~私ノ過去ヲ…叫びヲ…アナタニ…~
イタイ……。痛い。何が起こってるの? あぁ……私、化け物に右足を掴まれ、血が出て……。でもそれからは覚えてない。どうなっちゃったんだろ。
「……沙也加……」
何処かで私を呼ぶ声が聞こえる。遠い所から……。私を必要としてくれているような……? ゆっくりと目を開けてみる。視界が少しぼやけているが、どうやら私は助かったみたい。フカフカのベッド。此処だけどこか安心出来る所だった。
「此処は……。……ああうっ!!」
動こうと思うと、激しい痛みが私を襲った。私はそっと布団をめくると、私の右足に包帯が巻かれていた。包帯には血が滲んでいた。
「止血は……してるみたい。……あ、零士君……!!」
私は、はっと気付き、周りを見ると零士君は隣で寝ていた。ずっと…私の看病してくれていたのかな……? そう思うと、涙が出そうになった。
「……んん……」
「零士君……」
「……あっ、気が付いたのか!! 気分はどうだ!?」
「……大丈夫。まだ少し足が痛むけど……」
「そうか……此処はどうやら安全らしいから…ゆっくりするといい」
「そうなの……。右足……どうなってたの……?」
すると零士君は顔をしかめ、言いにくそうに言った。
「……もう右足は使えない……」
「え……」
「お前は…もう歩けやしない……。右足は使い物にならないよ……」
「……そう……。私、もう死ぬのかな……」
「諦めるな!! そうさせない!! 俺がお前を守るから……!!」
零士君はそう言ってくれた。だけど、私がいて…足手まといにならないのかな……? でも進まないと零士君を帰せない……。とりあえず私は零士君を信じて、立とうと体を起こす。
「お……おい……?」
「零士君…肩を貸して……。足手まといになるけど……私、零士君の手助けしたい……」
「沙也加……。ありがとな。分かった。肩を貸すよ。早くこんなとこ…出ないとな…!!」
そう言うと、零士君は立ち上がって、私に手を伸ばす。私はその手を取り、零士君の肩を借りる。
「それじゃあ…行くか」
「うん……!」
私達は唯一安全であった部屋を出た。
外に出ると、いつものカビ・血の臭いで漂っていた。1階よりも酷く、あちこちに亡骸・人骨があった。血があちこちに広がり、そして血だまりを踏むと、ピチャッと音が鳴り、しかも粘り気があった。しまいには靴にも血が付き始めた。私達は遺体や人骨を避けながら歩いた。慣れという物は恐ろしいものだ。最初はこのカビと血の臭いが混ざった感じの臭いを嗅いだだけで、気分が悪くなったのに、今ではあまり感じなくなった。
「……くそっ、相変わらず何だ、この臭いは……。最初と比べたら、マシだけど、それでも気持ち悪くなるぜ……」
「そうだね……。ねぇ……1階よりも明らかに……酷くない……?」
「ああ……死体が多すぎる。要は此処で朽ち果てた奴が多いってことか……」
「そういうことに……なるね……」
私はそう思うと恐怖で動けなくなりそうになった。……いや、もう動けないんだったか。すると、零士君はぎゅっと私の冷たい手を握ってくれた。……温かった。私は零士君を見る。零士君はこちらに目を合わせなかった。ただ歩くのに必死だった。手を握る…それは彼なりの励まし方なのかもしれない。私はこっそりと零士君に呟いた。
「……ありがと」
そして手を握り返す。すると零士君の指がピクリと反応した。
「……204号室……だったな。何処だ……? 懐中電灯の光の範囲が狭すぎる……」
零士君は懐中電灯をあちらこちらに動かす。すると、“何か„と目が合った。
「……やばい。またか……」
零士君はチッと舌打ちすると、私を背負う。
「きゃ!? 零士君!?」
「気を付けろ、追って来るぞ!!」
すると、物凄い勢いで化け物が追っかけて来た。両目から血を流し、四つん這いになっていた。頭には凶器と見られる物が刺さっていて、血がポトポトと垂れていた。
「ぐるるる……」
化け物は唸り声を上げながら追っかけて来る。
『死にたい……死にたいよぉ……』
「!?」
頭に響くこの声……。零士君はそのまま走っている。……聞こえているのは……私だけ……? この化け物が……頭に直接訴えてるのかな……。
『やめて……ヤメテ!! 私の……私のことを……これ以上責めないで……ヨ!!!』
化け物がまるで泣き叫ぶような声を上げる。誰かに責められ、追い詰められた人の幽霊なのだろうか。
『ワカッテルヨ……!! ワタシガ悪いことも……ワタシノセイデ皆がフコウニナルノモ……。ダカラ……これ以上……イワナイデ!!!!』
何だか心が痛んだ。責められる辛さが分かった気がした。化け物は自分を傷付け始める。体から、頭からどんどん血が出て行く。皮膚が抉られていく……。
『アアアアアアアアアア…………』
そう叫ぶと、化け物は体が溶け、血と人骨となり、追っかけて来なくなった。
「……零士君……。もう追って来なくなったけど……あの幽霊……可哀想な幽霊だった……」
「……? 可哀想な幽霊……?」
「うん……。泣き叫んでた……。責められ、追い詰められてたらしいの……」
「……此処は精神も壊してくるのか……」
零士君はそっと溜め息を吐く。……よく見ると、さっきの化け物がいた所に光ってる物が落ちている。……何かの鍵……。
「ねぇ…あそこに鍵が落ちてる……」
「鍵? ……また血に染まってるな……。あまり触りたくないんだけど……」
そう言って、零士君はそっと鍵を拾う。鍵から血がポトポト垂れていた。鍵にはうさぎのキーホルダーが付いていて、子供部屋と書いている。
「子供部屋の鍵…か。とりあえず行ってみるか。……歩けるか? 歩けるなら少しは歩いた方がいい」
「うん……大丈夫。まだ歩けると思う……」
零士君は私を下ろして、再び肩を貸してくれた。子供部屋……子供の幽霊とかいたりするのかな……。とにかく…行ってみるしかなさそう。……それにしてもさっきの声…もしかして……梨美さんの思いなのかな……? あれが……梨美さんの思い……。あんなにも辛い思いを……?
「沙也加……? どうした?」
「ううん、大丈夫。行こ、零士君」
「……ああ」
……子供の泣き声が聞こえる。一人ばかりじゃない。大勢の子供の泣き声。
「ちっ、何だよ此処……」
俺は舌打ちし、文句を言う。……此処にいると気が狂いそうだ。
『ネェ……オニイサンタチ、ドウシテ此処にイルノ……?』
「!?」
その声に俺は振り返る。そこには一人の男の子の幽霊がいた。
『ネェ……僕達とアソボウヨ』
そう言うと、一気に子供の幽霊が増えた。
「ひっ……!!」
『僕達と……アソボ?』
『オニイサンタチ、アソンデクレルノ?』
『ホント!? アソンデクレルノ!?』
『嬉しいな。ウレシイナ。ズットネ、退屈ダッタンダ』
『タノシマセテネ?』
「ね…ねぇ……何だか……やばくない?」
沙也加が怯え出す。俺も逃げたい気持ちでいっぱいだった。だけど……上手く体が動かない。寧ろ……コ ド モ タ チ ト ア ソ ビ タ イ ト オ モ ッ テ シ マ ウ ン ダ 。
「ソウカ。ワカッタ。遊ぼうか」
「!? 零士君……!?」
「あぁ……沙也加モ、一緒に遊ぼうか」
「い……嫌……来ないで、零士君!!」
「子供達と……アソビタクナイノカ?」
「零士君……!! 子供達の言う“アソビ„の意味、分かってるの!? 殺しという……禁断の“アソビ„なんだよ!?」
『ツカマエタ』
「きゃ!?」
『オネエサンも一緒にアソボウ……ヨ?』
「嫌……私は……」
『ダイジョウブ。遊んでくれたら、子供部屋の場所、教えるから』
「え……?」
『それに、僕達はそんな遊びしないし、お兄さん達を殺さないよ』
『だってお兄さん達は悪い人達じゃないし、僕達は元々、人を殺すために此処にいるんじゃないもん』
「そう……なの……? じゃあ何で……」
『僕達ね、ずっと閉じ込められていたの。でも僕達はもう死んでいて、生きることが出来ないし、此処から出ることも出来なくなった。とても退屈だったの。悲しかったの。最初は僕達で遊んでたんだけど、此処には限られた遊具しかなくて……だんだん飽きて来たんだよね……。再び悲しくなった。お母さんにも会いたかった。お父さんにも……。そう思っていたら、お兄さん達が此処に来たって聞いて……もしかして僕達と同じ状況なのかなって思ったんだけど……違った。お兄さん達はまだ生きてる。そして今、“命を懸けたゲーム„をしていること』
「あっ……」
『脅かしてごめんね。ダイジョウブだから、安心して……?』
「……そうだ。そのゲームをやってるから……此処で死ぬ訳にはいかないんだ……!!」
「……!! 零士君……!! 元に戻ったの!?」
「沙也加……? 元に戻ったとは……」
「……覚えてないの?」
「ああ……」
『ごめんね。あまりにも遊びたくて……お兄さんを少し操っちゃった。お詫びに、子供部屋の場所、教えてあげる!!』
「え……遊んだら教えるんじゃなかったの……?」
『もう十分。これも冗談だったから。楽しかったよ!! じゃあ、子供部屋の場所、教えてあげるね』
「ありがと……?」
『いいよ。ええとね、子供部屋はナースステーションの隣だよ。お花が付いたドア!』
「そうか……。ありがとな」
『ウウン。頑張って……』
そう言うと、子供の霊は消えた。幽霊が俺を操った? 幽霊にそんな力があるのか……? ……っ……操られた影響か……頭が痛てぇ……。
「大丈夫……? 零士君……」
沙也加の心配している様子にはっとする。沙也加を一刻も早く現実の世界に帰さないと……!!
「大丈夫だ。行くぞ」
「……うん」
俺は沙也加を支えながら歩いた。俺のことよりも沙也加だ。沙也加だけでも……現実世界に帰さないといけないんだ。いや、もちろん俺もだけど……。俺よりも状況が酷い沙也加を優先するべきだろう。早く帰して、右足を何とかせねば……。絶対に帰してやるからな、沙也加……!!
『……どうやら子供達はアレデ満足したと』
『いいよ。あの子達は……可哀想な子なんだから……』
梨美は悲しそうな顔で言った。
『……もしかして、少し思い出した……? 君のカコ』
『……少しね。……大丈夫だから』
『……安心出来ないな……』
『そ、そう? でも大丈夫。この思いをアノフタリニ味わせてアゲルンダカラ』
『……どうやってさ』
『ソウネ……いつものやり方はそろそろ飽きて来たから……今回はチガウカタチデ味わせようカナ?』
『それは面白そうだがな……』
『何……? どうしたの?』
『心配なんだ……君の精神』
『え……?』
『あの世界は君の精神みたいな物だからね。見てると……前より状況が悪化してるから……』
『……正直辛い』
『だろうな……』
『でも……このゲームは続けたいと思うの……。貴方と一緒で……タノシイから……』
『……君がそれでいいのなら……ソレデいいが……』
『だから……アノフタリニ私の思いを味わせるの。アハははハハハははは!!!』
『…………』
やはり限界が来てる。梨美の精神はもう…あのゲームを続ける精神じゃない……。そろそろやめた方がいいのかもしれない。……これを最後にした方が……。……だがどうしてだろう。このゲームの終わりは僕達の終わりを告げるみたいで、僕も嫌だった。これを終えたら…僕達は消えてしまいそうで……。離れてしまいそうで……。……梨美がしたがるのは……もしかして、そういう意味なのか……?
『どうしたの、類? 行こっ!! 二人に辛さを味わせるの!!』
『……ああ』
そうだ……。僕は、彼女の傍にいれれば…それでいい。他の奴のことなんか……考えなくていい。梨美の笑顔が…見れればそれでいいんだ。さあ、フタリヨ。梨美のために……その命を捧げよ。梨美以外はどうでもイイ。二人も僕自身も。梨美のタメナラ…僕は何だってするツモリダ。




