鬼の血の絆なのだ
「はあ~、おなかすいたのだ」
「そんなのどうでもいいから、体は大丈夫なの?」
どうでもいいことはないのだ、と思いながらもさくらが心配してくれているようなので、とりあえず答える。
「うん。なんともないのだ。この通り」
葉月は腕まくりをして、二の腕をたたいて見せた。
「体は大丈夫なんだ。頭が痛いとかは?」
「それも大丈夫なのだ」
「そう、それはよかった。それで、昨日の夜のことは思い出せる?」
「昨日の夜・・・」
葉月は腕組みをして思い出そうとしている。
葉月は何かを思い出したようで、さくらに詰め寄る。
「お姉ちゃんは?お姉ちゃんの傷はだいじょうぶなのか!」
「きず?かすみに傷なんかないよ」
「うそなのだ。あたしは見たのだ、血に染まったお姉ちゃんの顔を」
「ああ、それね。それはあんたの勘違い」
かすみは、疲れていたので滋養強壮によく効くという苦くて色の濃い薬を飲んでいた。
その時に例の魔物が現れ頭から被ってしまった、というのが真相であった。
それを見た葉月は我を忘れて鬼化してしまったのだ。
「かすみのことは思い出せたんだ。そのあとのことは?」
「なんか、うが~ってなったのは思い出せるけど、そのあとは思い出せないのだ。でもいいのだ。お姉ちゃんが無事ならなんでもいいのだ」
「それでいいの?」
「あんたに鬼の血が流れてたとしても?」
「なんだそりゃ。わけわからんけど、それでもいいのだ」
「はあ~?」
なぜ気にしない。
あたしなら、どういうこと?ってものすごく気になると思う。
でも、この娘はそんなこと気にしないと言っている。
ただの馬鹿なのか、器が大きいのか?わかってないだけなのか。
よし、もうちょっと聞いてみよう。
「あのね葉月。あんたのご先祖様の勇者って呼ばれてる人は、鬼だったんだって」
「へ~ぇ、そうなのか」
「へ~ってあんた。さっきも言ったけど、それって鬼の血があんたにも流れてるってことなのよ」
「わかってるのだ。そんな大昔の奴のことなんて知らないのだ」
こ、こいつ~。
さくらがしつこいのには理由があった。
鬼の血が流れていると知った葉月が落ち込み、それを慰めてやろうと思っていたのだ。
しかし、当の本人の葉月はまったく気にしていない。
かすみでも『うそでしょ』と、ショックを受けていたのに。
「もっとショックを受けるなりしなさいよ」
「もう~、さくらはうるさいのだ。先祖が鬼だろうと何だろうとあたしには関係ないのだ」
「関係ない言うな。先祖がかわいそうでしょ」
ダメだコイツ。
先祖を敬う気持ちがゼロだ。
これがあたしたちとは違う鬼という種族なの?