最恐の弁当なのだ
「うまいのだ~」
先日の花見事件の時のことを取り返すように葉月は花見を堪能していた。
3人のメイド姉妹たちの弁当はとてもおいしそうだ。
それに負けじとかすみも豪華なものを用意した。
「うわっ、これもうまいのだ~」
「ほんとにおいしいですかすみ様」
「うん、おいしいよかすみちゃん」
「ほんとだ。食材も豪華だし最高だよかすみ姉」
「ほんとに?みんなにそう言ってもらえるとうれしいな」
この後起きるであろうことをメイド姉妹とかすみは考えないようにしていた。
しかし、その時はやってきた。
「よ~し、それじゃ次はあたしの弁当の番なのだ」
そう言って葉月は嬉しそうに弁当のふたを開けた。
そこにはありえない色をした魚をメインに、原形を全くとどめていない食材たちがあった。
うわっ、これはあかん、4人は同時にそう思った。
4人が弁当?を前に固まっていると、葉月が声をかけてきた。
「どうしたのだみんな。遠慮せずに食べるがいいのだ」
すると恵がそれに答えた。
「こんな神々しい弁当は私にはもったいないです。だから、かすみちゃんどうぞ」
「えっ」
「そうそう、私たちにはもったいないよ。ねっ、恵樹」
「そのと~り。この弁当はいつも苦労を掛けてるかすみ姉がご褒美として食べるべきだよ」
この~みんなうらぎったな。
私一人にこの毒々しい弁当を食べろというのか。
「そうなのか?せっかくみんなのために作ったのに」
「そうなのそうなの。さっ、早くかすみ姉に弁当を渡して」
「だな。日頃のねぎらいも込めてお姉ちゃんに食べてもらうのが一番だな」
「「「そのと~り」」」
3人の合唱が響き渡る。
かすみもただでは食べない。
「ちょっと待って。私もこんなすごい料理一人で食べるなんてできないわ。やっぱりみんなで食べるべきだと思う。葉月もみんなに味わってほしいでしょ」
自分はどうも逃げられそうもない。
そう思ったかすみは3人も巻き込むことにシフトした。
「うん、やっぱりみんなで食べるのが一番なのだ。早く食べるがいいのだ」
3人も仕方がないと諦めたとき、桜吹雪が舞った。
「なんだおまえ。あたしのべんとうがそんなにおいしそうなのか?」
そこには桜の花びらの指をもつ子供が弁当に手を伸ばそうとしていた。
それは花見小僧とも呼ばれる妖怪で、花見弁当をこっそり食べるという妖怪であった。
「少し待つがいいのだ」
花見小僧は嫌な予感がして逃げようと試みるが、葉月が手を放してくれない。
そんな様子を見てかすみが何か閃いた。
かすみは箸で葉月の弁当をつまみ上げ、花見小僧の口へと押し込んだ。
花見小僧は顔を真っ青にして転げまわった。
そして、しばらくすると動かなくなった。
それを見た葉月は、その時気が付いた。
もしかして自分の弁当はまずいのではないかと。
「ねえ、あたしの弁当ってまずいのかな?」
目をそらし誰も答えようとはしない。
「ねえ、ねえってば」
4人は思った。
これはもう、うまいまずいの問題ではなく、これは食べるものではない。
毒だ!!!と。
それも、妖怪を倒すほどの。