくるか分からない。

ヤツが地上にいるときは、頭部を攻撃することはできない。そして、カイとレイコがもう動けない以上、もう防御手は厳しい。つまり、この十秒で決めるしかない!

待てよ。この地響きはカモフラージュのために起こしているのか。

完全に分かった。周りの岩の中に一つだけ砂の付着が少ないものがあった。

「どうやっているのか知らないが、砂があったら呼吸できないもんな!」

俺はその岩の隙間に剣を突き刺した。硬かったが、問題なかった。なぜなら、俺は仲間を傷つけられたことへの怒りを込めていたからだ。

その隙間からものすごい勢いで、煙が出てきた。俺はそれに吹っ飛ばされる。取り巻いていた岩がぼろぼろと崩れ落ち、中から何かが出てきた。顔はネズミのようで、体は人間に似ていた。どうやら、剣はこの生物に当たらなかったが、機械を破壊したらしい。

正直殺す気はなかった。歩み寄ろうとしたが、ものすごい勢いで遺跡の方に走っていた。

「深追いはやめておこう。ありがとう、ソラ。」

「やるじゃん、ソラ!」

みんなに笑顔が戻る。回復魔法をレイコにかけたカイ。

 俺はやった。

 久しぶりか初めてか、俺は自分に満足した。


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