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エピローグ

 夕方になったこともあり、外から入ってくる風が、少し涼しさをかんじさせるものになっていた。

 そのせいか、気だるい気分になった私は、だらしないと自分自身思いつつ、縁側でぼーっと横になって、風に当たっていた。

 気が付けば、あれから3ヶ月余りが経つのか、半分まどろみながら、そんなことを私は考えていた。


 あの後、私はすぐに実家と連絡を取り、(事情を伏せたまま)冬木君を住み込みで働かせてほしい、と頼み込んだ。

 実家としても、小学校を卒業した若いのを雇おうと考えていたこともあり、その話自体はすぐにまとまったのだが。


「お母さん、冬木君を集落から出ていくのを止めさせて」

「お母さん、一生のお願い」

 私は長女と四女から懇願を何回も受ける羽目になり、私はそれを突っぱねる羽目になった。


 冬木君が集落から出ていく日、私と冬木君の母と私の娘二人は共に駅まで冬木君を見送りに行った。

「別に、もう帰ってこないわけじゃないから」

 駅のホームでも、冬木君は、そう娘二人をたしなめたが、娘二人は共に、

「せめて、必ず盆と正月には帰ってきて」

 と泣きついていた。


「必ず帰ってくるから、その証として、このハーモニカを渡すから、預かっておいて」

「それはあなたが持って行って、心を決めた時にどちらかに渡して」

 冬木君は夫の遺愛のハーモニカを二人に渡そうとしたが、そう言って私はさり気なくそれを止めた。

 姉妹どちらが持つかで喧嘩が起こるのは必定だし、考えすぎだと自分でも想うが、冬木君の形見になってしまいそうな気がしたからだ。

 そう夫が、私の横にいる彼女、冬木君の母の下に還って来なかったように。

 彼女もその言葉に肯いていた。


 そして、駅のホームから列車が見えなくなるまで、私と娘二人、彼女は冬木君を見送った。


 そんなことをまどろみながら思い出していると、四女が

「お母さん、お祖父さんから手紙が届いているよ」

 と家の郵便受けから、手紙を取り出して、私の下に持ってきた。

 私は身を起こして、その手紙を受け取り、開いてみた。


 手紙の内容は、実家の近況を伝えるものだった。

 この不景気だが、何とか実家の商売は堅調らしい。

 そして。


 私は慌てて、手紙を畳み、半ば隠そうとしたが、目ざとい四女は、

「どうかしたの」

 と言って、私から手紙を取り上げた。

「すぐに返しなさい」

「いや」

 と言って、四女は手紙に素早く目を通し、顔を真っ赤にした。


「お姉ちゃん」

 四女はそう叫んで、長女の下に駆け込んでいく。

 私は慌てて、四女の後を追ったが、向こうの方が足が速い。

 私が長女の下に駆けつけた時には、長女まで顔を真っ赤にしていた。


「「許せない。浮気をしているなんて」」

 目の前に女の赤鬼2匹がいる。


「浮気なんて、何を気の早いことを言っているの」

 私は懸命に二人を窘めるが、二人の怒りはすぐには収まりそうにない。

「明日、高等女学校を休んで、おしかけてやる」

「私も同行するわ。お姉ちゃん」

 私はため息を吐いた。

 一晩寝ることで、二人の頭が冷えますように。


 お祖父さん、私の父からの手紙の末尾に、冬木君の近況が書いてあった。

 一生懸命に陰ひなたなく働き、周囲の評判も上々、最近の若いのでは一番、と目されつつあるらしいが。

 問題は、私の兄からも気に入られ、娘二人しかいない兄から、行く行くは冬木君と同い年の上の娘の婿にして、冬木君を我が家の跡取りにしてもいい、と考えられている、と書いてあったことだった。

 上の娘も満更ではないらしい。

 ちなみに冬木君自身は、仕事を覚えるのに懸命で、そんな周囲の思惑に気づいていないとか。


 何という爆弾を父は我が家に投げ込んでくれたのだろう。

 この後始末をどうすればいいのか、私は頭を一人で抱え込んでしまった。

 これで完結します。


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