~ヒトリノ苦ツウ~
ここから単独行動。
沙也加パート。
沙也加の体に異変が……?
「んん……」
目を開けるとそこは真っ黒な世界だった。
「何も見えない……。零士君!! いるの?」
私は零士君を呼んでみる。でも返事がなかった。
「……零士君とはぐれちゃったのかな……。零士君…無事だといいんだけど……」
私は立ち上がろうとすると、バランスを崩し、倒れる。
「痛っ……。あっ…そっか…私、右足怪我してたんだった……。どうしよう…歩けない……」
途方に暮れていると
『なら、ワタシノ右足ヲアゲル』
声が聞こえ、振り返ると女性の幽霊が立っていた。
『ワタシノ足はドコモ悪くなってないカラ……ネ? ドッチニシテモ…ワタシはもう…此処カラ出るコトハデキナイからネ……。持っててもイミガナイノ。ダカラ…マダ生きてるアナタなら…この足をジュウブンにツカッテくれる……』
そう言って、女性の幽霊は微笑む。複雑な気持ちになった。だけどこの右足じゃ動けないし、何も進まない。でも……都合が良すぎる気もした。痛む右足は新しい右足が欲しいかのように、痛みを増していく……。私は痛みに耐えきれず、幽霊の言葉に甘えることにした。
「……お願い……。右足…交換して下さい……」
そう言うと、女性の幽霊はにこっと笑い、言った。
『ジャア、目をツブッテ? 今から、私のと貴方の……コウカンするから…ネ?』
私は言われる通り、目を瞑った。ぐちゃぐちゃ……。気持ちの悪い音が耳に入る。ぐちゃ。がちゃ。ごちゃ。ぐちゃ。ぐちゃ。ぐちゃ。
「嫌…嫌…。早く…早く…」
その音に不安になり、私はつい、嫌みを呟く。早く終わって欲しかった。
『ダイジョウブ。もうすぐ終わるカラネ』
…それにしても気持ち悪い音がする割には…痛くなかった。
『ハイ、終わり。コレデアナタハ動けるハズだよ?』
「え……?」
私は目を開けて右足を見てみる。……交換したと思えないぐらいに…綺麗だった。動かしてみる。……動かせた。縫った痕も何もなかった。あるのは大量の血。……こんなにも血が出ているのにも関わらず…全然痛みがなかった。何故だろうか……?
『良かった、動くミタイネ』
「……ありがとう。でも……貴方は……」
『ワタシハ大丈夫だから。ソレヨリ…此処は危険ヨ。ハヤク行ったホウガイイワ……。アナタガ死ぬ前ニ……』
そう言って、女性の幽霊は消えた。そうだ……。こんな所にいつまでもいる訳にはいかない…!! 私は…生きるんだ。生きなきゃいけない。零士君と共に。私は彼女からもらった右足を撫でる。
「……行かなきゃ。零士君と合流して、此処を脱出しないと…!! あっ…でも…彼を…探さないと駄目…なんだよね。齋藤類さん。……大丈夫かな……彼が死んでても駄目なんでしょ……? ……今のところ、何も情報掴んでないんだけど……」
私は立ち上がって歩き出す。そういえば…拒否反応とか…出ないのかな…? もし出たら……足……。そう思うとぞっとした。だけど、今のところは大丈夫そう……。
「それにしても…真っ暗だな……。明かりはないのかな……?」
不安になりながら歩く。コツ……コツ……コツ……。私の足音が鳴り響く。静寂に包まれている……。コツン。
「きゃっ!!」
足に何かが当たり、私はびっくりして後ろへ飛び退いた。ゆっくり近付いてみる。手を伸ばしてみると、どうやら懐中電灯のよう。
「……!! 零士君の懐中電灯……?」
私はポチっと懐中電灯のスイッチを押す。すると明かりが付いた。
「……違う。新しい懐中電灯だ……」
懐中電灯は暗い病院の中を照らす。
「……え?」
私の手足を見ると、緑色に変色していた。
「え……え……!? 何…これ…嫌…嫌あああああああああああああああああ!!!!」
この足は何? この手は何? 緑色……。私……腐ってるの…!? 嫌だ…死にたくない…!! 嫌だよ…!!
「あああああ……ああああああ……」
ただ叫ぶことしか出来なかった。こうしてるうちにも私の体はどんどん腐っていくのに。動けなかった。
「……もう私は駄目。なら…せめて零士君だけは……助けないと……」
そう思い直して、何とか私は歩き出す。
「……何か……齋藤類さんの手掛かり……ないのかな……」
重い足取りで歩く。
『ヒトリだ……。ヒトリ、ヒトリ。私はヒトリ。誰もイナイ。クルシイ……クルシイヨ!! サミシイ…胸が痛い……。アノヒトガいない……アノヒトがいない世界ハ……イキテモ意味ない……』
「零士君がいない……。一人……。私一人……」
『死にたい……アナタがイナイと…辛いヨ……。ヒトリは…寂しいヨ……あぁぁ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……』
叫び声。梨美さんの声なのだろう。
『誰ニモ相談デキナイ……。オコラレルから……。迷惑カケタクナイカラ……。クダラナイことだとハナサレルから……。イエナイ。ツライ。シンドイ』
苦しみ。悲しみ。痛み。辛み。
『死ねばコノ苦しみカラ…解き放たれる。シニタイ…シニタイナ……』
一人は寂しい。一人は辛い。それがよく分かってしまった。彼女の辛みが…分かってしまった。まだ生きてるこの体を…捨ててしまいたいって…初めて考えてしまった……。
「駄目…先に…進まないと……」
私は首を振って、前に進む。すると赤い紅いドアが現れた。私はドアノブを回す。ガチャ。開くようだ。私はドアを引いた。
『ぎゃあああアアアアアああああああ!!!!』
例の化け物がいた。看護師姿でブリッジ状態の化け物。もうどうでもいいと思った。私はもう死ぬ運命なのだから。私は化け物に構わず進む。すると化け物は後退りした。まるで……可哀想な生き物を見るような……。化け物は私を襲わなかった。目から赤い紅い涙を流していた。
『……哀れな……ニンゲン……』
そう言われた…気がした。私は進む。ピチャピチャと音を立てて。せめてもう一度は会いたいと……。化け物に冷たく…哀れそうに見られながら。一人で死ぬのなら……死ぬ前に……零士君に……アイタイ……。緑色になっていく体を無理に動かして、次の部屋を目指した。
『……一人、死にそうですね』
『……ソウネ。罠に引っ掛かったワネ』
罠…それはあの右足。あの右足は全身を腐らせるための道具。これで沙也加は…クサッテイキ…体がモタナクナリ、グシャッと崩れるだろう。ソウ…あの化け物のヨウニ。
『……』
『ドウシタ? 梨美』
『……アノコ…あれでも私の…生まれ変わりナンダヨネ……』
『アア。ソレガドウシタンだ?』
『……チャンス……アゲよう…?』
『エ?』
『……アマリニモハヤイシ、つまらないシニカタだから』
『……。マァ…考えとく。君のオオセだしね』
『……とりあえず、孤独をアジワッタみたいダカラ。これ以上はヒツヨウないわ。マダマダ…ツラサ、与えてないカラ……ね?』
『ソウダナ』
……明らかに梨美が人を殺したくナクナッテイル。あれほどコロシタガッテタのに……。それもソウカ……。あのフタリは…僕達のウマレカワリ。要は僕達とイッテモ過言ジャナイ訳だ。……このゲームもコレデ終わりナノダロウカ……。だけど…違うキガスル……。このオモイは何だ…? ……イマハ深く考えないでオコウ……。時間がタテバ…梨美もモトニ戻る。時々アルこと。ゲーム中に梨美がツラク思い始めるノハ……。だから。スグニ元にモドル。……梨美。ゲームはドウデアレ…僕は君の……。
『ゲームは…まだ続くんだから!! フフフ…あはハハは!!!』
……梨美。君はこのゲームを最後に……マ タ ジ サ ツ ス ル ツ モ リ ナ ノ カ ?




