メイドたちの日常なのだ
「はい、お茶が入りましたよかすみ様」
私の名前は『三神 恵理』
歳は十八でかすみ様とおなじである。
三神家の本家にメイドとしてやってきている。
姉と妹といっしょに。
かすみ様の父上母上は三年前に魔物討伐の時に亡くなった。
それ以来かすみ様が代わりにがんばっている。
私は主にかすみ様の手伝いをやっている。
「恵理、さまはやめてよ」
「いいえ、そういうわけにはいきません。なにせかすみ様は御当主なのですから」
「はあ~、そうね、そうだったわね」
かすみ様が、『さまはやめて』というのもわからなくはない。
同い年の女の子として3年前までは、『様』はつけていなかったのだから。
恵理としても、そうしたい。
だが、二人の姉妹が様付けしないので、自分だけはと思っているのだ。
そうしないと来客が来た際に、かすみが舐められたら困ると思うからだ。
せめて、かすみには『様』付けしようと思っている。
誰もなめるようなまねはしないと思うが。
以前、かすみのことを『小娘が』と言った者がいた。
それを聞いたかすみが立ち上がり刀を抜いた。
その男も刀を抜こうとしたが、そのまえにどこからともなく葉月が現れ男をタコ殴りの半殺しにした。
もちろんやりすぎだと葉月は説教されたが、かすみはいい気味だと思っていたようだった。
そんなことがあってからというもの、だれもなめた口は叩かなくなった。
ちょっと違うような気もしなくはないが、かすみが気にしていないようなので恵理も気にしていない。
「どうですか。今月はやはりきびしいですか」
「うん、なんせ石畳壊して穴あけちゃったからね。でも、あの子がいなかったらどうなってたか」
「そうですね。姫様のおかげで大したけがのものはいませんでしたから」
「私もね、あの子には感謝してるのよ。みんなの命が一番だもの。もう少し手加減ってのを覚えてほしいけど」
「ふふ、そうですね。では、うちの父に連絡しておきますか」
「うん、おねがい。おじさんに、毎度すみませんって伝えておいて」
「そんないいんですよ、うちの父親なんて。ただ無駄に絵がうまいだけなんですから」
「無駄って・・・」
恵理の父は、かすみの後見人でもある。
ただ絵がうまい男ではない。
恵理が一方的に嫌っているだけである。
そのことはまたいつの日か書くことがあるかも?
かすみたちがそんな話をしていた頃、もう一人のメイドである恵、恵理の妹である『三神 恵樹』は葉月と稽古をしていた。
「はあはあはあはあ、くそっ!」
「あたしに勝とうなんて、1億万年はやいのだ。はははははは」
「しかたがない。刃月討魔流はここまでだ」
「え」
刃月討魔流とは、葉月が勝手に命名した自己流剣術である。
剣術というよりも好き勝手に剣を振り回すだけなのである。
「ここからは、お互い三神討魔流で勝負だ」
「いやなのだ。三神流はきらいなのだ」
「なんだ、にげるのか?それじゃ三神流はあたしの勝ちだな」
「ぐぬぬぬぬぬ」
葉月は型にはめられるのを嫌う。
故に型にはめられると強さが何段か落ちてしまうのである。
「わかったのだ。やってやるのだ。覚悟するのだじゅんじゅん」
「ふふ、覚悟するのはどっちかな」
「なにを~!」
わざと怒らせるように恵樹はもっていく。
そうしないと稽古にならないからだ。
今の自分では葉月に勝てないことを恵樹はしっていた。
稽古にすらならないことを。
だから三神流にて型にはめ、葉月を怒らせ戦闘力を下げたのだ。
それでも葉月の出鱈目な身体能力の前では歯が立たない。
いつも思う。
は~、ほんとにこいつはむちゃくちゃだ、と。
でも、三神流の稽古相手には丁度いいとも思う。
自分よりも強い奴と稽古をした方が強くなる近道だと思うから。
暫く打ち合うと恵樹は膝をついた。
「どうだじゅんじゅん。あたしの方が強いのだ」
「なにを、まだまだこれからだ~」
そう言って立ち上がると二人の稽古は続いてゆくのだった。
もう一人のメイドである恵はというと
「よ~し、今夜は頑張って葉月ちゃんの好物お姉ちゃん作っちゃうぞ~」
こんな感じで、夕飯の支度をはじめていた。