第8話
「それで、あなたとしてはどうしたいのですか」
彼女は、ずっと溜めこんでいた自分の思いの丈を話したせいか、挑発するかのように私に問いかけてきた。
「そうねえ。あなたの息子には集落から小学校を卒業次第、当分の間、この集落から出て行って欲しいわね」
私は挑発に挑発で返すかのような口調で答えたが、その一方で笑いながら言った。
彼女は戸惑いの表情を見せた。
「ごめんなさい。我が家でかなりの問題が起きているのよ」
私はそう言って、少し内輪の話をすることにした。
内心では内輪の話でも彼女に話すのは別にいいではないか、と少し笑い転げながら。
何しろ、目の前の彼女は、このことについては当事者の一人なのだ。
学芸会の約1月程前、ハーモニカで学芸会の際の合唱の伴奏をすることになったのは、私の末娘が先生に我が儘を言ったのが発端だった。
何しろ我が高橋家は、集落で最大の網元だ。
そのためもあって、私の娘たちはある意味、集落の女同級生の頂点に4年連続で君臨してきた。
だから、末娘は我が儘娘に(私の眼からしても)育ってしまい、先生に我が儘を言ったのだ。
そして、先生はそれを認めた。
末娘は、同級生から自分以外の5人を選抜し、学校が終わった後、共同で練習することにした。
何しろ時間がない、1月程で学芸会の合唱の際の伴奏が出来るようになろうというのだから、時間を惜しんで練習の必要があった。
その練習場所として末娘から選ばれたのは、我が家だった。
末娘を含む6人は、学校が終わった後、我が家で懸命に練習に励んだ。
それを時折、聞いている内に、私の長女は妙なことを言い出した。
あの6人の演奏、中でも冬木君の演奏を聞くと懐かしいというか、心が安らぐ。
できたら、冬木君と結婚して、あのハーモニカの音色を聞きたい。
そう言って、長女は冬木君の演奏に聞き入るようになった。
そのことを最初に聞いた時、長女がそんなませたことを言うのは義弟のせいだ、と私は内心で八つ当たりをしてしまった。
長女はまだ15歳だが、義弟は自分の長男と私の長女を早く結婚させたいと画策していて、私どころか長女にまで、それとなく自分の長男を売り込んでいる。
だが、義弟の長男は末娘や冬木君と同級生で、長女より3歳も年下なのだ。
だから、長女としては、義弟の長男よりも冬木君の方がマシと言いたいだけなのだろうと思った。
しかし、長女は違うと私に言った。
私は自分の耳には自信がある、冬木君の演奏には聞き覚えがある、どこで聞いたかは分からないけど、でも本当に聞き覚えがある音色で、自分の心が安らぐのだと。
目の前の彼女の告白を聞いて、私には分かった。
冬木君のハーモニカの演奏は、夫のハーモニカの演奏と同じ音色を出しているのだ。
勿論、ただの偶然と言えば、偶然なのだろう。
でも、演奏の音色で秘められた血筋を明かすというのは、私が昔読んだ古典文学でもあった話で、実際にある話なのでは、とさっきの彼女の話を聞いた私には思えてきていた。
それに長女の話は、満更、デタラメとも思えない根拠があった。
長女と末娘の四女は、夫に似て音楽が得意なのだ。
だから、長女がそういうことをあっさり私には斬り捨てられなかった。
(ちなみに、私は音楽があまり得意ではない。
勿論、いい音楽を聴けばいい音楽ですね、と私は言える。
でも、夫や長女や四女みたいに、音楽を聴いて、他の演奏とどこがどう違うとかまで、私は聞き分けられないし、演奏もできない。
だからこそ、夫との関係でいつの間にか隙間風が吹くようになってしまったのかもしれない。
夫にしてみれば、どうして自分の演奏が分からないのだ、という不満をいつか溜め込んでしまうことになったのではないか。)
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