第9話
ともかくそういった事情から、急激に長女と四女の仲は険悪になっていた。
昨夜も二人は冬木君を巡って姉妹喧嘩をする有様だった。
「冬木君は私の同級生よ。それに、私とハーモニカを一緒に演奏すると、とても息が合うの。これは二人の相性がいい証拠よ。だから、お姉ちゃんには絶対に譲れない。私と冬木君が結婚するの」
そう四女が言えば。
「何を言うの。姉の言うことに、妹は従うものよ。それに私は高橋家の戸主よ。戸主のいうことに、あなたは従うのが当然よ。私が冬木君と結婚する以上、あなたは諦めなさい。あの冬木君のハーモニカの調べ、あれは私が幼い頃に聞き、探し求めていた調べに間違いない。冬木君は絶対に譲れない」
今や、長女はそうませたことまで言って、四女の主張を圧殺しようとする有様になっていた。
私はさっきの彼女の話を聞き合わせて思っていた。
長女は私の娘4人の中で言うまでもなく、もっとも夫のハーモニカの調べを聞き覚えている。
それこそ胎児の頃から3歳になる直前まで、夫のハーモニカの調べは長女がもっとも馴染んだ音色だ。
そして、誰が奏でているのか、長女自身が分からない間に、夫は欧州に出征してしまった。
誰の調べなのか、あの調べをまた聞きたいと長女の心の奥底は、その調べを探し求めていたのだ。
だから、夫の調べを奏でる冬木君を、何としても長女は手に入れて結婚したいのだ。
私が色々と四女を始めとする人達から聞き合わせる限り、冬木君は夫の血を承けたせいか、文武両道と言ってよい存在らしい。
本当に夫の隠し子で無かったら、私は長女の婿にでも、四女の婿にでも、冬木君を喜んで迎えるのだが。
それで、高橋の家を守ろうとするだろうに。
何だかんだ言っても、女の網元は微妙につらい。
網子同士のトラブルに、他の網元とのトラブル、そういったことを治める必要がある。
また、色々な商売の取引等もある。
そういったときに、女の私はどうしても舐められてしまう。
義弟はそういった私を助けてくれはするが、そもそも打算が絡んでいるし、思慮が足りない。
また、義弟の長男も腕っぷしはいいが、私の見る限り、頭が足りず、そういったことは向いていない。
私が何とかやっていけるのは、仲買人の有力者である私の実家の有形無形の援助もあるからだ。
さすがに、義弟の長男のことまではわからなかっただろうが、義父母がそういったことから跡取りの男の子を欲しがったのは、心情的には分からなくもない。
そして、何故に冬木君について、義父母が夫の遺言状を公開しなかったのかも。
義父母は、私の実家を完全な敵に回したくはなかった。
夫の遺言状を公開して、自分達が今回の黒幕なのが発覚すると、私の実家との関係が後々こじれて、まずいことになると懸念したのだ。
ともかく、私の長女と四女の頭を冷やさせないといけない。
それが私の緊急課題だ、と私は考えた。
冬木君が夫の隠し子なのを二人に今、明かしては、却って二人が嘘に決まっているとか考えて、更なる暴走が二人の間で起こりかねない。
だから、冬木君に集落から出て行ってもらうことで、自然に二人の頭を冷やさせよう。
そう彼女の話を聞き終えた私は考えて、彼女に私の考えを説明した。
彼女は、私の説明を聞いて驚いた。
「息子が、高橋さんが僕に迫ってきて困ると言っていたのですが、そんなことになっていたのですか」
「ええ、だから、あなたの息子には、集落から出て行って欲しいの」
「でも、働き口が無いと」
「私の実家に頼んでみるわ。ちゃんとあなたの息子は厚遇することを約束する」
「えっ、あなたの実家で働いていいのですか」
彼女は驚愕した。
私は彼女の表情を見て、何故だか自分の溜飲が下がるのを覚えた。
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