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第7話

「そして、あなたが4人目の娘を産みました。あの人の両親にとって、この時に最大の誤算だったのは、4人目の子どもを産んだ後、あなた達母子がこの集落に来ることを決めたことです。あの人の両親は、あなたは子どもをあの人の両親に渡して、別の男性と再婚を望むと考えていたらしいのです」

 彼女の独白は続いた。


 私は想いを巡らせた。

 末娘を産んだ直後、義父母は今になって考えれば不自然な程、私に再婚を勧めた。

 まだ若いのだ、子どもはこちらが引き取るから、いい人と再婚したらいい、と。

 だが、私としては、こんなに私のことを気に掛けてくれる亡夫の両親に嫁として孝養を尽くさねば、という想いが先立ち、この集落に娘4人と共に来ることを決めたのだ。

 裏を知った今となってみれば、お人好しの自分自身に呆れたくなってくる。


「それで、私の息子を養子にして、ということが、あの人の両親にとって、やりにくくなってしまいました。あなたが自分の娘の婿養子にして跡を継がせればいい、と言うのが目に見えています。かといって、あなたの娘と私の息子を結婚させる訳にはいきませんよね。何しろ。本当は異母兄弟ですもの」

 彼女は泣き笑いしながら言った。


「あの人の両親が若死にしたのは、そのことから来る心の重荷のせいではないか、と私は思っているんです。何しろ目の前に実の孫息子がいるのに、それを孫息子と色々な事情から認められない。自業自得とは言えばそうですが、ああ目の前に、という想いに耐えられずに若死にしたのではないかと。だからと言って、あの人の両親に私は味方できません。事の発端が私にもあるのは事実ですが、だからといって全部考え合わせると、どうしても、あの人の両親が悪いと私には思えてならないんです」

 彼女は語りたいことを全部語ったのだろう。

 私の方に向き直り、私をあらためて見据えるような表情になった。


 私は彼女を見返しながら、想いを巡らせた。

 彼女の話がどこまで本当なのか、全て真実を語っているのか、今となっては確かめようがない。

 何しろ、夫も義父母もあの世に旅立った後で、その次に詳しい事情を知っている彼女の両親は、彼女の言うことを全面的に認めるだろう。

 だが、彼女の話すことの多くは、おそらく(少なくとも彼女の中では)真実なのだろう。


 だからこそ、この集落の彼女と同世代か、年上の面々は、彼女とその息子に同情的なのだ。

 年下の世代は、そもそもこのことについては詳しいことは知らないでいるのだろう。

 そして、事情を全く知らずにこの集落に来た私達母子を傷つけまいと、(義弟も含めて)この集落の人達は、私達母子に冬木君のことを話さずに、ずっと来たのだ。


 暫く沈黙の時が続いた後、私は彼女に一つ尋ねることにした。

「あの人のことをどう思っているの」

 彼女は海の方をまた向いて、私の方を見ずに口を開いた。


「私、海を見るのが好きなんです。海を見ながら、この海はあの人の眠る海なのだ、と思うと、真冬でも心が温かくなって。30歳にもなって、と言われそうですけど」


 負けた、負けた。

 私は正妻なのに、彼女のように夫のことをそんなふうに語れない。

 恥ずかしげもなく、正妻相手に愛人が惚気るな、と怒りたいのに、私は怒る気力が失せるのを感じた。

 ああ、夫はこんないい男だったんだ。

 私は自嘲めいた、そんな想いが湧いてきてならなかった。


 もっとも夫が死んで10年以上経ってしまったことから、色々な意味で私の心がさめてしまっているのもあるだろう。

 もし、夫が死んで末娘が産まれた前後にこれらのこと全てを知ったら、私は荒れ狂っただろう。

 そして、そのこともあって、この後のことに比較的冷静に想いを巡らせることが私にはできた。

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