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第2話

 今、私達母娘が住んでいるこの土地は、元々は私が生まれ育った土地ではない。

 夫が生まれ育った土地だ。

 夫が戦死して結果的に網元の家の跡取り娘になってしまった私達夫婦の長女の将来を考え、夫が戦死した後で、私達母娘はこの土地にやってきた。

 だから、あの冬木という娘の同級生についても詳しくは私は知らない。

 私達の網元の下にいる網子の家の一つの筈というくらいしか、私にはすぐには思い出せなかった。


 なお、網元の仕事だが、夫の両親が健在の間は夫の両親(細かく言えば姑が亡くなった後は舅だけで暫くは基本的にやっていた)がやっていて、夫の両親が共に亡くなった後は、私からすれば義弟になる夫の弟に助けてもらって私が主にやっている。

 義母は私と違い、いわゆる男腹で、3人の男の子ばかり産んだ。

 夫のすぐ下の弟は一旗揚げると言って、地元を離れて、都会に行ってそこで家庭を築いた。

 一方、その下の弟は地元に残り、私を助けてくれている。

 もっとも、その下の弟(夫の両親から見れば三男)は、自分の息子を私の長女の婿養子にして、網元の家を継がせろと私に暗に迫っていて、私としては気が許せない状況にもある。


 学芸会が終わった後、私は末娘や地元にいる夫の下の弟、更に他の周囲の人にも冬木家のことをそれとなく聞いて回った。

 ここは海軍の軍港からそう離れた村ではない。

 列車に乗れば30分程で行ける距離で、軍港に出稼ぎに行く男女も珍しくない。

 娘の同級生の冬木君は、それによってできたいわゆる父無し子だった。


 母親が軍港にいる海軍の軍人を主に目当てとするカフェで女給として働いていた際に、客に騙されて妊娠してしまい、産まれたのが冬木君だそうだ。

 もっとも、今どきのカフェと違って、冬木君の母親が働いていたカフェは、コーヒー等が好きな真面目な堅い軍人が主に通うカフェで、それもあってまさかという目に遭ったらしい。

 ともかく、その客が言っていた住所等は全くのデタラメで、冬木君を母親が妊娠した途端に、その客は行方をくらませてしまい、母親は途方に暮れる羽目になった。

 ともかく堅い店だったので、客とそんなことをしたとは、と主人によって母親はカフェを解雇になり、母親は地元に帰ってきた、と私は聞いて回った末に分かってきた。


 そして、私は義弟をはじめとして冬木家のことを尋ねて回ったが、多くの人が奥歯に物が挟まったような言い方をするのに、私は気づいた。

 いや、より精確に言えば、私に対してだ。


 義弟に至っては、色々と私が問い詰めた末にだが、

「うん。義姉さんが気に掛かるのは分かるけど。世の中には知らない方がいいこともあると思うよ」

 と半ば逃げられてしまった。


 ここまでされて、私が気にならないとでも思っているのだろうか。

 却って、私の疑惑を深めるばかりではないか。


 あの学芸会から1週間余りが経って、末娘が学校に行っているある日、私は思い切って冬木家を訪ねて、彼女に対し、何故に夫の遺愛のハーモニカを彼女の息子が持っているのか、を問いただすことにした。

 幸いなことに寒サバ漁に多くの網子が出かけていることもあり、集落に人は少ない日でもあった。


 冬木家を私が訪ねると彼女、冬木君の母親がいた。

 彼女は私が何れは訪ねて来ると覚悟していたようで、私の顔を見た瞬間、

「人に聞かれてはどうかと思うので、浜辺に行きませんか」

 と私に提案してきた。

 勿論、私に否という選択肢はない。


 私と彼女は連れ立って、集落から少し離れた浜辺へと向かった。

 そこならば見晴らしがきく。

 誰かに気づかれないまま、人に知られてはまずい話を他人に聞かれることはないだろう。

 彼女は浜辺に着くと、波打ち際に立って暫く黙ったままで海を見渡した。

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